封書

最初は、ほんのちょっとした好奇心だった。

偶然にも郵便受けに、隣当ての封書が入っていたから。

郵便物を取りだした、その場で気付けば、すぐに隣の郵便受けに入れていただろうけれど。ワンルームマンションの自室まで、持って上がって、夕刊を読もうと思ったときに、気付いた。

 

今から、わざわざ一階の郵便受けにまで入れに行くのも面倒くさい。

また、明日、出勤するときに入れておけばいいか…。

最初はそう思ったのだが…。

 

夕食を食べ、風呂からもあがって、これといって面白いテレビ番組が見つからなかったときに、ふと、その封筒が目についた。

 

かっちりとした、綺麗な楷書体で、丁寧に「安部 彰彦様」と書かれている。そういえば、隣家の住人は、そんな名前だっただろうか。

何度かみかけたことがあるが、金髪にそめた髪の毛に、だらしがない格好でいつも、寝起きのような風貌だ。きっと、三流大学の大学生だろう、と思っていた。

それに、頻繁に女を連れ込んできているようだ。

ごく、まれに、「ソレ」と分かる男女の声が漏れ聞こえてくることがある。

 

そのたびに、隣家の男の顔が浮かんで、腹立たしいような。かすかな敗北感を感じていた。

 

だから、そんな男に、今時、こんなきちんとした文字を書く人間から、封書が届く、というのが意外に感じられた。

それに、裏返すと、ごく近い住所に、「天草 充」という名前がかかれている。

しかも、封筒は、限界まで膨らんで、90円切手が貼られていた。

 

こんなにも分厚い封筒の中身は、何なのだろうか……。

 

少し、躊躇した。しかし、隣家の住人の、金髪に見え隠れするたちの悪そうな顔を思い浮かべると、もやもやとした気持ちも、払拭された。

 

自然とペーパーナイフを手にとって、分厚い茶封筒の、封を切った。

 

中からは、便箋5枚程度と、住友銀行の封筒が出てきた。

 

便箋には、びっちりと横書きで、キレイな楷書体が並んでいる。読みやすく、整った字だ。

人間性というのは、字から分かる。

自分は、今、会社内で人事担当をしているけれど、入社募集に応募してくる履歴書を見れば、大抵の人間性というのは、「字」で分かる。

履歴書で、まず一番に見るところといえば、「字が丁寧にかかれているか、どうか」だ。たとえ、きたなくても、「トメ・ハネ」のキレイに、丁寧に書かれているものしかみない。

字を雑に書く人間は、人としてもいい加減であることが多い。

 

だから、きっと、こんな字の履歴書が届いたら、真っ先に見るだろうな…と思った。

それに、封筒の中から、銀行の封筒がでてきたのも意外だった。

このせいもあって、封筒は膨らんでいたのだろう。

銀行の封筒の中をみると、3万円が入っていた。

 

これは、きっと、何か訳ありに違いない……。

 

もはや、罪悪感はすっかり消え失せていた。

 

ワクワクとした気持ちで、5枚の便箋をもって、ソファに腰を落とした。

 

「拝啓 突然、こんな手紙を送って、申し訳ないと思っています。私は、A大学の数学科のの助手です。天草 充といいます。名前を言っても、私が誰だか分からないかも知れない。先日、5月7日の、午後に、君に、トイレで迫った者だ、といえば、分かってもらえるだろうか。正確には、迫ったというつもりはなくて、私はてっきり、君の方から私に迫ってきたのだと思いこんでしまっていました。「迫る」という言葉は正しくないかもしれない。君が、私に話しかけてきたから、私は、同好なのかとすっかり勘違いしてしまったのです…」

こういう書き出しで始まっていた手紙内容は、大変に興味深いものだった。

 

5枚もの便箋にびっちりとかかれていた内容は、言い訳と、謝罪と、懇願がまじっていて、「天草 充」氏が、まだ、混乱の中にいることが、よく読み取れた。

 

どうも、この、「天草 充」氏は隣家の「安部 彰彦」が通っている大学の講師らしい。A大学といえば、三流もいいところ。名前が書ければ入れる、と言われているような大学だ。きっと、金持ちのボンボンなのだろう。ただ、私には、「安部 彰彦」のことはどうでもよかった。手紙を読み終えた今、ひどく興味を引かれているのは、むしろ、「天草 充」に対して、だった。

手紙内容を要約すると、どうも、5月7日に、トイレで小便をしていた「天草 充」の性器を、偶然にも隣に立って小便をした「安部 彰彦」が覗き込んで、わいせつな言葉でからかったらしい。

きっと、「安部 彰彦」にとっては、軽いジョークのつもりだったのだろう。

相手が講師だとは思っていなかったのかも知れない。それに、手紙内容から察するに、気が弱そうな「天草 充」の事をからかうつもりだったのだろう。

 

それを、運悪く、というか。軽はずみにも、「天草 充」は誘惑の言葉だとおもったらしい。

 

つまり、「天草 充」は同性に性欲を感じる質らしい。

 

「天草 充」氏は、「安部 彰彦」に誘惑された、と勘違いして、逆に迫った。

それも、かなり強烈に迫ったようだ。

便箋に、何度も「私があのときに君に言った言葉は、どうか内密にしてくれ」という内容のことが、何度も何度も繰り言のように書かれていた。

 

もしかしたら、「尿を飲ませろ」とでも言ったのかも知れない。

 

ところが、「安部 彰彦」はそんな気は毛頭なかったのだ。

本当に、ただのジョークだったのだ。

性的な意味はなかった。

 

「天草 充」がそのことに気付いたときには、もう遅かった。

「安部 彰彦」に拒否されて、殴られ、蹴られて、「ヘンタイ」と吐き捨てるように言われ、立ち去られた。

 

そこで「天草 充」は焦った。

自分は大学の講師だ。生徒に手を出すなんて、とんでもない。しかも、女生徒ではなくて、男子生徒に迫ったのだ。

このことを、大学でいわれてしまっては、「天草 充」は当然に解雇されるであろう。

しかも、同性愛者というレッテルまで貼られてしまう。

手紙には、「天草 充」がどんなに苦労して、今の職に就いたのか。また、今の仕事をどんなに大切と思っているか、が切々と書かれていた。

 

そうして、最後に、トイレで偶然に出くわした「安部 彰彦」の事を、学生名簿でしらべて、手紙を送ったということを書いていた。また、詫びとして、どうか同封の心付けで勘弁してほしい、と書かれていた。

 

手紙はなかなかに読み応えがあり、楽しい物だった。

 

そうして、この、「天草 充」氏というのは、本当に馬鹿だ、とおもった。

 

こんな事をしては、余計にたかられてしまうのが関の山だろう。放っておけば、「安部 彰彦」のような人間は、そんなことは忘れていく。

彼の中では、どうせ「気持ちが悪い奴に迫られた」程度で終わっているだろう。

 

それを、あえて、「自分は大学講師です」とつげて、金を送ってよこすなんて。

 

余程焦っていたにしても、軽率、この上ない。

 

そこで、私は面白い考えが浮かんだ。

 

この、「天草 充」というのは、どういう人間なのだろうか…と思ったのだ。

そこで、私に、悪巧みが働いた。

 

この、「安部 彰彦」になりすまそうか…と思ったのだ。

それは、きっと楽しいことに違いない、と思った。引き出しから、便箋を取りだした。

さぁ、悪いことをするぞ…と思うと、気持ちがどうしようもなく高揚した。

こんな気持ちになったのは久しぶりだった。

 

「天草 充」は、きっとヘンタイに違いない。

さて、どんな事をしてやろう…。

とりあえずは、便箋に文字を並べた。

 

「わびることはない。あのときは、自分も動揺して、随分とひどいことをしてしまった。逆に、自分の方からわびたい。よくよく考えると、貴方は魅力的な人だ。今となって考えると、惜しいことをした。よければ、また会いたい。それに、わびる必要がないのだから、3万円も返させて貰う。自分たちの間に、金銭の授受は必要ないだろう。

 ただ、大学では直接、声をかけられては困る。先生から声を掛けられたりしたら、きっと友達は不審がるだろう。それは、貴方も同じだろう。だから、たとえ、2人きりの時に自分を見かけても、声は掛けないでいてほしい。しかし、封書でやりとりをしていたのではまどろっこしい。自分の携帯番号と、携帯のアドレスを書いておくので、これからはそちらに連絡をして欲しい」

 

そういった旨の事をしたためた。

封筒の裏にあった住所を宛名として、手紙を作った。

 

これを、明日、会社に行くときに投函しておこう。

きっと、「天草 充」氏から、連絡があるに違いない。

 

そのときが楽しみになった。

 

私はソファから立ち上がって、封筒をカバンに入れた。

ベランダの外には暗い空とネオンが広がっていた。

広がっている暗い空は、どこまでもつづいて、どこかで「天草 充」氏につながっているに違いない。そうして、可能性は無限に広がっているのだ。

その日の夜は、気持ちが高揚して、なかなか寝付けなかった。

こんなことは、久しぶりだった。

 

 

「天草 充」からの連絡は、すぐにあった。

手紙がとどいて、すぐに読み、安堵したのだろう。

 

携帯電話のメッセージが、録音されていた。

「天草です。手紙を読みました。君が気にしていないと分かって、安心しました。よかったら、君からも連絡がほしいです。この番号が、自分の番号だから……」

声から想像するに、神経質そうで、か細かった。

いかにも、数学の研究者。それも、まだ未熟な、というイメージにぴったりと合っていた。

私は、早速、仕事の合間に、折り返しの電話をした。

「天草 充」は電話を待っていたのだろう。呼び出し音が鳴ると、すぐに「もしもし」という声が聞こえた。

「天草です。安部くんですか?

「はい」

「僕も、会いたい、と思っていたんだ。この前は本当にごめん。

そうだよね…急にあんな風に言ったら、引くよね…」

詳しいことは分からないので、適当に、あぁ、とか言っておいた。

「どこなら、会えるかな? 大学の近くは駄目だよね……」

「じゃあ、家ならどうかな…。俺の家なんかどうだろう」

「天草 充」氏は、私が「安部 彰彦」だと、信じて疑わないようだった。

あせっていて。それは、まるで、枯渇していた者に水分を与えたときのようで。

愉快だった。

「安部くんの家かい? この前、手紙を送った…。あの住所の?

「いや……先生、この前の手紙は、部屋番号を間違えていましたよ。俺の部屋は隣です。606号室です。ワンルームマンションだから、どの家も、ネームプレートをだしていないけど…」

「え……そうだったのか…。じゃあ、名簿が間違えていたんだね。

 僕が、君の家まで行けばいいのかな」

「そうですね……。だけど、ただ待ち合わせをするだけというのは、面白くないと思いませんか? どうせだったら、変わったことをしてみたいです。

 鍵をあけておくので、先生が部屋に入って、俺を待っていてください。

 そうだな、目隠しなんかしてもらっていると、嬉しいな」

私の言葉に、一瞬、戸惑ったのか、少し間があいた。

「……そ…そうだね……。普通じゃ、面白くないよね……。

 僕のそんなところまで、考慮してくれて…嬉しいよ……。目隠しをして待っておけばいいんだね?

「はい。じゃあ、早速、明日なんかどうですか? 俺は、バイトが八時に上がるので、九時までには帰れると思います」

「うん。うん…。じゃあ、明日、九時前に、君の部屋でまっていたらいいんだね」

「はい、お願いします」

「じゃあ、また明日……」

 

面白いように、事が運んだ。

携帯のボタンを押して、画面が暗くなると、笑いが芯からこみ上げてきた。

「なんだよ……藤堂? どうかしたのか?

隣席にいた同僚が、声を押し殺して笑う自分を、覗き込んできた。

「いや、なんでもない……。ただ、おかしいことがあって……」

「なんだよ、気持ち悪い奴だな…」

同僚は不可思議そうにチラリとこちらをみた。

笑いはなかなか収まらなくて、「こんなに愉快な事は、またとない」と何度も思った。

 

 

翌日は、仕事中もずっと「天草 充」の事を考えていた。

前夜に、A大学のホームページで、調べてみた。

「天草 充」は数学科の助手だった。まだ若そうな顔写真が載っていた。

想像していたよりも美形だったけれど、繊細そうで、控えめそうだった。こんな顔をしている人間が、「ヘンタイ」なのか…。と思うと、「世の中は分からないな…」とおもいつつ、珈琲をすすった。

そうして、同時に、この人間を好きに出来るんだ…と思うと、気持ちが浮かれて、しょうがなかった。

 

仕事中も、何度も同僚に「なんだよ、ご機嫌だな」とか「何かいいことでもあったのか?」と言われた。普段だったらしかりつける部下のミスも、笑顔で見逃した。

イヤな上司の自慢話も、愉快に感じた。

 

すべては、「天草 充」のおかげだった。

 

言っていたとおりに、九時に家に帰られるように、仕事を片づけて、自宅にむかった。

今朝、出かけるときに鍵は開けておいた。

 

「ただいま」

ガチャリ、と音をたててドアをあけると、暗闇が広がっていた。

とは言っても、ベランダ越しのネオンのせいで、暗闇といっても、完全に真っ暗ではない。ほの暗い程度だから、部屋の中は見回すことが出来る。

 

「お……お帰り」

潜めたような声がした。その方を見ると、自分よりも、ちょうど一回り小さいくらいの男が、ソファの上に座っていた。

目もとには、言ったとおりに目隠しをしている。

「きちんと目隠しをして置いたんだね。偉いね…」

歩み寄り、彼の頬を撫でた。

ビクンッとシャツにスーツのズボンの身体が震えた。クールビズでスーツの上衣は着ていないのだろう。

「ネクタイで、目隠ししているの? たしかに、これだったら、何も見えないね」

喪服用の黒いネクタイで、目隠しをしているようだった。

普通のネクタイでもいいのに、あえて黒色をチョイスしているところが、「天草 充」らしくて、笑みが漏れた。

「な……なんだか、安部くんってイメージが違うね。トイレで会ったときは、なんだか怖い人って感じがしたけど……」

「怖い方がいいのかな?

「……そ…そんなことはないけど……」

「本当は、怖い方がいいんだろ? ひどいことをして欲しいんだろ?

「……ち……ちがうけど……」

「ほら、じゃあ、手も縛っちゃおうか…目隠しをはずせないように…」

「……え……」

荷造り用の紐を持ってきて、「天草 充」の両手首を縛った。迷ったが、きつく、食い込むほどに縛り上げると、「あぁ……」という歓喜とも、苦痛ともつかぬ声が、「天草 充」の赤い唇から漏れた。

「これで、目隠しをはずせないね。見えないっていうのはワクワクするだろう」

「う……うん…」

「じゃあ、トイレで言った言葉、もう一回言ってみろよ。なんて言ったっけ?

「き……きみの……」

「天草 充」の唇が震えているのに合わせて、私の心臓も拍動した。

「お……おちんちんを……もっと……よく……見せて……」

消え入りそうな、か細い声が、紅い唇から漏れ出た。

かすかに見える赤い舌が、卑猥に見えた。

 

なんだ……。その程度のことだったのか……。

 

想像していたよりも、猥褻でない言葉に、少しガッカリとした。しかし、一般人だったら、この程度の言葉でも気持ち悪いのだろうか…。

 

可哀想に。そんな一般人に、声を掛けたりして……。

 

その「天草 充」の、要領の悪さと、運の無さに憐憫を感じた。

 

「そうだったね…。でも、今は目隠しで見せてあげられないからね…。

 かわりに、俺が、君のおちんちんを見てあげようか?

「え……そ……そんな……」

「何を今更。恥ずかしがることはないだろう?

「天草 充」のシャツとズボンを脱がせた。シャツは、両手を縛っているせいで、手首の所で固まるようになったが、ズボンは足首から引き抜いた。

ボクサータイプのブリーフはかすかに盛り上がっていた。

「ほら、期待しているんだろ。ちんちんが勃ってるよ」

「あ……そ……そんな……」

そのブリーフを剥ぐと、赤黒く充血したペニスが、股間にニョキッと勃っていた。

「ふぅん。まぁ、形のいいチンチンだね。少し小さいかな……」

「あ……見ないで……。だって…はずかしい…」

言っている言葉とは裏腹に、「天草 充」は座っていたソファから随分と身体がずり落ちてきていて、股間を突き出すような姿勢になってきていた。

「触ってほしい?

「あ……あぁ……」

「ほら、触ってほしそうに、先っぽから、精液がにじみ出てるよ。

あぁ、ほら、見えないんだね。赤黒くなって、震えてる。

触ってほしかったら、「触ってください」って言ってごらん。そうじゃないと、このままだよ」

「う……さ……さわってください……。ぼ…ぼくのオチンチン…触って…」

「どういうふうに、触ってほしい?

まずは、性器を指で撫でてみた。それだけでも、「天草 充」の身体は震えて、頬の赤みが増した。

「もっと…もっと、ちゃんと…」

「ちゃんと、っていうと、どうふう風にかな?

「天草 充」が焦れているのは、小刻みに震えているからだから、見て取れた。

そうして、それは、私の愉快を深めた。

 

「に…握って…。こ……擦って……」

「こんな風に?

「あぁ……お…おちんちんが……」

力をこめて、性器を握り、指を上下に動かした。それだけでも、ビクビクと身体は震えて、唇からだらしなく感嘆の声が漏れた。

 

きっと、相当に、飢えていたのだろう。

「目隠しをしているから、俺のチンチンを見せてあげられないのが残念だね。

 どうせだったら、もっと、じかに俺のチンチンを感じさせてあげようか」

「天草 充」の前髪を掴んで、ソファから引きずり降ろした。

「え……」

自分はソファに座ったまま、ズボンの前を緩めて、性器を露出させた。

「天草 充」への行為で、私もおもったよりも興奮しているらしい。

なんといっても、目の前に、「自分の思い通りにできる身体」があるのだ。

そう考えるだけで、性欲はわき上がってくる。

「さぁ、ほら、舐めてごらん」

「あ……」

戸惑う「天草 充」の髪の毛を掴んで、床の上に膝立ちにさせた。そうして、私の性器に、彼の顔を押しつけた。

先走りの液が、彼の頬にべったりとつく。

「舐めてみたいだろう。俺のチンチン。へら、舐めさせてやるよ。

 「舐めさせてください」って言ってごらん」

「あ……あぁ……か…硬い……。な……舐めさせて…下さい……」

「天草 充」の身体は、歓喜にブルブルと震えていた。

前髪を掴んで、紅い唇の中に、自分の性器を押し込んだ。

「うぐっ……」

口いっぱいの性器が苦しいのか、うめくような声を上げて、眉を寄せた。

かまわず2、喉の奥まで性器を突っ込んだ。

赤い顔が、余計に赤くなり、「天草 充」の股間の性器は、限界まで勃ちあがっていた。

私は、脚の指で彼の性器を踏み付けた。

「あ……あ……」

口いっぱいに性器を含んでいる唇から、声が漏れた。

 

「天草 充」の口伎は稚拙だった。ただ、口に性器をふくんで多舐めているだけで。それでは、私の完全な興奮はえられなかった。

その事は、すこしがっかりとした。

ただ、きっと、「天草 充」はこういった性交に馴れていないのだろう…ということを伺わせた。きっと、誰にも自分の性癖を隠してきたに違いない。

 

ただ、それは、「天草 充」がまだ白いキャンパスで、それに、自分の好きに描くことができる、と考えれば、少しは興奮した。

 

そうして、白いキャンパスには、じわりじわりと描いていくことができる、という無限の可能性を感じた。

 

「フェラチオは上手くないね」

「あ……ご…ごめん…。どうしたらいいのかな…」

「天草 充」は、私の言葉に、戸惑っているようだった。

顔を赤らめて、舌で私の性器の先端をつついて、再びくわえた。

「もう、いいよ。それよりも、もっといいことをしよう」

「あ……」

彼の髪の毛を掴んで、ユニットバスの、バスルームに引きずっていった。

目隠しで見えていない彼は、どこに移動したのか分からず、動揺しているようだった
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