さようならのくに 壱 1ページ |
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早川修には、趣味があった。 彼は、普段は、ふつうのサラリーマンだった。勤めている会社は、小さな会社だけれども古くからつづいていて、その業績も安定していた。彼は、その会社の営業部に勤務していた。人付き合いは得意な方だし、口もうまかったので、彼の営業成績は社内でもなかなかのものだった。 彼は、32歳になるけれど、まだ結婚はしていなかった。 社内では、「真面目な彼が、まだ結婚していないことは極めて意外」だったけれど、「きっと、妻をとって、食わせるのが惜しいに違いない。吝嗇家なのだろう」とか。 「真面目すぎて、恋人ができないのだろう」などという噂が言われていた。 修は、そういう噂を全く気にしていなかった。 同期には結婚している者も多い。中には、もう、子供が3人もいる、などという人もいた。 しかし、彼は、焦りなどは全く感じていなかった。 それは、彼の趣味のせいでもあった。 彼の趣味は、「狩り」をすることだった。ただし、「狩り」といっても、銃をもって、野山に分け入り、キジや鹿を打つことではない。彼は、そんな野暮ったいアウトドアとは遠い雰囲気があった。どちらかというと、部屋で本でも読んでいる方が、似合っていそうだった。だから、彼は、趣味が「狩り」であることは、社内の誰にも言っていなかった。それに、言うことも出来なかった。 なぜなら、彼の「狩り」の対象は、人間だったからである。 彼は、緻密に狩りの相手を厳選し、どうやって「狩ろう」か。ということに思いを巡らせることが得意であった。 また、そういう作業をも、楽しんでいた。 今までに、「狩った」ことがあるのは、7人だった。 一番最初は大学生時代まで遡る。 最初は、訳も分からずに、自分の衝動のままに狩って、処理をしていた。今となって考えると、よくばれなかったものだ…と思う。 数を重ねていくうちに、じわじわと馴れてきていて、今では、彼は自分の「狩り方」にだいぶと自信を持ってきていた。 今、目をつけているのは、いつも昼食時に、会社の仕出しで頼んでいる「蕎麦屋」の従業員だった。最初は、同僚が昼飯に蕎麦を頼んだときに、彼が配達用のアルミケースを片手に持ってきた。初めて彼を見たとき、修はドキリと胸が高鳴った気がした。 彼は、まさしく、修の好みのタイプ、そのものだったからだ。 修も、それ以来、何度かその蕎麦屋で配達を頼むようになった。そうしているうちに、少しずつ彼のことが分かってきた。それは、蕎麦を頼むたびに、少しずつ、彼と言葉を交わしていたからだった。ただし、あまり長く、深く彼を探るような言葉をかけてはいけない。何気ない雑談の続きのように。少しずつ彼を探らなければいけなかった。 修は、蕎麦はあまり好きではないけれど。彼の事をさぐるために、週に3回程度は昼食に頼んだり。または、店に行ったりしていた。 そうしているうちに、じわりじわりと彼の事が分かってきた。彼は、春野 敬偉(はるのけい)という名だった。三流大学を卒業して、就職活動に失敗し、今の蕎麦屋でアルバイトをしているらしかった。郷里は静岡の方で、今はひとり暮らしをしている。特定の彼女は居ないようで、「趣味は登山で、休みの時には、もっぱら、1人で、山に登っている」と言っていた。住んでいるところも、修の会社のそばのアパートであることまで分かっていた。 これだけ、情報が集まれば、充分だった。 修は、敬偉がひとり暮らしでなければ。彼女が居たら。「狩り」の対象から外そう、と思っていたけれども。敬偉の状況は、まるで修に「狩りをしろ」と言っているように都合良かった。 修は、敬偉の事を「狩る」と心に決めたときから、「いつが都合がいいだろうか…」と悩んだ。そうして、「敬偉が、山登りに行く」ときめている日に彼を「狩る」事をすれば、しばらくは敬偉が行方不明だということが分かりづらいだろう…と思った。敬偉が、1人での登山を好んでいることも、ちょうど都合がいいように感じた。 そう思うと、修には、これは、「敬偉を狩れ」という神からの啓示のようにも思えた。 「次は、いつ頃山登りに行くんだい?」 修は、蕎麦屋に行ったときに、極めてさりげなく、敬偉に問いかけた。 営業周りをしていた関係で、午後3時という中途半端な時間だったせいで、店内には客はほとんどいなかった。 顔なじみなせいもあって、カウンターで食べている修の傍によってきて、皿を拭いていた。 「今度の月曜日から行こうと思って居るんですよ。店の方にも休みをとっていますし」 「今度は、どこに登るんだい? 」 修は登山には興味がなかったけれど、敬偉の趣味だ、ということで、少しだけ勉強をしていた。 「A山の方に行こうと思って居るんです。いままで行ったことがないし。ただ、A山は結構厳しい山のようなので、少し時間がかかるかなぁと思って、店の方には4日程度の休みを貰っています」 修は、頭の中で、最近登山雑誌を立ち読みしたときのA山の情報を思い出していた。 「ふぅん。A山とは、敬偉くんにしては、ちょっと挑戦だね」 「はぁ。でも、友達連中なんかが登っているし、コツなんかは教えて貰っています」 登山の話をするときには、いつも敬偉の表情は興奮したように赤くなっていた。 修はその敬偉の顔を、目をほそめて見た。この顔が、自分の下で身もだえている姿が、一瞬、顔に浮かんだからだった。 「A山ということは、じゃあ、朝も随分と早く出るのかい? 」 修は傍をすすりながら、皿をふいている敬偉の白い指をみつめていた。 「そうですね……。朝の五時には出ようと思っています」 「ふぅん。しかし、君に4日間も会えないのは残念だね」 修はさりげなく言って、敬偉にわらいかけた。 敬偉も、常連客の言葉に、顔をゆるめて笑い、「何かお土産を買ってきますよ」と言った。 修は、その話を聞いてから、社にもどり、月曜日の有給を取った。 敬偉のアパートの正確な場所まで、調べ上げていた。それは、以前、蕎麦屋が終わるのを待って、こっそりと敬偉の事を尾行したことがあったからだった。 敬偉の会社からは、自転車で10分程度の、安っぽいアパートだった。 修は、月曜日が来るのが待ち遠しかった。 土日で、自宅のマンションの準備も整えておいた。 このマンションは、学生時代から貯めていたお金で、購入したものだった。とはいっても、一千万円を少し着る程度の安いマンションだった。 ただ、修には、「持ち家である」ということが大切だった。借り家では、自分の思うように室内を改造することが出来ない。 修は、「狩り」のために、室内を少し改装していた。まず、ベランダと、全ての窓を二重サッシにして、音が漏れないようにしていた。それに、2LDKのうちの一部屋は、外から鍵を掛けて、中に閉じこめることが出来るようにしていた。そうして、その部屋には、壁と床に、音を吸収する、凸凹の黄色いスポンジマットを、敷き詰めていて、安いパイプベットだけを置いていた。窓には遮光性の高いカーテンをつけ、さらに外の明るさが分からないようによしずをぶら下げていた。 月曜の朝、修は、朝の四時過ぎから敬偉のアパートの傍で、傍らの花壇に腰を落として座っていた。 「狩り」の前の独特の緊張感があった。 早朝なので、誰かに見られる可能性は少ない。それでも、修は普段の彼がしないような格好をしていた。若者が着るような、ヒップホップ系のジャージの上下に、キャップをかぶって、おおきなサングラスをしていた。自分のマンションからは車で来ていて、アパートのすぐ傍に止めていたけれど、その車のナンバーも、慎重に布で隠していた。 10月とはいっても、早朝だと、けっこう身体にシンシンと寒さが響いてくる。 待ち始めて30分程度が経過した頃だろうか。大きな登山用のナップザックを背負った敬偉が、アパートから出てきた。 修は、一瞬、ドキリと胸が高鳴った。 それは、「狩り」をする前の、独特の緊張感だった。 修は、すわっていた花壇から立ち上がって、敬偉の方へと近寄っていった。 彼は、まだ朝の薄暗い中を、徒歩で駅まであるいていくつもりだったらしい。 修がさりげなく近寄り、肩を掴むと、ビックリしたように身体をビクンと大きく震わせて、振り返った。 「敬偉くん」 修は、できるだけ抑えた声で言った。 「え……」 最初、修の容貌に、一瞬誰だか分からなかったらしい。ただ、声で、気付いたのだろう。 「あぁ、早川さん」 彼は、緊張していた顔を一瞬緩めたが、同時にすこしだけ眉を寄せた。 「どうしたんですか? こんなに朝早く…」 修は、敬偉の言葉が終わるか終わらないかのうちに、持っていたスタンガンを懐から取り出して、彼ののど元に当てた。 「ひ……」 バリバリバリという音がして、青白い火花が、ハイネックを着ている首に光っている。 静かな早朝で、スタンガンの音は一際響いているようで、修も一瞬躊躇したけれど。 よくよく考えれば、これだけの街中。トラックだって行き交うし、電車の騒音もある。誰も、この程度の音に、気付くことはないだろう。 最初、敬偉は大きく目をあけて、修の顔を見ていた。それは、突然のショックに、何がなんだか分からない、という感じだった。修は、その大きな双眸が、自分を見つめていることがなんだか後ろ暗く。顔をうつむけて、スタンガンを押しつけ続けた。 そうしているうちに、大きく開いていた目が、どんよりと曇ってきて、瞼が落ちた。そうして、敬偉の身体が、ダランと力が抜けてきた。 どれくらいスタンガンを押し当てていただろうか。 今まで、何度もこうして「狩り」をしてきたけれど。今回は特にそれが長かったように思う。それは、やはり、敬偉がそれだけ健康な若者なせいかも知れなかった。 それでも、しばらくすると、ダラリと力が抜けて、ドサリと音をたて、その場に身体が落ちた。 完全に意識を失ったらしい。 修は、少し安堵して、スタンガンを服の中に仕舞った。そうして、敬偉を抱き上げようとしたけれど。彼が背負っているリュックがジャマで、抱え上げられなかった。しょうがないので、リュックを外して自分が背負い、敬偉の身体を抱き上げて担ぎ、自分の車を止めている場所まで行った。 リュックがズシリと重いのと、敬偉の身体のせいで、随分と歩くのに時間がかかった気がする。 車の中に敬偉とリュックをいれると、少し安心した。 そうしてから、敬偉の両手首を掴んで、念のために後ろ手に縛っておいた。口も、ガムテープで塞いだ。 修の家は、すぐ傍にある。だから、敬偉がそれまでに目を覚ますことはないだろうけれど。それでも、念入りにしておいた。 修は、敬偉を「狩った」ことに、自分が興奮しているのを感じた。 この身体を、ようやく自分のものにすることが出来たのだ。 「狩る」までの準備段階での下調べも、楽しいことではあるけれど。やはり、こうして「狩った」瞬間が一番楽しい。これからの事に想像を巡らせて、ワクワクとできる。 修は、雲の上を歩いているような心地で、自宅マンションまでのほんのわずかな距離を車を走らせた。 そうして、駐車場に車をとめると、リュックはジャマなので、車内においたままにして、敬偉の身体だけを抱え上げて、裏口の非常扉から、階段を上がっていった。 それは、表のエントランスには、監視カメラがあるせいだった。裏口には、ないことが分かっていた。 自宅の鍵をあけるのももどかしく、ようやく、あの、収音材でつつまれた洋室に敬偉をドサリと置いた。 気持ちが、思った以上に昂揚していた。 やはり、こうして「狩る」瞬間というのが一番緊張するし、心が沸き立つ。 途中で、万が一にでも相手が目を覚ましたら……。担いで、階段を上がっている途中で気付かれたら。誰かとすれ違ったら。 しかし、いつもそういう心配は杞憂に終わるので、そのドキドキ感は、楽しみに帰ることが出来た。 修は、あらためて敬偉の両手首を縛っている紐の上から、更にビニールの紐で。 肉にぎっちりと食い込むように縛り上げた。 手首の肉が縛り上げられて紐にくいこんで盛り上がっているのが、見ていて愉快で。 何度か指で撫でてみた。 そうして、首の、ハイネックシャツを引っ張って、ズリ下ろした。白い首の肌が表れると、ゴクリと生唾が口の中に湧いてきた。 その白い首の皮膚にも、被ニールの紐を巻き付けた。そうして、パイプベッドの足にくくりつけた。首を絞めている紐は、喉に食い込んでいたけれど、呼吸は出来る程度にしておいた。 そうして修は満足げに立ち上がって、意識を失っている敬偉を、グルリと見下ろしてみた。 満足感が、心の中に満ちていた。 時計を見ると、もう、6時半を過ぎていた。一連の行動をしている間に、思いの外、時間がかかってしまっていたらしい。 修は、部屋を出て、軽く朝食をとってから、再び部屋に戻った。 そうすると、「う…う…」といううめき声のようなくぐもった声が、敬偉の方からしていた。 部屋のドアをしめて見下ろすと、彼は目を大きく開けて、ガムテープでふさがれている口をモゴモゴと動かしているようだった。 「あぁ、ようやく目が覚めたかい? 」 修は、その敬偉の瞳に吸い寄せられるように、しゃがみ込んで、髪の毛を撫でてみた。サラサラとした髪の毛の感触が心地よかった。 「う……う……」 敬偉はジッと修をみつめて、訳がわからないように、身体を芋虫のようにくねくねとうねらせていた。 修は、敬偉の頬を撫でながら、「ガムテープを取ってあげようか? 」と声をかけた。敬偉は大きくうなずいて、目を大きく開けていた。瞳が、目からこぼれ落ちそうだ…と思った。 「ただし、叫んでは駄目だよ」 修の言葉に、敬偉は少し躊躇してから、大きくうなずいた。ガムテープのはしをもって、ひがしていくと、白い皮膚が茶色い皮膚に引っ張られているのが、異様な光景のようで。 目にあたらしかった。それに、唇の皮膚もすこしだけガムテープに貼り付いてきていた。 「あ……あ……」 テープを剥がすと、敬偉はおおきく胸を上下させて、息を吸い込んでいた。 しかし、喉がしばられているせいで、思っているほど空気が入ってこないらしい。浅い呼吸を、何度も繰りかえしていた。そうしてから、ジッと修の方をみて、「早川さん…」といつもの、透明感がある声で呟いた。 修は、いつもの敬偉の声に、若干満足感を感じた。 「敬偉くん。きっと、混乱しているだう。でも、安心していい。ここには、私と敬偉くん2人きりだよ。 この時を、ずっと待っていたんだよ」 修は、一気にそう言うと、敬偉の頬を撫でた。それでも、敬偉は不安そうに、目をキョロキョロとさせていた。 自分の状況が、うまく理解できていないようだった。 「ど……どうして? 」 敬偉の、動揺している様子が愉快で、修は、ニタリと笑った。 「何。何も心配することはないよ。安心していい。ここは私の家だ」 敬偉は、大きな瞳を左右に目を動かして、青い顔をしていた。 まだ、修の趣旨が分かっていないような様子に、より、修は興奮を感じた。 修は、敬偉のかたわらに膝をついて、敬偉のズボンボタンをはずして、引き下ろした。 「ひ……な……」 下からは登山用のスパッツなどがでてきたけれど、それらも全部、身体から引きはがした。 敬偉は、バタバタと足を動かしていたけれど。両手を縛られているせいで、身体をくねらせる程度の抵抗しか出来ず。それらの作業は安易に出来ることが出来た。 パンツ一枚だけを残して、下半身から衣服を取り除くと、今度は、上半身の方に膝をずらしてジャンパーの前のファスナーをあけた。 「な……なに……なにする……」 敬偉は、訳が分からない恐怖におびえている顔をしていた。 「安心していい。2人きりだからね」 修はニタニタと顔が歪んでいた。だから、その表情が、より、普段の物静かな修とは違い、敬偉に、より強い恐怖感を与えていた。 両手首をしばられているせいで、上衣は完全に身体から引きはがすことが出来ない。 だから、修はハサミを手にとって、ジョキジョキと上衣を切り刻み、敬偉の身体から引きはがして言っていた。 なけなしの金をはたいて買った、登山用のジャケットやシャツが、修の手で、ただの布きれに裁断されていく。 「あぁ……」 敬偉は「やめてください」と言うことも出来ずに、半分絶望したような声を漏らした。 随分と時間をかけて、修は敬偉の身体から、衣服を取り除いた。 始終、修はニタニタと笑っていて、愉快で仕方がないようだった。 恐怖感と、自分の置かれている状況の判断ができなくて、呆然としてい間に、敬偉は、パンツ一枚になってしまっていた。 周囲には、元は敬偉の上衣だった布きれが散乱している。 修はだまってそれらと脱がされた下衣を掴み揚げると、部屋の片隅に固めておいた。 後ろ手に縛られた手が痛かった。それに、首も。紐が食い込んでいて、すこしでも首を動かすと、ギリギリと首の肉に食い込んで、窒息してしまうんではないだろうか…という恐怖感があった。 ここにきて、やっと、敬偉は、「恐怖感」が迫ってきていることを感じた。 それは、今までは、修がだまって敬偉の衣服を切り裂いていたせいで。たしかに、訳が分からない怖さ、はあったけれど。それは、なんだか、怪奇映画でもみているようで、少し、現実感が無かった。 ただ、苦労して購入した、登山用のジャケットやシャツが。ハサミで切られていくのを見ると、「あぁ…高かったのに…」なんていう呑気な考えが、頭の片隅に湧いていた。 ただ、気付くとパンツ一枚で両手首を後ろ手にしばられ、首もバイブベッドの足に結わえ付けられている。その現実が心の中で、あらためて、波のように寄せてきていた。 「……早川…さん……」 敬偉は、常連客の名前を口にしてみた。しかし、彼は敬偉の隣に膝をついて、敬偉の白い肩から胸元を手のひらで撫でていた。 「いや……綺麗だ。想像していた以上に、綺麗だよ」 修の耳には、敬偉の言葉はとどいていなくて、ただ、敬偉の肌の感触に酔っているようだった。 敬偉も、一体、何をされるのか分からない…という恐怖が、身体の中に湧いて出てきていて、それが、全身に回っていっていた。 だから、自然と恐怖のせいで、鳥肌が立っていた。 「ふふ……肌がさざ波だっている。怖いかい? でも、安心していい。 ここには君と私2人だけだ。誰も、邪魔者は居ない」 敬偉は、その「ふたりきり」というのが、余計に恐怖を感じた。 修は、平常時の修とは違って見えた。 大人しく、いつもニコニコとわらって、敬偉の話を聞いていた人物とは思えない。 眼孔は鋭く、敬偉の事を射抜くようにジッと顔を見つめていて。敬偉の表情を観察しているようだった。 「さぁ。敬偉くんのココはどんなかな…」 修は歌うようにかろやかな声で、敬偉のパンツのゴムを引っ張った。 「あ……」 敬偉は反射的に、足をばたつかせて、腰をずらし、逃げようとしたけれど。 身体をしばられて、固定されているせいで、それはかなわなかった。 安易に、敬偉の身体をおおっていた、最後の布が引きはがされて、明るい蛍光灯の下で、全裸をさらけ出すことになってしまった。 「う……あ……」 恥ずかしさと、動揺で、敬偉の瞳は左右に大きく揺れていた。 「な……なんで。早川…さん……」 「あぁ。敬偉くんのペニスが出てきたね。 すっかり小さくなっている。怖くて、すくみ上がっているのかな」 修は愉快そうに敬偉に聞こえるように嘲りながら、そのペニスを手に取った。 「でも、大丈夫だよ。すぐに気持ちよくなるからね」 修はニタリと笑うと、いったん敬偉の身体から離れて、クローゼットから薬箱のようなものを取り出してきた。 半透明な箱の中には、ぎっちりと中身がつまっているようだった。 敬偉はどうしたらいいのか分からずに。それでも、できるだけ自分のペニスを隠すように身体を丸めて、修の動向を、ジッと見ていた。 修は、薬箱から、軟膏のようなチューブ状のものを取り出した。 そうして、それを片手に、敬偉の白い腹や、身体を撫でて、感触を楽しんでいた。 その手が這った跡が、気持ち悪くて、肌がザワザワと鳥肌が立つような気がした。 訳の分からない修の行動は、敬偉にとってはたまらなく自分を不安にさせるものだった。 「安心してまかせていればいい。 初めてだから、軟膏を使おうね」 修は愉快そうに弾んだ声で、敬偉の身体の下半身の方へと身体をずらした。そうして、足を肩に抱え上げ、身体を半分に折り畳むようにした。 「な……なに……」 幼児が、オムツでも交換されるような姿勢に、敬偉は当惑して、目をパチパチと何度も瞬きをした。そうして、下半身の全てをさらけ出されているという羞恥で、顔を赤くした。 「な……なにする……早川さん……」 敬偉の言葉は震えていて、掠れていた。だから、ほとんど修の耳には入ってこなかった。 修も、敬偉の下半身をみつめて、若干興奮している自分に気付いた。 敬偉のさらけ出されたペニス。 それに、双球から、尻の割れ目をたどって、後孔の窄まりが見える。 キュッと口を閉じているその、後孔をみつめて、ゴクリと修はツバを飲み込んだ。 いままで、いろいろと想像をしてきて、「狩りたい」とおもっていた青年が、今、身体の下にある。今まで、接してきていた青年の表情や、店で、「登山」について熱く語っていた青年の顔が様々に。頭の中に浮かんできていた。 しかし、今、自分の身体の下にある青年の顔は、その、どの顔とも違う。恐怖と動揺ではげしく歪んでいて、おおきな目を、目の玉が飛び出そうなほどに開いている。 そのギャップが、より、修を興奮させていた。 「お尻の穴が見えるね。キュッと締まって。緊張しているせいかな…」 修は、尻の双丘を手で割り広げて、敬偉の後孔を見つめた。 「や……やめ……やめて…ください」 恥ずかしさで、敬偉は頭がどうにかなってしまいそうだった。 いままで、そんな場所をみられたことがない。それも、他人に…。自分でも、見たことがないのに。 修は、おもむろに、先ほどの、軟膏でも入っていそうなチューブをとりだした。 「まだまだ、硬いからね。これで緩めてあげよう」 「え……あ……」 敬偉が、目をぱちくりとさせている間に。修は、後孔の窄まりに、チューブの先端を押し当てた。 「ひぃ……いた……」 座薬を入れるときのような違和感があって。すぐに、鋭い痛みが後孔に走った。 「ひ……ひぃぃ……」 「やめて」とか「痛い」とかいいたかったけれど。口から漏れるのは、ただ、呻くような声だけだった。敬偉は、その声が、どこかとおくでしていて、自分が出している声には聞こえなかった。 後孔の中に、なにか冷たいものがはいってきているのが分かった。それは、どんどんと終わりがないように入ってくる。頭の中に、さっき、修がもっていた軟膏のようなチューブの中身が入ってきているのだろう…と察することが出来たのは、痛みと違和感を感じて、しばらく立ってからだった。 随分と小さなチューブに見えたのに。こうして、体内に入ってきている違和感は絶大で。 まるで、ベットボトル一本くらいは入っているような気がした。 「く……苦しい」 自分のうめき声が聞こえて、「そうか…苦しいのか…」頭のどこかで悟っている気がした。 下腹部に違和感があった。 便が溜まっているときとはまた違う。どっしりとした違和感が、後孔内を渦巻いている。 「さぁ、全部入ったね」 修の声が、耳に響いた。その声は、微かに弾んでいて、嬉しそうにも聞こえた。 何が楽しいのか分からない。 「ひ……」 チューブの冷たい入り口が後孔から離れると同時に、何かが触れた。 修の指だった。 修は、チューブで満たされた後孔の窄まりを、ジッと見ていた。 窄まりが、ぷっくらと膨れあがって、中に軟膏が堪っている様子我欲分かる。 まずは、人差し指から入れてみた。 「あ……あ……」 身体の下で、敬偉の身体がビクビクと跳ねた。 指一本でも、違和感がすさまじいのだろう。中の粘膜も、押し返そうとするように、ギチギチと締め上げてきていた。 「う……あぁ……やめ……」 だけれども、お構いなしに修は、入れた指をグルリとまわして、軟膏を中の粘膜に撫でつけた。 「ひぃ……うぅぅ……」 敬偉は唇を動かして、言葉を紡ぎたいようだったけれど。口から漏れるのは、ただの喘ぎ声だけだった。 その、表情もまた、修にはいい刺激になった。 苦しみに耐えていて、理性を必死でたもっている顔。 後孔の違和感に、感覚がながされそうになるのをかうじてせき止めている顔だった。 「あ……え……あ……」 しかし、その顔が、ジワリジワリと水に波紋が広がっていくように。 溶けるようにして、崩れていく。 「あれ……あ……う……へん…」 軟膏の効果が、効き始めたのだろう。 修は、ニヤニヤとした顔で、敬偉の顔を見ていた。 さっきまでは、違和感で青白かった顔が、じわじわと赤く染まっていく。 そうして、顔の筋肉がゆるみ、痛みに固まっていた表情が、アイスが溶けるように。 緩んで言っていた。 「え……なん……なんで……あぁ……」 敬偉は、初めての感覚に、頭がついていかないようだった。 だから、修は、突き入れた指をグルリと動かして、わざと粘膜をなで上げた。 「ひぃ……あぁ……かゆ……うぅ……痒い」 グルリと刺激されたことで、内膜全体が、ヒクヒクとうごめいて、「痒み」を感じているのが分かった。 そう思うと、もう、堪らなかった。 今までに感じたことがないような「痒み」が後孔から湧いて出てきている。そのことが、頭の中に充満して言っている。 後孔の違和感よりも、どんどんと「痒み」の方が増していく。 「う……うぅぅぅ……」 敬偉は、自分の指で、後孔を掻きむしりたくなった。けれども、両手首は後ろ手に縛られていて、身体の上には修が覆い被さっていて。とてもじゃないけれど、自分で掻き回すことなど、出来そうになかった。 「うぅぅ……かゆい……かゆぃぃ……」 敬偉は喉を反らせて、必死で身体を波立たせた。それでも、後孔の痒みはまったく収まりそうになかった。 「ひ……ひぃぃ……」 後孔にはいっている修の指に、中の粘膜を押しつけるようにして、腰を揺らしてみた。それでも、やわやわとした指一本のだんりょくある刺激だけで。 もどかしくてしょうがなかった。 このままでは、後孔が痒すぎて、頭がおかしくなってしまうんじゃないだろうか…という恐怖感も感じた。 「そんなにも痒いかい? 」 修は愉快そうに敬偉を見つめながら、静かに問うた。敬偉は、必死で何度も首を縦にふった。 縛っている手首を外して欲しかった。そうすれば、自分で自由に掻けるような気がしたから。 「ほ……ほどいて……手…手を……」 息がゼイゼイとあがっていて、言葉を紡ぐのも苦しかった。 顔は真っ赤になって、目からも涙があふれ出ていた。 その様子を、修は満足げに、ジッとみつめて、「手はほどけないな」と言った。 「ただ、代わりに私が掻いてあげよう。それでいいだう。ほら、どこが痒い? 」 修はからかうように、入れた指でグルリと中の粘膜を擦った。 「う……うぅ……もっと…もっと…」 刺激が足りない。もっときつく、擦り上げて欲しかった。だから、自然と腰が揺れてしまった。 「物足りないみたいだね。じゃあ、指を増やしてあげようか」 「ひ……」 後孔の違和感が増したのが分かった。 修は、中指もいれて、中でバラバラに指を動かした。それでも、中の粘膜はじっとりと絡みついていて、もっと大きな刺激を欲しているのが分かった。 「ほら、3本目だ」 「ひぃぃ……いた……あぁぁ……」 敬偉の身体が大きく震えた。 指を3本入れると、後孔の襞はぎっちりと広がっている。だけれども、その奥の粘膜はうごめいて。指を必死で包み込もうとしていた。 「あ……あ……」 修が指を動かすたびに、敬偉の身体が跳ねる。それに、中の粘膜が絡みついてくる。 敬偉は、完全に後孔の刺激に、頭が支配されているようだった。 口をだらしなくあけて、唾液を垂れ流し、「ぐぅ・ぐぅ」とくぐもったうめき声を漏らしながら、唇を噛んでいる。 歯が、ギリギリと奥でこすれて噛みしめられている音がしていた。 修は、満足気に敬偉を見下ろしていた。 クスリの効果の出方は、人によって違う。あまり効果を発揮しない者もいれば、敬偉のように。 人が変わってしまったように痒がり、理性を遠く手放してしまう者もいる。 ただ、大抵の場合は、そうして、理性を遠く失っている姿をみると、若干幻滅してしまうことが多かったのだが。 修は、不思議と、敬偉の顔だけは綺麗に見えた。 そういう表情にも、愛おしさがこみ上げてくるような気がした。 「かわいいよ…。ほら、こうして掻き回すと、気持ちいいだろう」 「う……う……」 3本の指で、バラバラと粘膜をこすりあげると、敬偉は身体をビクンビクンと震わせた。 「気持ちいい、って、言ってごらん」 「あぁ……あ……気持ち……い…いい……あぁ……お尻が……」 敬偉は自然と腰を動かしていた。修の指の動きにあわせて。より、快感を貪ろうとしていた。 修も、下腹部に、敬偉のペニスがあたった。すっかり硬くなり、屹立していた。何の刺激も与えていないのに、後孔の痒みだけで、勃起して、先端からは液を滲ませている。 修は目をほそめてそれをみつめ、薬箱の中にはいっていたゴムで、その根本を結わえた。 「う……あ……」 敬偉は、後孔の快感で、修が何をしているのか。見えなかったらしい。 ぎっちりとゴムを結わえ付けると、ペニスに食い込んで、ペニスの皮膚が盛り上がっているように見えた。 修も、敬偉の姿態に、興奮している自分を覚えた。 ジャージのズボンとパンツを下ろし、自分のペニスを露呈させた。 そうして、敬偉の奥を掻き回している指とは別な手で、自分のペニスを少し扱いた。すぐに、ソレは屹立して、硬くなった。 「指だけじゃ、ものたりないだろう…。おちんちんを入れてあげよう…。 かたぁいおちんちんで、お尻の中を掻き回すんだ。きっと、気持ちいいよ。 さぁ、「おちんちんを入れてください」っていってごらん」
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