「REAL OF LIFE」 

「どこに行くつもりだ。透輝」
背後から、低い大人の男の声が聞こえる。透輝は抱えていた靴に爪を食い込ませて、ゆっくりと
後ろを振り返った。
「あっ・・・、高原さん・・」
振り返った先には、当然のごとく、リビングからもれた光を背中に受けて立つ高原のシルエット
が浮かび上がっていた。

 木原透輝が高原に引き取られてから、はや3カ月。木原家の負債の代償として引き取られたにし
ても、透輝はそれなりに高原と理解しあい、まあまあLOVELOVEの生活を営んでいた。
 恋人同志になってみれば、出会いのきっかけなんて問題じゃない。
 高原は大会社の跡取りで、超広い家に二人っきりだ。(お手伝いさん除く)
 引き取られる時に高校も辞めたから、一日中透輝は家でゴロゴロだ。
 もう毎日がハネムーンってなもんだろう。

 しかし、今、そのLOVELOVEなはずの二人は、だだっ広い家の廊下で、窓を背にして固まっている。
「どこに行くつもりだと聞いたんだよ、透輝」
 高原の低い声が響く。夜中だから、特にそう感じるのか、小さくなっていた体を、透輝はさらに
縮こまらせた。
「どこにって・・・、だって・・・」
「どこにって聴いてるんだよ」
 透輝の白く細い顎に高原の指がかかる。
 その指が触れると同時に、透輝は身をすくませた。
「あっ・・・・」
 高原の指が頬を伝って滑る。ひどく官能を連想させる、その動きに透輝はひざを震わせた。
「だって・・・・、ヘンなんだよ・・。身体が・・。なんだか、暑くって。
 だから、風に当たりたくて・・・・」
 腰を抱かれる。膝が崩れる、ギリギリのところで、高原の胸元にもたれこんだ。
「どうして・・・。暑いんだ・・・」
 透輝のうわ言めいた口調に、高原は喉の奥で、クッと笑った。
 耳もとに直接的に息がかかる。透輝は細い身体を震わせて、高原のシャツを握った。
「だめじゃないか・・。効いてないのかと思っただろう」
 ククっと笑いながら、耳に吹き込まれる声。
 意味を・・・、と考えてもどうしても、透輝の頭はもう、回りそうにない。

 揺れている・・。床が? いや、自分が。
 透輝は肩にかかる軽い衝撃で意識が突然、復活した。
「あっ、高原さん!」
 自分に覆いかぶさる影と、背後のシーツに動揺しながら、影の名前を呼んだ。
「どういうことですか!!高原さん!」
「どういうって、見たまんまだろう。この前、NYに行った時に 向こうの支社長が面白いものをくれた
 から早速試してみただけだ」
 恋人の言葉に顔面蒼白になる。面白いもの・・・。
「なんでも、日本にはないそうだからな。お前もじっくり堪能しとけ」
 ニヤニヤと唇に薄い笑いを浮かべた恋人が短パンのしたから指を入れてくる。
 常なら、どってことない行為なのに、触れたところから波が生まれるように肌の下がざわついて、
力が抜けていく。
「待って下さいっ!!それって、どういう・・・・」
「いつまでも、うるさいぞ。勝手に出ようとした罰もあるんだぞ。忘れてるんじゃあないだろうな」
 ザワザワとうごめくような肌の感覚に、透輝は指を咬んだ。そうでもしないと、とにかく、感覚だ
けが暴走しそうだ。 じわじわと慣れた手付きで、高原の指が透輝の太ももの上を這い回る。
「っつ・・・!」
 普通に、撫でているだけなのに、ザワザワとした感覚は更にひどくなってく。
 多分、クスリの類いだろうと、透輝の頭の中に浮かんだ。
 高原はそう言った類いがひどく好きで、前にも使われた事が有る。
 感覚的にそれに酷似している。否、今回の方が、強烈に突き上げるような急迫感が有るだけ
ひどい・・・。
「ひっ・・、ひっ・・」
 やわやわと、短パンの下から差し込まれた高原の指が、尻の丸みを行ったり来たりした。
快感に変更される信号がキツすぎて、喉の奥にくぐもったような声しか出ない。
 喉が焼け付いて、引き攣りそうだ。
「たしかに、効果はすごいみたいだな」
 つぶやきながら、透輝の顔を上向かせた。
「っつ・・・・」
 瞳孔が開ききって、クスリのせいか、涙がとめどなく溢れている。
 ヒッヒッという息遣いに喉が忙しなく上下する。
「やぁっ!!っう・・・」
 ノックするように、高原の指が透輝の後庭に触れた。
「っぐ・・・」
 すっかり、快感を後ろで得るようになっている身体が暴走する。
 もっと奥まで誘い込もうと、襞が収縮するのが分かる。
 ズブズブと、高原の指が体内に侵入してきた。
「はあっ・・・・」
 すがりついて、握りしめていた指に、一層力がこもる。
「さすが、もう濡れてるな。グチュグチュだ」
 耳元に響く。
 同時に、身体に穴が空く感じに襲われる。
「ひっ!ひっ!」
 突き立てた2本の指に、限界まで広げられている。その、たまらない空虚感に、透輝は高原に
縋り付いた。
「ダッ・・・、ダメッ・・・・!!早くッ!!」
 グッと、喉の奥を鳴らして、腰を擦り付ける。
「相変わらず、堪え性がない」
 ククッと喉の奥で笑う声が耳もとに響く。
 どうでもいいから、とにかく身体を鎮めたい。とうに、鎮め方を学んでしまった身体では、その
方法以外、もう考えられない。
「はやっく!!」
 切羽つまった声と同時に、身体に慣れた感覚が、肌に触れた。
「あっ・・・」
 熱い・・・、と思うと同時に、身体に衝撃が走る。
「ひっ!!ひっ・・・・」
 口を食いしばる事も、閉じる事もかなわない。とにかく、下から突き上げる感覚が身体を支配する。
 襞をずるずると擦っていく感覚に、目の前に赤や黄色が点滅して見える。
「はぁっ!!」
 圧迫感が増した。
「透輝、すごいな。したたってるじやないか」
 朦朧とする。更に、指を突き立てられ、出来た隙間から体液が滴り落ちる。
「だっ!!だめっ!!」
 背中を跳ねさせてのたうちまわった。とにかく、気持ちが悪い。注挿されるたびに、差し込まれた指
をつたって、液体が滴り落ちる感覚が、脳に響く。
「ヒッ・・・ヒッ・・・」
「カワイイよ。透輝・・・」
 耳もとで、囁かれる声に、意識が一瞬、明白になった。
「ああっ!!ダメッ!」
 身体が弾けるような快感が襲う。同時に、体内に打ち付けられる飛沫を感じて、透輝は意識を手放した。




「ひどい・・・・。信じらんない」
 クッションを抱え込む。
 すっかり、ヨレヨレになったシーツの上で、透輝は膝をかかえて、高原を睨み付けた。
「ああゆうのはやめようって、前に言ったじゃん。ひどいよ・・・」
 再び涙目になった透輝に、ベッドに腰を掛ける形で向いに座っている高原は困ったように苦笑した。
「泣くなよ。透輝がカワイイからだよ」
 優しい手付きで、高原の指が肩を撫でる。
 相変わらずの、短パンにTシャツ姿の透輝はすっかり兎目になった大きな瞳で、クリンと恋人を見つめた。
「そんな事言ったって・・。ヒドいよー」
「悪かったって。それじゃあ、本当にもうしないと誓おう」
 高原に差し出された指に、透輝はグズりつつ、小指をからめた。
「なっ、約束だ。これでいいだろ」
 甘い微笑みに、照れたように透輝はコクンとうなずいた。
「うん。絶対だよ」
「モチロンだ。
 さて、じゃあ、おわびに私がシャワーに入れてあげよう」
 嬉しそうに囁いて、か細い情人の身体を抱き上げた。
 軽く睨みつつも、照れている表情のかわいさに、高原の笑顔も締まりがなくなる。
「シャワーで、変な事しちゃ嫌だよ」
「もう、何もしないよ」
 クスクスと囁く透輝の耳もとに息を吹き込みつつ、高原は囁いた。
 恋人の思惑など知らないかわいい情人は、その腕のなかで、安堵したように、ため息をついた。

「REAL OF LIFE」  19990826   UP 
 


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