さようならのくに

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×月6日

予備校帰りに、いつも通っている公園に、男の人がベンチに座っていた。

スーツ姿で、煙草をふかしていた。

いつも、誰も居ないので、一瞬、「ギョッ」としたけれど、男性は会社帰りのようで、カバンを持って、じっとしていた。

街灯が鬱そうとした木々でおおわれているせいで、顔まではよく見えなかった。

ただ、俺が公園を通りすぎるのと同時に、その人もベンチから腰をあげて、ゆったりとした足取りで、俺と同じ方向に歩き出していた。

なんだか、後を付けられているような気がして、ちょっと怖かった。

だけど、何事もなく、自宅にたどり着いた。

 

家に帰ると、母は夜勤だったので、居なかった。かわりに、冷めた炒飯がテーブルの上にのっていた。

それはいつもの事だったので俺は参考書を開けながら、炒飯を食べた。

「まだまだ、志望校への合格ラインまでは、遠い」と、今日、予備校の先生に言われたばかりだった。

母子家庭だから、何が何でも現役で、国公立大学に合格する必要があった。

その日も、明け方まで勉強した。

 

×月7日

今日も、公園に、昨日と同じ人が座っていた。

こんな時間に、何をしているのだろうか…と思った。

煙草を吸っていたから、もしかしたら、自宅では煙草を吸えなくて、こうして、公園で吸っているのかも知れない。

「やあ。こんばんは」

その男の人は、通り過ぎようとしている俺に、声をかけてきた。

それでも、薄暗いので、顔までは見えなかった。

俺は、会釈をしただけで通り過ぎた。

 

なんだか気味が悪いので、帰ったら、母に話そうか…と思っていたけれど。

昨日と変わらず。母は夜勤のようで、留守だった。しょうがないので、母がラップをかけていた唐揚げを、レンジでチンして食べた。

 

×月9日

今日は、予備校の補習授業があったので、帰りが12時を過ぎた。

終電車には、飲んだ帰りのサラリーマン達で混雑していた。終電車はこれが嫌だ。酒と、汗の臭いが充満している。

 

いつもの公園にさしかかったとき。しすがに、今日は「あの人」は居ないだろう…と思った。だけれども、公園に近づくと、ベンチに、人影が見えた。

なんだか、奇妙に感じて、怖かったけれど。この公園を通らないと、家には帰ることが出来ない。

俺は、小走りで公園を通りすぎようとした。

しかし、その瞬間に、男が立ち上がった。

一瞬、ドキリとして、ひるんでしまったせいで、男に、腕を掴まれた。

ふりほどこうとする間もなく。男はポケットから奇妙な危惧を取り出した。電気カミソリのような形をしていたのだけが目に焼き付いた。

同時に、首に何かが押し当てられる感覚がして、身体がビリビリと震えた。

「あ」と声を上げたかったけれど。かなわなかった。

 

×月10日

気が付いたら、奇妙な部屋にいた。

「そうか、俺は気を失っていたんだ…」と気付くまで、しばらく時間がかかった。

あの、いつもベンチに座っている男に、首に何かを押し当てられて、それで、気を失っていたらしい。

まだ、首が痛かった。

 

俺は、首の違和感を感じながら、首を動かしてグルリと部屋を見回してみた。

その部屋は、黄色い凸凹のスポンジで、壁から天井まで覆われていて、窓のような部分にも、カーテンが敷かれていた。

部屋の中にはベッドが一つだけあって、それが、まるで、テレビドラマで見ている「刑務所」みたいだ…と思った。ただ、黄色い凸凹のスポンジがあることだけが「刑務所」とは違っているように見えた。両手を動かして、立ち上がろうとすると、手が動かなかった。

「あれ」と思い、何度か手をひっぱってみて初めて、自分の両手が後ろ手に縛られていることに気付いた。

同時に、両足も縛られているらしい。そうして、この部屋に、寝転ばされている。

 

俺は、自分の顔の動く範囲でキョロキョロと周囲を見回した。

だけれども、寝転がっていて、両手両足が動かないので、見える範囲も限られていた。

ベッドの上には、誰かが居るみたいだったけれど、それはよく見えなかった。

 

ただ、どうして、俺がこんな状態なのか。

そのことだけが不安で、疑問だった。

 

しばらく、キョロキョロと目を動かしていると、ガチャリという音がした。ドアが開いたんだ…と、差し込んでくる光で分かった。でも、すぐに閉じられたようだった。

「やぁ。こんにちは。真山 治彦くん」

低い、男の声がした。そちらの方をみると、いつもベンチにすわっていた男のようだった。

はじめて、はっきりと顔を見た気がした。

 

スーツではなく、ジャージの上下を着ていたので、一瞬、分からなかったけれど、そのシルエットで、「あ、あの男だ」と分かった。

 

同時に、どうして、この男が俺の名前を知って居るんだろうか…と疑問に感じた。

 

「戸惑っているだろう。でも、安心していい。

 ここは、どんなに声をあげても、壁を掻きむしっても、外には音が漏れないからね」

男の言っていることが、一瞬理解できなかったけれど、周囲を見回して、「あぁ、このスポンジは、収音のためなのか…」となんとなく分かった。でも、どうして自分が両手両足を縛られているのかまでは分からなかった。

 

「敬偉。新しいお客さんだよ。君の気に入ると良いけれど」

男はベッドの方へと歩いていき、腰をおとした。

ベッドの上に、ムクリと人が起きあがった。

 

やはり、ベッドに人が居たんだ…と思った。

でも、その男は随分と青白い顔をしていて、首には、大型犬用のような首輪が付いていた。そうして、その男の上半身は裸で、全裸であるだろう…という事が、白い腿もみえていたので分かった。

 

男はしばらく「敬偉」と呼ばれたベッドの上の男の髪の毛を撫でていたけれど。

「敬偉」の方は、無表情な白い顔で、俺の方をジッと見ていた。

そうして、「随分と若そうだね…」とだけ呟いた。

そうして、「眠い」と呟いて、元通り。ベッドに横たわった。

 

男はそれをジッとみていたけれど、「敬偉」が横になると、スタスタと俺の方に近寄ってきた。そうして、大きな、ハサミを取り出した。それは、裁縫用の布切りハサミみたいだった。母が、裁縫の時に使用していたのを何度か見て、知っている。

「な……なんで……こんな事」

色々な考えが、頭の中を渦巻いていたけれど、言葉にできたのは、そんな陳腐なセリフだけだった。

「君には、災難かもしれない。でも、これも運命だとおもって、諦めてくれ。

君は、ちょうど条件がいいんだ」

男はそう言うと、ハサミで、ジョキジョキと俺の服を切り始めた。

「あ……何する……やめろ」

俺は、身体をモゴモゴとうごかして、抵抗しようとしたけれど。

両手両足が縛られているせいで、自由に動くことが出来なかった。だから、ただ、男が俺の服を切り刻んでいくのを見ているしかなかった。

男は随分と手際がよくて、「あっ」という間に、パンツ一枚にされてしまった。

そうなると、恥ずかしい…という思いがこみ上げてきた。

 

どうして、俺をこんな風に裸にするんだろう。

「な……なんで……こんなこと……」

男の方をみあげた。男は、酷薄そうにニヤリと顔をゆがめていた。

その表情に、一瞬ゾッとして、身体に悪寒が走った。

 

「あぁ、腕に日焼けの後がまだ残って居るんだね。これは、ちょっといただけないかな…」

男は、俺の腕をさすっていた。

 

今年の夏は、毎日予備校に通って、勉強をしていたけれど。学校の体育の授業だとか、予備校・学校の往復の時のせいで、腕には、かすかにだけれど、半袖の日焼け跡がのこっていた。

男は、その境目の部分を撫でて、嫌そうに顔をゆがめていた。

「なんで……なんで…こんな…こと」

俺は、その「男」が不気味に見えて、掠れた声しかでなかった。

人は、本当に怖いときには、声をあげることができないんだ…と頭のどこか。冷静な部分で考えていた。

男は、俺の質問には答えず、まるで聞こえていないかのように、表情も変えていなかった。

 

俺は、自分がパンツ一枚になってしまったのが恥ずかしくて、身体をできるだけ丸めようとしていたけれど。

男はスタスタと立ち上がって、部屋を出て行った。

 

ベッドの上にいる、「敬偉」と呼ばれていた人に「……どうして…」と声を掛けてみたけれど。何の返答も帰ってこなかったし、ピクリとも動かなかった。

 

すこしすると、ドアが開いて、男がまた入ってきた。盆のような物をもっていた。そうして、横たわっている俺の隣にしゃがみこむと、皿を置いた。上には、大きなおにぎりが3つ乗っていた。

「晩ご飯だ。食べるといい」

男は低い声で言っていた。

最初、両手が縛られているせいで、「どうやって食べるんだ」とおもったけれど。

男は俺の両手をほどく気はないらしい。前髪をつかんで、皿の方に引きずられた。

「こうして食えよ」

「う……」

顔に、おにぎりが押し当てられた。

両手を使わずに、犬食いをしろ、ということらしい。ムッと腹がたったけれど。

飯をみて、はじめて空腹だったことに気付いた。しょうがないので、言われたとおりに顔を皿に寄せて、おにぎりにむしゃぶりついた。

皿の横に、お茶のようなものを入れた、ストロー付きの水筒のようなものが置かれた。

俺は、お茶をすすりながら、気付くと、おにぎりを全部食べてしまっていた。

チラとみあげると、男はベッドの方に座って、「敬偉」という男の上半身を起こさせていた。

男は、膝の上に盆をおいて、カレーライスのようなものを、スプーンで一さじ・一さじ食べさせていた。

「敬偉」は無表情で口に運ばれる食べ物をだまって食べていた。

男は、ジッとそんな「敬偉」の表情を見ていた。

 

みていると、なんだか、2人が奇妙に艶っぽく見えた。

 

それは、今まで見てきたどんなAVビデオよりも、いやらしいような気がして。

目をそらした。

 

しばらくすると、男は盆をもって立ち上がり、俺の皿を取り上げて、水筒だけを残した。そうして、「これを飲むんだ」とクスリの粒のようなものを俺の口にいれて、水で満たされたコップを、口に押し当てられた。

気味が悪かったけれど。無理矢理に嚥下させられてしまった。

 

男は俺が飲み込んだのを確認して、満足げな顔をして、立ち上がり、部屋を出て行った。

すこしすると、強烈な睡魔が襲ってきた。

何か、いろいろと考えなければいけない気がしたけれど。

目を開けていることも、困難なほどだった。

さっきのクスリは、睡眠導入剤だったのかも…と思うと同時に、意識がとぎれた。

 

×月11日

目がさめると、相変わらず。俺は黄色いスポンジで囲まれた部屋の中に居た。

 

今までの事は全部夢かも…と思っていたところがあったので、目が覚めてもまだ、自分がソコにいることが奇妙だった。

 

両手を引っ張ってみたけれど。相変わらず、後ろ手に縛られているらしい。全然動かなかった。すこしすると、尿意が催されてきた。

どうしようか…ともじもじとしていると、ドアが開いて、男が入ってきた。

俺は、「トイレ……」と男の方を見て言った。男は、俺の言葉にチラとこちらの方をみて、すぐに部屋を出て、また、戻ってきた。

そうして、俺の身体の下に、シートみたいな物を敷いた。

「この上だったら、おしっこをしても、ウンチをしても大丈夫だよ。ペットシートだからね。吸収してくれる」

男は淡々といった。でも、お漏らしをするようなのは、なんだか気がひけて、俺はもじもじと我慢し続けていた。トイレに連れて行って欲しかった。

 

だけれども、男はそんな俺にはお構いなしに、ベッドの方に近寄って、「敬偉」と声を掛けていた。

ベッドの上で、「敬偉」がむくりと起きあがって、チラとこちらの方を見た。

 

その目つきが、妙に色っぽくて、おもわず目をそらした。

クラスの、どんな女子よりも。いままで見てきた、どんな女の人よりも。色香があったようで、恥ずかしかった。

俺は、微かに、心の中がザワザワと波打つような感覚がしていた。

男は、立ち上がって、俺の方に戻ってきた。そうして、また、クスリみたいな物を俺の口の中に入れて、コップの水を飲まされた。

 

何のクスリか分からなくて、怖かったけれど。男が無表情なのと、「敬偉」という人が、ジッとこちらを見ているのがなんだか異様で。

俺は逆側の部屋の壁を見ていた。

 

でも、すぐに、身体の奥から、なんだか熱いような感覚がしてきた。

ドクンドクンと、心臓が脈打っているのが分かる。

 

どうしたことだろう……と動揺したけれど。それを止めることが出来なかった。

自分の心臓の音がうるさい。それと同時に、下半身に、奇妙に熱が堪っていく感じがした。

「あ……なに……なんだよ……」

俺は、なんだかたまらなくて、身体を動かした。

男が、「敬偉」に「芋虫みたいだろう」と笑って、言っている声が聞こえた。

「敬偉」は静かな声で「そうだね。ジタバタしていて、醜いね」と言っていた。

それで、俺は、自分が、身体をクネクネとくねらせて居るんだ…ということがわかった。でも、その動きを止めることが出来なかった。

 

男が「ははは。おかしいね。本当にシャクトリ虫みたいだ」と声をあげて笑っていた。

男の笑い声を聞くのが初めてだったので、その響く声にビックリした。

同時に、下半身があつくて、我慢していた尿意がたまらなくこみ上げてきた。

「あ……あ……だめ……漏れる…」

言葉にしたときには、すでに、パンツの中で、失禁していた。

「あ、この野郎。ペットシートの上で小便しろ、と言ったのに」

俺は身体をくねらせてうごいているせいで、男が敷いたベットシートの上ではない、床の上に放尿してしまったらしかった。身体をまるめて、下半身をみてみると、床の上に、黄色い水たまりが出来ていた。

こんな歳になって、お漏らししているのが恥ずかしかった。

それと同時に、パンツが妙に盛り上がっているのが見えて、「どうして」と思った。

 

男は「きたねーな」と呟くと、立ち上がり、俺のパンツにハサミを入れて、ジョキジョキと切り離した。

薄い布一枚が床におちると、俺のペニスが剥き出しになった。

「え……うそ……」

俺のペニスは、知らない間にすっかり勃起して、勃ちあがっていた。

そのことが、嘘みたいだった。どうして、身体がこんなにも熱いのか。奇妙に下半身に違和感を感じるのか。

たしかに。自慰をしているときに感じる感覚に似ていたけれど。

 

今は、何も、興奮するような材料がない。それなのに、自分のペニスがはっきりと勃ちあがっているのが、たまらなく奇妙に見えた。

「あ……ちがう……」

下半身だけが、自分の身体から切り離されているように感じて、頭の中が滅茶苦茶に掻き回されている気がした。

何も考えられない。ただ、身体が熱くてしょうがない。

「あぁ……あつい……あつ……」

「コイツ、もらした尿くらいはきちんと処理しろよ」

男は、俺の前髪をつかんで、俺がもらした、黄色い水たまりの方に顔を寄せた。

「う……」

臭い、おしっこの匂いがツンと鼻をついた。同時に頬にべったりと液体が貼り付く感触がした。

床に広がっている、俺のおしっこに顔が押し当てられているのだ…と分かるまでに、しばらく時間がかかった。それは、頭の中が熱くて、混乱しているせいでもあった。

 

「あぁてん…うぅ……」

俺は呻いて、その臭気から逃げようとしたけれど。男に顔を押さえつけられていて、逃げることが出来なかった。

「ほら、舐めて綺麗にするんだよ」

おしっこを舐めるだなんて、想像したこともなかったけれど。男は、グリグリと顔を床に押しつけてきていた。それが、すごく痛かった。だから、しょうがなく、俺は口をあけて、「ズズッ」と音をたてておしっこを吸い込んだ。

おしっこは、口の中でヒリヒリとしみていた。

喉にあたると、しみて、痛かったけれど。男がずっと顔を押しつけていたので、我慢して吸い続けた。

「う……う……」

それでも、ふとすると、下半身の方に意識がいきそうになった。

下半身がずっしりと重い。精液が、ペニスの先端に堪ってきているような感覚がしていた。

 

「さぁ、ほら。あとは綺麗になめるんだ」

尿のみずたまりの大半を、俺は吸い込んだらしい。

なんだか頭がグラグラとしていて、本当におしっこを飲んだんだろうか…とぼんやりとしてきた。

男は「舌をだして、床にのこっているおしっこを舐めろ」と言っていた。言われたとおりにしないと、いけない気がして、舌を突きだして、ペロペロと床をなめた。

おしっこは、舌をピリピリと刺激していた。

どれくらい舐めただろうか。

俺は、自分が「犬」になったような気がした。床をこうして這いつくばって舐めている…。そんなことがしんじられなかった。

 

「あぁ、綺麗になったな」

男は呟いて、俺が舐めている床を見ていた。そうして、俺の髪の毛を掴んで、引き上げると、床をザッとタオルで拭いた。

そうすると、俺が乳を漏らした、という跡はなくなってしまった。

「小便をするときには、このシートの上でするんだ。そうしないと、面倒だからな」

男は、白いペットシートを差していた。

 

こんな風に、おしっこをなめさせられるんだったら、あのシートの上におもらしをする方が、まだマシな気がした。

 

ただ、息を吸うと、ドクンと身体の芯が熱いような気がした。

そうして、下半身を覗き込んでみると、ペニスがすっかり赤黒く屹立していた。

「え……あぁ……」

背筋を、もどかしいような快感が這って行っていた。

 

「う……う……なんで……」

俺は、我慢が出来なくて、床にペニスを擦りつけようとした。

そうすると、腰がグイと男に掴みあげられた。

「あぁ。1人で気持ちよくなっては駄目だ」

男の顔は見えなかった。

だけれども、腰を引き上げられたせいで、床にペニスを擦りつけることが出来ず、たまらなくもどかしかった。

「う……うぅ……」

とにかく、ペニスへの刺激がほしかった。そうでないと、下半身がモゾモゾとして止まらず。堪えられないような気がしていた。

 

「敬偉」

男はベッドの上の人の名前を呼んで、首輪をひっぱり、ベッドから引きずり下ろしていた。

床の上。俺の横にその人が四つん這いで横たえられた。

そこではじめて、俺は、「敬偉」も両手首に手錠をはめられているんだ…という事に気付いた。

ただし、俺とはちがって、その人は両手を前にして拘束されていた。ただ、足は自由なようだった。

「敬偉、みてごらん。コイツのおちんちん、こんなになっているよ」

男は愉快そうに俺のペニスに触れてきた。それだけで、ピリピリと身体に電流が走るような気がした。

「あ……あぁ……いい…」

俺は思わず呟いたけれど。

男の指は、呆気なく遠ざかっていった。

もう一度、つかんで、思い切りしごいて欲しかった。

下半身がたまらなくもどかしくて、もう、どうにかなってしまいそうだった。

 

「楽しいことをしよう」

男は呟くと、丸まっている俺の身体の、足首を縛っている紐をほどいた。

「あ……あぁ……」

そうして、肩を床についた四つん這いのような姿勢にされた。

それと同時に、尻が、男の手で、割り広げられているのを感じた。

「ひ……なに……」

今まで、誰にも見られたことがない尻の孔を見られている気がして。たまらなく恥ずかしくなってきた。

でも、そんな俺の感情とは別に。俺のペニスは勃起したまま。もどかしく、ゆらゆらと腰を揺らめかせていた。

そんな、お尻の穴よりも、ペニスを何とかして欲しい。

 

男は、何をするつもりなんだろうか…。

ぼんやりとした考えが頭に浮かぶと同時に、お尻の穴に、激痛が走った。

「ひ……ひぃ……」

今までに経験したことがないような痛みだった。

「い……いた……」

言葉がでなかった。

ただ、目を閉じることも出来なくて。

非道い痛みを我慢しているしかなかった。

「うぐ……うぐぐ……」

「さぁ、ほら。君のお尻の孔に、俺のチンチンを入れてあげているよ。

きついね……。なかなか入らない」

男の呟きに、頭の中に、俺の尻の孔に、男のペニスが入っている光景が浮かんだ。

 

そんなの、絶対に無理だ……。

ちょっとした便をだすときでも、痛いのに。

座薬を入れるときでも違和感があるのに。

 

そんなお尻に、男のペニスが入って来るだなんて。想像できなかった。

ただ、激痛だけは確実に背筋を這い上がって、頭の先まで突き抜けているような気がした。

「いた……いたい……あぁぁ……」

おもいきり悲鳴をあげたかったけれど。出た声は、掠れたような声だけだった。

「あぁ、やっぱり裂けた。何の準備もしていなかったからね。しょうがないね」

「ひ……」

ピッと下半身で何かが弾けるような気がした。

「ひぃ…ひぃ…」

「あぁ、あちこちと裂けてきた。はは…血まみれだ」

男は愉快そうに笑っていた。

だけれども、下半身の痛みが、鈍痛から引き裂かれるようなはっきりとした痛みに変わっていく。それに、男の言葉に、お尻の穴が、あちこち裂けてしまって居るんだ…と思うと、恐怖心が湧いてきた。

 

身体がこわされてしまう。

「ひぃ……やめ……」

「どんどん血が出てくるな」

男は、ペットシートを引き寄せて、俺の下半身の下に敷いた。

「ひ……」

身体をまるめてみてみると、白いペットーシートの上に、赤い鮮血が、いくつもしたたり落ちていた。

「内臓だから、やはり、沢山血が出るね。でも、裂けたせいで、随分と楽になった」

男は俺のペニスの方に手をやって、ギュッと握った。

「あ……あぁ…」

そうされると、背筋を快感が這い上がっていく。

痛いのに。それなのに、ペニスを握られると、まったく別な快感が迫り上がってくる感触が堪らなかった。

身体が、バラバラに引き裂かれているような気がした。

 

痛くて堪らない後孔と、気持ちよくてしょうがないペニスが。

まったく別な部分で、自分の身体ではないような気もしてきた。

「あぁ、血のせいで、随分と楽になった」

男は呟いて、ゆっくりと腰をつかんで動かしはじめた。

「ひぃ……ひぃぃ……」

そうされるたびに、ピッピッと、また、後孔が裂けていく気がする。

それでも、ペニスは屹立したままで。

俺は自分のペニスが信じられなかった。

 

きっと、飲まされたクスリのせいだろう…ということはぼんやりと分かっていたけれど。

「敬偉」

男は、俺の後孔のペニスを入れたまま、「敬偉」の腰を掴んで、引き寄せた。

「敬偉」は無言で近寄ってきて、俺の身体の前に、四つん這いの姿勢になった。白い尻が、輝いているように見えていた。

男は、俺の身体越しに、「敬偉」の尻の双丘を割り広げた。

その真ん中に、小さな窄まりが見えていた。

俺は、一瞬、ドキンと胸が高まった。その小さな窄まりが、ヒクヒクと動いていたから。それに、「敬偉」という静謐な雰囲気の人の下半身に、そんなグロデスクな後孔がついているとは思えなかったから…。

俺は、一瞬動揺して、「え」と声を上げた。

男は、俺のお尻にペニスを入れたまま、薬箱のようなものから軟膏みたいなチューブを取り出して、その、「敬偉」の小さく窄まった後孔に押し当てた。

「あ……なに……」

俺は、男がしていることから、目が離せなかった。

後孔は引き裂かれていたかったけれど。それとは頭の別な部分で。

目の前にある光景が、なんだか嘘みたいに見えていた。

「あ……ひ……入る……入ってくる……」

男がギュウっと軟膏のチューブを搾っているのが見えたのと、「敬偉」の言葉で、そのチューブの軟膏が、「敬偉」の身体の中に入っていって居るんだ…ということが分かった。

俺は、初めてみる光景に、思わず息をのんだ。

 

男のお尻の穴なんて、見たことがなかったけれど。こうしてみていると、まったく身体から切り離された、別な生き物みたいに見える。

 

だって、男がチューブを外すと、お尻の穴はヒクヒクと蠢いて、中から軟膏を漏れ出させていた。

「敬偉」が呼吸をするたびに、「グボグボ」と中から軟膏があふれ出てきているように見えた。

「ひ……」

男が、腰を動かしたことで、俺は、目の前の光景から、自分の後孔の感覚に、引きずり戻された。頭のてっぺんまでつんざくような痛みが走っていた。

 

「敬偉」は「あ…」とか「うぐ」とか微かに呻いていたけれど。お尻の穴に、あんなにも軟膏をいれられて、苦しくないんだろうか…と疑問に感じた。

同時に、男の指が、「敬偉」の軟膏で満たされている後孔に指を突き入れていた。

「う……あ……」

「敬偉」の苦しそうな声がして、後孔の襞が広げられて行っていた。

俺は、目を離すことが出来なかった。

気味が悪くて、なんだかものすごく生々しかったけれど。でも、どうしてだか目が固定されてしまったかのように。ジッとその光景をみつめていた。

「敬偉」の後孔に、男が指を一本・二本・三本とどんどんとふやして入れていっていた。

そのたびに、ゴポゴポと中から粘液が溢れてきていた。

 

俺は、男が3本の指を入れたときに「こんなにもお尻の穴って広がるんだろうか」と奇妙な違和感を感じた。

同時に、彼のペニスが、その光景で、すっかり屹立してしまっているのに気付いて、恥ずかしくなった。さっきまでも、もう限界…と思うほどに勃っていたけれど。

 

「敬偉」のお尻の穴をみているうちに、もっともっと熱い何かが、身体の芯から湧いてきているようで我慢できなかった。

「あ……ひ……いた……」

男は、「敬偉」の後孔を弄りながら、ゆっくりと俺のお尻の穴にいれたペニスを動かしはじめた。

同時に、激痛がはしって、一瞬頭の中が白くなった。

 

男は、「敬偉」の腰をつかんで、俺の身体の下になるように、床に敷いた。

そうして、「敬偉」の身体の上に、俺の身体を重ねた。

 

「敬偉」の身体は汗ばんでいて、じっとりと皮膚が重なり合うと、貼り付いているような気がした。

俺は、身体の下の敬偉の尻たぶに、自分の屹立したペニスが当たっているのが心地よかった。

男は「敬偉、入れてあげようか」と呟いて、俺のペニスを掴んだ。

「あ……あ……」

俺は、ペニスにふれられたのが心地よくて、掠れた声を上げていた。

 

しかし、男の意図が分かると、生唾が、口の中に湧いて出てきた。

それは、男が、俺のペニスを「敬偉」の後孔の穴にぴったりと合わせて、入れようとしていた。

「あ……そんな……」

俺は、身体を丸めて、その様子を覗き込んでいた。

軟膏でテラテラと濡れては居たけれど。しっかりと窄まった後孔に、俺のペニスが入る訳がない気がしていた。

でも、男が器用に、俺のペニスの先端を、「敬偉」の後孔に押し当て、グイと俺の腰をつかんで動かした。

「ひ……あ……いた……」

「敬偉」の微かなうめき声が聞こえたけれど。おもっていたよりも意外とすんなりと俺のペニスが、その小さな穴の中に入っていった。

 

最初、先端が入るときに、ゴポと音がしたようで、ペニスの先端が痛いほどに締めつけられたけれど。それが過ぎると、すんなりと、自然に腰が進んで行っていた。

 

「あ……あ……なんて……うぅぅ……」

俺は、ペニスがしっとりとした内臓に包まれて、ヒクヒクと締め上げれる快感に、頭の中がぼんやりとしてきた。

「あぁ、ほら、入ったね。敬偉」

男が俺越しに、「敬偉」の耳元にささやいていた。

「敬偉」を一番下にして、その上に俺、そうして、さらにその上に男が重なるようになっていた。頭の中に、ミルフィーユみたいにな想像が浮かんだ。

「敬偉」の身体は細くて、その重みに潰されてしまうんではないのだろうか。

俺のペニスが入っている部分から、俺みたいに鮮血が溢れて居るんではないだろうか…。

 

色々な考えが、めまぐるしく頭の中を回っていたけれど。

「ひぃ……ひぃぃぃぃ……」

男が、俺の腰をつかんで、ゆっくりと後孔からペニスを引き出していった。

そのヒリヒリとした痛みで、そういう考えが一瞬にして飛んでいった。

 

痛くて痛くて堪らなくて。俺は男にされるがままだった。でも、さっきまでと違うのは、ペニスが、柔らかく。でも、ギュウっと絞り上げられていることだった。

グチュグチュと音がして。男が腰を動かすのに反応して、自然と俺も自分の腰を動かして、「敬偉」の後孔内をグチャグチャに掻き回しているのを感じた。

「ひ……あぁ……う……ちんちんが……」

男が奥までつきあげると、俺も、「敬偉」の尻の穴の最奥まで、突き上げてしまう。

「う……あぁ……苦しい……」

俺の身体の下で、「敬偉」が呟いていた。それが、自分の腰の動きに連動されたものだ、と思うと、身体がより、ジンと熱くなるような気がした。

「ひ……ひぃぃぃ……」

尻が痛いのに。ペニスは勃起して、「敬偉」の後孔を突き上げているのが奇妙な感じだった。でも、確実に、身体の中、全部が快感で支配されていた。

「あ……あぁ……イク……」

俺は、男に腰をゆっさゆっさと揺さぶられながら、掠れた悲鳴を上げた。

「ひ……ひぃぃ……あぁ……」

「敬偉」の後孔の粘膜が、一際強く、俺のペニスを締め上げた。

いままでに感じたことがない感触で。俺の頭の中は、簡単に白く弾けた。

「あぁ……あ……」

「なんだ。もうイッたのか…」

耳元に男の声が聞こえた。断続的に。

ペニスの先端から、ドクドクと精液が溢れてきている放出感が。堪らなく快感だった。

 

いままで受験一辺倒で、そういえば、最近はオナニーもしていなかった。

もちろん、いままで女性と性交を結んだことはない。

そういう事は、大学に合格してから…と思っていた

 

だから、こんな、未知の感覚に、自制心を働かせることは出来なかった。

「う……あぁ……あつ……」

俺の身体の下で「敬偉」が呻いて身体を痙攣させていた。

俺は、そのヒクヒクとうごく身体を見つめていると、何とも言えない満足感を感じた。

 

「ひ……ひぃ……いた……」

しかし、同時に、腰がグッと力をいれて掴まれて、男のペニスが、激しく出入りをはじめた。

「ひぃぃ……いた……いたい……」

お尻から、左右に引き裂かれてしまうんじゃないだろうか…という危惧が心の中に浮かんできた。それほどに痛く、さっきまでかんじていた快感の余韻も吹っ飛んでしまうほどだった。

「あぐぅぅぅ……」

飲み込めない唾液が、口からしたたり落ちた。「敬偉」の肩のあたりに、俺の唾液がしたたって、光っていた。

「ひぃぃ……あ」

男は、腰をつかんで、滅茶苦茶にあちこちをついていた。角度を変えたり、グッと奥まで差し入れたり。

苦しくて、苦しくて。

「あぁ……うぐ……」

だから、逃げたかったけれど。グッと腰をつかまれているせいで、どうしようもなかった。

同時に、「敬偉」の中に入ったままのペニスも、うごいて、「敬偉」の後孔を擦り上げているような気がした。

「あぁ……きついな……いいよ」

男のささやくような声が聞こえた。

同時に、身体の奥。下腹部の辺りが一気に熱くなり、ヒリヒリと染みる感触がした。

 

「いた……いたい……あぁぁ……」

俺は思いきり声を上げたつもりだったけれど。実際に口からでていたのは、掠れたうめき声だけだった。

「あぁ……う……」

男の熱い息がして。俺の中で、男がイッたんだ…と気付くのに、少し時間がかかった。

しかし、後孔からズルリと異物が抜き出されて、後孔が解放されるような感じがして。

やっと、苦しみから逃れることが出来て、俺は「あぁ」と息をはいた。

 

それでも、お尻の穴が、ジンジンとしみて痛くて堪らなかった。息をするたびに、ヒリヒリと痛む。

「あ……あぁ……」

男が、俺の腰をつかんで、「敬偉」を俺の身体の下から引きずり出した。

 

心地よい粘膜につつまれていたペニスが引き抜かれるのは、なんだか寂しい気がした。

 

しかし、男は俺の身体の下から引きずり出した。そうすると、男は俺のことなどどうでもいいように、「敬偉」の身体を抱え上げて、ベッドの方へと横たわらせたようだった。

 

俺は身体を丸めてみてみると、ちょうど「敬偉」のペニスがあったあたりに、白濁とした精液が、少し溜まっているのが見えた。それではじめて、「敬偉」もイッたんだ…ということが分かった。

 

「イッてしまったんだね」

男は、ベッドの上で、「敬偉」を抱きしめるようにしていた。

そうしてから、男は、俺の方をチラリと見て、「それ、汚れているのを舐めろ」と言った。最初、訳が分からなかったが、男が焦れたように俺の髪の毛をつかんで、顔を「敬偉」が放出した精液に押しつけたので、「あぁ、これを舐めろということか」と分かることが出来た。

 

でも、それは、俺にとっては、たまらなく苦しい事だった。ものすごく生臭いし、ツンと鼻をつくような匂いが。顔を近づけただけでも、吐き気がこみ上げてきそうだった。

「無理……む……無理」

俺は、男の方を見上げたけれど、男は無表情だった。

それは、何が何でも、言われたとおりにしないと、どんな仕打ちを受けるか分からない…という恐怖感を覚える物だった。

「う……うぐぅ……」

その無表情なのが恐ろしく感じて。俺は、舌を突きだして、ペロペロとその精液を舐めはじめた。

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