BROTHER BATTLE

「おい、純!! みろよ、すげーだろ!!」
「あぁ………まぁ……すごいね……」
 クーラーボックスを持って、はしゃいでいる兄をうろんげな目でチラリと見てから、また参考書に視線を戻した。
 離婚して戻って来た兄と暮らし始めて、もう一ヶ月になる。
 
 それで分かった事といえば「兄は馬鹿だ」ということと、思いのほか、純を思っていてくれている事ぐらいだ。
 中学一年までしか一緒に暮らしていなかったし、歳が離れていたせいで、おぼろげな兄の記憶しかなかった。
 記憶の中の兄は勝手に美化されていて、最初はそのギャップに頭が混乱してしまってばかりいた。最近、ようやく馴れてきたけど。
 なにせ、記憶の中の兄は、机に座って勉強している後ろ姿だけだ。
 たまに、純をみて、笑ってくれたりしたのも覚えているけど、一緒に遊んだ記憶がない。
 喧嘩をした記憶もない。
 
「おい、何ボーッとしてんねんな」
「わっ!!」
 不意に、後から腕が絡まってきて、手に持っていた本をソファーの上に落としてしまった。
「馬鹿、邪魔するなよ。今は前期試験の真っ最中なんだよ」
「何が前期試験や。勉強せんと、単位もとられへんのか?」
 あざ笑うような声が降り掛かって来る。
 苛々する。
 出戻りのくせに。
「うるせー」
 呟いて、参考書を拾い上げた。
 高校生の頃から、リビングで勉強するのが習慣だったから、うっかりしてた。こんな騒がしいやつが居るんだから、リビングでなんか勉強できるわけがない。
「おい、純、待てや」
「……何だよ」
 立ち上がって、ノートと参考書を纏めた腕が、グイッと引かれる。
 溜め息を吐いて、ジーパンにTシャツの兄を見上げた。
 こうして、立って並ぶと、本当に同じ両親から生まれたのか?と疑いたくなる。
 兄は長身で細みだけど、最低限の筋肉が付いている。均整のとれた身体だ。
 それに比べて、自分は、背が低くて、俗に言われる華奢んな体型。
 恨みたくなる。
「俺が持って帰ったもの、見てないだろ。みろよ、純ちゃん」
「っつ……」
 腰に手が回ってきて、自然と身体が震えた。
 何度も、何度も半ば無理強いでそうした行為をした。
 その感触が、一気に身体を駆け巡るからだ。
「なに……」
「腰抱いただけで感じたか?」
 クスクスと笑う声が聞こえる。
 器用に大阪弁と共通語を使い分けられるのが嫌だ。大阪弁の方が多い、兄の口から共通語がもれると、酷く冷たい気がする。
 それがまた、突き放されているような気がして、ダメだ。
 心のどこかで、縋ってしたい気にさせられる。
「ちがう……」
「どこが? ほら、もう涙目だ。
 お前も、いい加減、腹を決めろよ」
「嫌だ……」
 首を振る純の旋毛を眺めて、諦めたように兄は溜め息を吐いた。
「まぁ、いいよ。
 それより、見てみろよ。面白い事、聞いたんだ。お前にお土産だよ」
 嬉しそうな兄はロクな事がない。変なクスリをもらって帰ってきた時も嬉しそうだった。
 こちらは、それで散々泣かされたのに。
「……何?」
「ほら……」
 テーブルの上に置かれている、クーラーボックスに近付いて、中を覗き込んでみた。
 釣り人の持っているボックスのような物の中に、水がたまっている。
「な……に……?」
 中でヌメヌメと泳ぐものを見て、困惑したように眉を寄せた。
「うなぎだね……」
「そう、うなぎ!!」
 そう言われても困る。
「俺は……悪いけど、ウナギって好きじゃないんだけど…」
「蛇みたいで嫌いなんだろ。
 兄弟なんだから、それくらい知ってるよ」
「そう……」
 後ろから抱え込まれるようにされて、一瞬からだが震えた。
 ボックスの中で水が跳ねる。
「友達に面白い事聞いてさ。
 これは、お前用」
 クスクスと兄が笑っている。なんとなく嫌な予感がして、身体をよじった。
 背筋を悪寒が走る。
「っつ……ちよっ……」
 クーラーボックスの中身に集中しすぎていた。
 突然、両手が掴まれて兄の手で1つにまとめられた。
「なっ……何するんだよ……」
 こんな時、力の差は歴然だ。兄の腕力には絶対にかなわない。
 必死で腕に力をこめても、兄は微笑みを浮かべているだけだ。
 純の腰から抜いたベルトで、あっさりと手が括られていっている。
「兄さん……」
 兄の顔を睨み付けた。それでも、薄ら笑いは変わらない。
 タチの悪い笑顔で、純を見下ろしている。
「かわいい純…」
 呟きと共に、ゆっくりと顔が降りてきた。視界ギリギリまで顔を近付けられると、緊張してしまう。
 唇が触れあうか触れないかのギリギリ。緊張感がたまらなくて、背中から汗が滲み出て来る。
 肩が小刻みに震えてしまうのが分かる。
 そして、兄がそんな純を楽しんでいる事も。
「うっ……」
 じっくりと時間をかけて、ようやく唇に柔らかい感触が触れた。
 兄の息と、唾液が溢れて来る。
 唇の中に強引に入って来る。
「はぁ……兄さん……外して」
 兄の袖を握りしめて、両手を突き出した。
「ダメだよ。さぁ、純」
「っつ……」
 身体が押されて、テーブルの上に押さえ付けられる。
 上半身がテーブルに乗せられて、つま先がかろうじて床についている。不安定な体制に、自然と身体が強ばってしまう。
「兄さん……その……やめて欲しいんだけど……」
 兄はクスクスと笑うだけで取り合わない。諦めまじりの溜め息を吐いて、顔を机に擦り付けた。
 兄はこうと言ったら絶対に聞かない所がある。
 だから、駆け落ちなんて真似をしたんだろうけど。
 今は、弟である自分に夢中らしい。弟を構う事に。
 飽きた時は……?
 一瞬浮かんだ考えに首を振って、また身体をよじった。
「兄さん……」
「大丈夫だよ。純。兄さんに任せろよ」
 クスクスと忍び笑いが聞こえる。
 同時に、ズボンの前に手がかかった。
「や……」
 一気に、涼風が足に触れて来る。
 こんな昼間のダイニングで、下肢だけを履かれるなんて…。
「あぁ……や…」
 下着も一気に引きずり下ろされたのか、下半身から不安定なくらいに拘束感が抜けて、落ち着かない。
 自分は、上半身をテーブルに預けていて、見えない事も不安感を助長させていく。
「やっ……兄さんっ…」
 必死で身体をよじった。下敷きになつた腕も痛い。
「純、いまさら、恥ずかしがる事もないだろ。
 もう、何度も見せてもらったからな」
 脳裏に、一気に今までされた色々な事が浮かんで来る。
「あぁ……」
 考えただけで、身体が熱くなって、半身が少しだけ頭をもたげた。
 嫌だ。全部見られている。
 兄の両目で、下半身を剥き出しにして、あんな言葉で反応してしまってからだを。
「ほら、恥ずかしがり屋なのに、恥ずかしい事が大好きだな、純は。
 今日はもっといいことをしてやろうと思ったんだよ。
 お前が、泣いて悦びそうな事」
「な……いや……」
 後ろから顎をとらえて、耳元に息が吹き込まれた。
 身体がゾクゾクする。
「あぁ……や…」
 指が背筋を撫で上げて、そのまま身体の中心に沿うように尻の方まで落ちていく。
 普段触れられない所だけに、変な感じがする。
 くすぐったい。でも、そのゾクゾクする感覚が身体中に響く。
「はぁ……あぁ……」
 指が、後孔でとまって、入り口の襞を掠るようにつついた。
 身体の熱が、どんどんと上がっていく。
 襞が、刺激にザワザワと蠢き始めているのが分かる。
「あっ……」
 不意に濡れた感覚がして、指がスルリと中に進入してきた。クーラーボックスに入っていた水だ。指が、中に入って来る度に、濡れた音がリビングとダイニングに響き渡っている。
「はぁ……苦しい…」
 中からこじ開けられる感覚はなかなかなれない。
 内壁を撫で上げられると、どうしても快感が背筋を走るけど、同時にピリピリとした痛みも脳に突き刺さるように身体中を駆け回る。
「そうだな、お前のいい所はもっと奥だもんな」
 クスクスと笑う声がして、グイっと指が一気に奥まで進入してきた。
「あぁ……だっ……」
 指が、コリコリと探り当てたように意図して一部分を擦りあげると、純の身体が大きく跳ねて口から苦しそうな喘ぎ声が漏れた。
 その一部分を擦られると、辛い。
 身体の許容量以上の快感に襲われて、下半身がバラバラになってしまいそうな気がする。
 頭の中が、熱過ぎて燃えてしまいそうだ。
「やだ……やめっ……」
 頭をテーブルの上に打ち付けた。
 そうしてでも、快感をやりすごさないと。
 身体が溶けていく。
「あぁ、純。無茶するなよ」
 兄の手が、小さい頭を支えて、打ち付けた部分を摩った。
「熱いか?ひやしてやるよ」
「ひぁ……」
 指が引き抜かれて、すぐに今度は後孔に痛みが走った。
「やぁ……イタイっ…いた…」
「ほら、痛いんじゃなくて冷たいんだよ。純」
 身体の中に、何かが入って来る。
 硬くて、異様な感覚に身体がブルブルと震えた。
 冷たい。
「氷だよ。怖がんな」
 髪の毛がかきあげられる。
 兄の顔が見えるけれど、視界がどんどんと涙で歪んでいってしまう。
「はぁ……あぁ……」
 どんどんと、後孔の奥まではいってくる。
 胃にまで来てしまう…。そう思って、身体を震わせた所で、ようやく異物が止まった。
「あぁ……」
 なんだか、中からずっと押し広げられているようで気持が悪い。どうしようもない異物感に身体が支配されてしまう。
「兄さんっ……」
 気持悪い。
 奥がジンジンして、後孔がズチュズチュと音をたてているのが分かる。
「氷だよ、エサ入りの」
 顎を引いて、後方の兄を目で追った。
 言っている意味が分からない。
「な……に……」
 視界に兄が移る同時に、気持悪さに胃が痙攣してしまった。
「あっ……あぁ……ぐっ……」
 必死で目をそらして、込み上げてくる嘔吐間をやり過ごした。
 兄の手が、水に濡れたウナギを掴んでいた。
 ウナギは蛇みたいだ気持悪い。ぬめぬめして。
 食べるなんてもちろん、写真でも見るのが嫌だ。
 魚みたいなのに、顔があって、あげくにあんな色で…。
「し……しまって……ソレ…」
 俯いたまま、必死に言葉を紡いだ。
「お前、本当にウナギとか苦手だな…」
「やだ……気持悪い…吐きそう……」
 クスリと笑う声が聞こえる。
 同時に、妙な感触が後孔に触れた。
「なっ……なに……」
 ズルリと、すごい圧迫力でもって、後孔が押し広げられていく。
「はぁっ……あぁ……」
 手を握りしめて、必死で異物に堪えた。
 じわじわと、下から身体が裂かれていく。
 内膜がビクビクと痙攣して、身体が震えてしまう。
 熱い。どうしようもなく熱い。
 後孔から、ジワジワと熱が広がっていっている。
「あぁ……」
 ぐちゃりと柔らかい感触がして、身体を震わせた。
 何か分からない。
「なっ……なに……」
 後方を見ても、兄の頭しか見えない。
「……ウナギだよ、大嫌いだろう。だから、下から食わせてやろうと思ってな。
 こっちは、好き嫌いがなくて、入れてくれるものなら何でも食い付いてくるからな」
「ひ……」
 身体から、一気に血の気が引いていく。
 あんな物が、自分の身体の中に入っているなんて。
「あぁ……いやだっ……いや……」
 必死で身体をバタ付かせた。されでも、後孔のうなぎはどんどんと奥に入って来る。
 このまま、身体の中に寄生してしまうのでは、と思う程。
「いやっ……いやだ……中に……」
 ウナギも苦しいのか、身体の中でジタバタと暴れ始めた。
 後孔が滅茶苦茶に掻き回されて、前立腺が否応なしに刺激され続けてしまう。
 意識とは関係なく、下半身がどんどんと熱くなっていく。
「いやだ……」
 身体がガクガクと震え始めた。
 気持悪い。
 中で、あのウナギがあばれまわっている。
 黒いからだをくねらせて、腸壁を刺激して回っているんだ。
「痛いっ……いっ……」
 びちびちと音がする程に、中で生物が跳ねて、裂けたような痛みが走った。
 太腿にあたる尻尾が持ち悪い。
 中で、ウナギが呼吸している。
「あぁ……いや……いたい……」
 胃がまた痙攣して、吐き気が込み上げてきた。
「うっ……ぐ……」
「あーあ、血が出てる。かわいそうに」
「ひっ……」
 兄の手が太腿に触れて、流れた血をすくいあげた。それだけでも、性器が震えて、背筋がゾクゾクしてしまう。
「かわいいよ、尻尾みたいだ。
 お前にも見せてやりたいな、ここからウナギ生やして、喘いでいる姿」
 耳元に、クスクスと笑う声がかきこえる。
「いやだっ……あぁ……」
「そんなに嫌か? ほら、泣き過ぎると目が溶けるぞ」
 兄が、指で頬の涙をすくって、ペロリと舐めた。
「ヒ……」
 ヌメヌメとした音が響いて、ウナギが最後の力を振り絞るように動き始めた。
「あぁ……」
 尻に、滅茶苦茶にウナギの尻尾が当る。
 痛いし、触れた部分が気持悪い。
 でも、それ異常に、後孔の妙な感覚に身体が興奮していっている。中から強引に押し広げられて、ランダムに擦り上げられると、どうしても射精感が高まっていく。
「あぁ……裂けるっ……」
 顔をテーブルに擦り付けて、快感を我慢した。
 それでも、広がり切った襞がウズウズと疼いている。
「すごい、痙攣してるな、お前の中」
「ひっ……」
 兄の指が、敏感な内膜に触れてきた。身体がどうしようみなく震えて、息が出来ない。
 苦しい。
 快感が大きすぎる。
 頭の中が、それで一杯になっている。
「あぁっ……」
 身体がガクガクと震えて、テーブルの上に白濁とした液体が飛び散った。
 熱い……。
「はぁ……あぁ……」
 太腿が痙攣して、ビクビクと体内の異物を締め付けてしまう。
 気持悪い。
「あぁ……」
「どうだ、気持わかったろ?下で食うウナギは」
 クスクスと兄が笑って、後孔からズルリと異物が引き抜かれた。
 ヌメヌメとした物が糸を引いていて気持悪い。
 吐きそうだ。
 中に、あんな物がはいっていたなんて…。
「ひどい……」
「はぁ?」
 また、クーラーボックスを開けて、純の見えない所にソレを隠している。
「兄さんだよ……ひどい……」
 兄の顔が困惑したように歪んでから、しょうがないなぁというように笑った。
「はいはい、酷いですよ。お詫びに身体を洗わせて下さいね」
 両手が差し伸べられて、身体が抱え上げられる。
 兄との体格差は、こういう時には便利だけど…。
「ひどい……どうして……あんな……」
 呟いて、兄の肩口に顔を埋めた。
 今でも、考えたら吐きそうだ。気持悪い。
 早く、洗い流したい。
「酷いのは、お前だからだよ。ちょっとした悪戯」
 クスクスと兄が笑っている。
「なんで?俺は何もしてないだろ」
 おかしそうに笑う兄の顔が見える。何も心当たりはない。
 どちらかというと、こちらが仕返ししたいくらいだ。
「お前はセコイからだよ。
 ちっちゃかったから、俺と共有した時間も、殆ど忘れてるだろ。それが、セコイんだ。俺ばっかり覚えてて、寂しいだろ」
「っつ……そんなの、八つ当たりじゃん」
 兄の顔が、額が、額に押し付けられる。整った顔がここまで近付くと、どきどきしてしまう。
「たまには、お兄ちゃんの八つ当たりも受けとめろよ」
「たまじゃないだろ……」
 また、兄がクスクスと笑った。
「さて、しょーがないな、俺の弟君は。
 せいぜい奉公さしてもらうから、俺の事、好きになってや」
 顔が赤くなる。
 兄を睨み付けてから、首筋に腕を絡めた。
 
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