・DOLL・

 人形が好きだ。
 男のくせに・・とか、女々しいとかよく言われる。だけど、フランス人形でも、
市松人形でも、綺麗でかわいい彼等を見ていると、心が洗われるような気がする。
 現実社会の人間関係なんて、どうでもいいような気がする。
 
 だから、俺はいつも、嫌なことがあるとついつい人形を買ってしまう。
 そのせいで、いまや、俺の部屋は人形専用の棚が出来てしまった。
 一人暮らしの、しがない塾講師の男の部屋が人形でうまっているなんて、ゾッと
しない・・。
 
「さて、君はどこに居たい?」
 腕の中で微笑んでいる、かわいらしい少年。今日買って来たばかりの人形に話し
かけた。
 近所のアンティークショップで発見したなかなかの掘り出し物だ。薄給では、と
てもじゃないがプレミアのつくような高い人形は買えない。
 だから、だいたいいつも、顔で選んでいるわけだけど、ひときわ今日のは成功だ。
「あいつに振られて、よかったのかもね・・。何といっても君に会えたから」
 少年の人形を、一部屋とかない家の殆どをしめているサイドボードの上に立たせ
た。貧相な部屋には申し訳ないけれど、一等席だ。

 今日は、1年間付き合っていた男に振られた。
 もとは塾の生徒で、そもそもは向こうから言い寄って来たのに、受験が終わって、
大学に入学して環境が変わった途端に見捨てられた。
 やっぱり、かわいい女の子と付き合う方がいい・・とか言う分かり切ったような
理由だ。
 こんな事は、別に始めてじゃない。
 
「でも、いいんだよ。いつか、俺に会う人が現れてくれると信じてるからね・・」
 かわいらしい人形の頬を撫でた。
 大きな瞳に見つめられる。それが、生徒だったころのあいつをおもいださせる。

 もう、今日は何もする気がおこらない。
 そのまま、眠気に誘われるままに、俺は布団の上で目蓋を閉じた。


 頬が痛い・・・。
「おい、起きろ」
 パンッパンッという音がする。
 身体が重い。
「起きろ。いつまで寝てるんだよ」
 音と共に、頬に痛みが走る。
 どうやら、上にのしかかって、頬を叩かれているらしい。
 ずっと一人暮らしで、合鍵をあずけているような親しい知人もいない・・。
 一瞬身体がすくんだ。
「起きろって言ってるだろ」
「いたっ!!」
 グイッと頬をつねられた。
 激痛に、嫌がおうにも目が開かれる。
「ああ、やっと起きたな。ずっと寝たままだから、いつまで待たされるかとヒヤヒヤ
した」 
 ニヤニヤと笑う青年が、まっ先に瞳に飛び込んだ。
 それも、見た覚えのない人物だ。
 奇妙な服を着て、ドンと俺の上にのしかかっている。
「あの・・・」
 壁掛け時計はまだ、夜中の2時を差していた。
 真夜中だ。そんな真夜中に、全く、見たこともない青年が、どうして俺の部屋にい
るんだろう・・。
 冴えない頭で必死に考えるけど、全くもって答えが出てこない。
 身体を押さえ付けるように、上に乗られていて、重たい。
「君は・・どうして・・・」
 色々な可能性が頭を回ってしまう。
 泥棒、変質者、酔っぱらい・・・・
「何をびっくりしてるんだよ」
 上に乗っている男がおかしそうに笑った。
   気味が悪い・・・。
「何なんだよ。お前!!」
 とりあえず、俺の上に乗っている青年を振り落とすべく、腕を回した。
 この現状から脱するのが先決だ。
 彼と俺では一回り近くも体格に差がある。
 そんなのに、押さえ込まれていては、絶対的に不利だ。
「どけよっ」
「何だよ、つめたいなぁ・・・俺を買ったのは自分のクセに・・」
「は・・・?」
 一瞬、言葉に目の前が真っ白になる。
 買った・・って人を買うって・・。
 全くもって、そんなことをした憶えがない。
「俺の役目は買った人間の心の隙間を埋めることなんだよ」
 ニッコリと笑って、青年は顔を近付けてきた。
 そのコピーは・・・・。今日買った人形についていたものだ。
 金髪の、少し長めの髪の毛に青い目の人形・・・。
「君・・・」
 思いついた連想ゲームに背筋が震える。
 目の前の青年も、人形と全く同じ外見。それに、よく見ると、どこかの貴公子みた
いな格好まで一緒だ。
「そう。分かった?俺の次のオーナーはあんただ。
 俺の役目はあんたの心の空虚を埋めること」
 呆然とする。
 現実だろうか。夢だとしか思えない。人形が人間に・・?
 そう思っている間に、どんどんと青年は顔を近付けてきた。
「何、ぼうっとしてるんだよ」
 青い目が近付いてくる。
 と、同時に唇に何か柔らかいものが触れた。
 目の前の、青年の唇だ。
「なっ・・」
 間をあけずに強引に唇がこじ開けられた。
「んっ・・」
 ねっとりとしたモノが口腔へ進入してきた。
 必死で顔を背けようとするけれど、がっちりとアゴをつかまれていて、どうしよう
もできない。
 突然のことに、頭がばうっとする。
 口を閉じることもできない。
 舌が、普通の人よりもネバネバとしている気がする。
「あっ・・・ぐっ・・・」
 強引に、大量のだ液が流し込まれた。溢れだした分があごを伝って流れていく。
「あっ・・くっ・・」
 糸を引きながら、青年の唇が離れた。
「お前っ!!」
 やっとアゴを解放される。
 グッと腕を振り上げて殴ろうとすると、腕を掴まれた。
 とんでもない力でねじあげられる。

「っつ!!」
「俺に手をあげるつもりか?自分で買っておいて・・・」
 青年はフワフワのレースにまとわれた襟のリボンを引き抜いた。
 青い目が、据わって、怒りに輝いている。
「いたっ!!」
 グイっと腕を掴まれて、引き起こされた。
 右手を引っ張りおこされ、右足首と右手首を一緒に手のひらでにぎりこまれる。
「いたいっ!!・・・っつ!!」
 動かそうとする間もなく、リボンでがっちりと括られた。
 括られた手のせいで、妙な三角座りで布団の上に起き上がるしかない。
「何するんだっ!!」
 ベトベトとする口のまわりを左手でぬぐった。
「何って、当然のことだよ。俺はそのために作られた人形なんだから。
 男のオーナーは久し振りだけど。
 でもアンタは大丈夫でよな。オトコの臭いがプンプンするぜ」
 整ったか顔が酷薄に笑う。
 ゾッとする。
 そういった意図で作られた人形?
 そんなの、知らない・・・。
「ホラ、ちゃっちゃっとするぜ」
「なっ・・!!」
 不自然な体制で手が括られているせいで、後ろにさがっていくぐらいしか身動きが
とれない。
 動揺している間に、青年の手が伸びてきて、Tシャツの襟首を掴まれた。
「っひ・・・」
 ビリッと大きな音がして、両方に裂かれる。
 俺より体格はあるが、そんなに力があるわけではなさそうなのに、無表情なまま、
いとも簡単に布を引き裂いた。
「あっ・・・・」
 寝惚けている訳ではない・・・。
 その事実が眼前につきたてられて、身体に震えが走った。
 目の前の青年が逃げなくてはいけない。
 なんとか、立ち上がろうとするけれど、右手首と右足首が括られているせいで立ち
上がれない。
「っつ・・・」
 少しずつ後ずさっていっている俺の足首が、ガシっと掴まれた。
 青年の青い瞳がらんらんとかがやいている。
 そのまま、ズリズリと畳をすって、青年のそばへと引戻された。
「逃げられる訳がないだろう。
 あんた、オトコがすきなんだろう。だったら、好都合なんじゃねーの?」
 クスクスと笑っう青年の顔が近付いてくる。
 強引に、顎をつかまれて、口がふさがれた。
 同時に、バリバリと音がして、下肢にひんやりとした空気がふれる。
 青年が、強引に俺のズボンと下着をずり下ろしたのだ。
「ひっ!!」
 括られた右手首のところで、ズボンと下着がまとまっている。
 無防備にさらされた下肢のせいで、恐怖に背筋がすくみ上がった。
 

 

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