「SUMMER TIME」 

「もう、嫌だよ!! 高原さん、ヒドイ!!」
 抜けるような青い空。キラキラと輝く砂浜。照りつける太陽。
 その全てを白い肌に浴びながら透輝はグスグスと、さんかく座りをした膝に
顔をうめた。
「ホラ、悪かったと言ってるだろうるだから、機嫌を直しなさい」
 高原の指が優しく透輝の前髪を梳く。しゃがみこんだ透輝にあわせて、高原
は向かい合う形で座っている。
「せっかく旅行にきたんだから。二人で旅行なんて初めてだろ」
 透輝はぐずりながらも顔を上げた。
「でも・・・」
「いいじゃないか。どうせ、この島には私と透輝しかいないんだから。
 どれだけ乱れたって私しか見てないんだから・・・」
 高原の言葉に一層顔を赤らめて、透輝は再び顔を膝の間に埋めた。
「高原さんってデリカシーない・・・。
 もう、ヤダ・・」
 自分の言った言葉に顔をうつむけたしまった恋人を、高原はムッとした目で
見返す。
「コラ、透輝。もうヤダ、とは何だ。
 ホラ、夕食も用意したから早くきなさい」
 グイっと高原は透輝の腕を引っ張った。 普段であれば、透輝を引き上げるのに
充分な力。
 しかし、同じ力で引きかえされた。
「絶対にヤダ。高原さんとはしばらく一緒にいない!!」
 細い透輝が、必死で力を込めて高原の手を引き剥がそうとする。
「いつまでも我が儘を言うんじゃない。 透輝がどこかに行きたいって言うから来た
んだろう。ホラ、一緒に夕食、食べよう。な?」
 普段はめったに見せないような優し気な顔。
 それこそ、部下が聞いたら卒倒するような口ぶりで高原は透輝を覗き込んだ。
 何と言ったって、最愛の恋人だ。いくら、短気な高原といえど、やはり、恋人は
別格扱いで当然だ。
 相変わらず、唇を噛み締めたままの透輝をじっと覗き込んだ。
 表情は固いけど、本気で怒ってるわけではないようだ。
 だったら、事は簡単。
 優しくして、御機嫌をとって、甘やかせてやれば簡単に普段の素直な透輝に戻る
だろう。
「なっ。私も悪かったから」
 肩を抱いて歩こうと、軽く肩に手をやった。
 普段、家ではできないし、だからと言って、透輝を街中に連れ出す程酔狂でもない
から、普段は肩をくんだことなんてない。
 肩に置く手に少しだけ力を込めた。
「やっぱり、絶対嫌だ!!」
 バシィっと言う音とともに、高原の手が透輝の肩から滑り落ちた。
「っつ・・・」
 不意打ちで、手の甲を思いきりはたかれた高原が、呻いた。
「あっ・・・」
 透輝が自分のした事に驚いたように呆然と高原を見る。
「透輝、いい加減にしなさい!!いつまで、ぐずぐずとすねてるんだ!!
 せっかく、旅行に来てるんだから、機嫌を直しなさい!!」
 透輝のか細い左腕を掴んだ高原の怒鳴り声が響いた。
 海の水面も震えるんではないかという怒鳴り声にね透輝は首をすくめる。
 しかし、伊達に1年近くもずっと一緒に住んでいない。
 怒鳴られる事への恐怖感はあっても、言い返すだけの余裕はできている。
「だって、高原さんが悪いんじゃん!!
 せっかく、旅行に来てるのに!!」
「だから、その事については謝っただろ!!」
 握られている左腕に一層、力が加わる。
「いたいっ!!」
「いつからそんな我が儘ばかり言うようになったんだ!!
 いい加減にしなさい!!」
 高原の言葉に、ムッとしたように透輝が眉を潜める。
「我が儘じゃないよ!!当然のことだろっ!!」
 透輝の小生意気な表情に煽られたように、高原の力が強まる。
「お前は私が買ったモノだろう!!そもそも、そんな事言う権利など、ないだろ!!」
 高原の言い分に、透輝はグッと押し黙った。
 確かに、そうかもしれないけど、毎夜のごとく、耳もとで睦言を囁かれていては、そん
なのはもう時候かなと勘違いしてしまう。
 眉を顰めて、透輝は高原を睨み付けた。
 途端にガシッと高原にきつく顎を鷲掴みにされる。
「なんだい。その目は。
 やはり、ここらでいい機会として、君の立場を再認識した方がよさそうだね」
 薄く笑う、高原の笑顔に背筋がゾクゾクした。
 こんな顔はロクな事を考えていないのだ。
「まっ・・・待ってよ高原さん・・」
 透輝の腕を掴んだままの高原にね引きずられる形で、透輝は強引にコテージに連れ戻された。

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