さようならのくに 参 1ページ |
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どれくらい経ったのだうか…。 俺は、むくりとベッドの上に身体を起こした。両手首はもう縛られては居なかったけれど、手首の部分にくっきりと縛られていた跡が赤く残っている。それを見ると、「あぁ、やはり現実なんだ」という事を感じてしまう。 起きるたびに、「夢だったらいいのに」と思う。 黄色いスポンジで覆われた部屋は、異様で、気味が悪かった。それに、所々に黒っぽい染みみたいなものがある。最初は「なんだろう」と想像できなかったけれど。 修の行動をみているうちに、それが、古い「血の染み」であることがわかった。 中には、あたらしくて、赤い物もある。それは、今、ベッドの下の床で寝転がっている青年の物だった。 俺は、ベッドのはしにいって、そこから床に転がっている青年を見下ろした。 「やぁ、おはよう」 声をかけたけれど、彼は眠っているのか。 返事をしなかった。 最初は、彼の事も怖かった。 なぜなら、彼も、俺を犯そうとする存在で、修と変わらないように思えたから。 でも、彼は完全に修に支配されていた。 それに、今となっては、もう俺の事を犯すのは到底無理なように見えた。 だって、両手が肩のあたりで切断されて、上半身は無様に胴体だけになっていた。 それに、両足も。右足は膝から下がなくなっている。 左足は、太腿の付け根より、少し下の辺りで切断されていた。 最初、修が彼の腕を切断したときにはビックリして、何も言えなかったけれど。俺は初めて、人の手が切り落とされていくのを見た。 テレビドラマの医療シーンなんかだったら、そういうシーンはあるけれど、具体的にその部分を写すことはない。 だから、電動のこぎりが彼の肘下の肉に食い込んで、ジワリジワリと深く沈んでいく様子は、なんだかすごく現実感がなかった。 俺の頭の中には、木を裁断している人の姿が重なっていた。 でも、彼が、「ひぃひぃ」と悲鳴を上げているのと、血が。 切断部分の下に置かれているペットシートの上にどんどんと広がっていっているのとで、「あぁ、人の腕が切られている」という事を実感した。 俺は、そういうものを見たら、きっと悲鳴を上げるに違いないと思っていた。スプラッタホラーなんかは苦手だし。テレビでバラバラ殺人なんかをみていると、「よくそんな気味が悪いことが出来るなぁ…」と思っていたから。 でも、現実は、俺はだまって、ジッとその様子を見つめていた。刃が肉にくいこんで、ギザギザに切り落とされていくのを。ジッとみつめていた。 修は、コツが分かって居るみたいで、何度も角度をかえて、どんどんと刃を進めていた。だから、あまり血は飛び散らなかったけれど。それでも、少しは周囲の壁の、黄色いスポンジに散って、赤い跡を残していた。 俺は、「どうして黙ってみて居るんだろう」とか「どうして平気なんだろう」ということが不思議で。そういう事ばかり考えているうちに、彼の左手は切断されていた。 修は、「綺麗に切れただろう」と嬉しそうに言い、切断面を俺に見せてきた。それでも、その赤い肉と骨をもった丸い切断面が、人間の腕のものだ、という実感が湧かなくて。 ただ、ボウッと見ているしかなかった。 そのあとに、修は、彼の腕の肉で作った、というシチューを持ってきた。 彼の前に置いたときには何も言わなかったけれど。俺の前においたときに、「これは、あの左手のシチューなんだよ」と俺にだけ聞こえるように、ささやいた。修は、嬉しそうにニタニタと笑っていた。俺は、赤黒いビーフシチューみたいな物の中に浮いている、すこしの肉塊が、さっきの「彼の腕」とうまく符合しなかった。でも、たべてみると、案外においしかった。 俺は、自分が平気で「彼の腕」をたべていることが意外な気がした。 でも、もしも、ここで、吐いたり、「いらない」と言うと、自分もおなじ目にあうんじゃないかな…と思うと、怖かったのもある。 でも、なによりも、その肉は美味だった。 口の中に入れるとほどよい歯ごたえがある。 そういえば、前に登山にいったときに食べた、鹿肉の味に似ているような気もした。 見てみると、彼は、食うのを難儀していた。 俺は、頭の中で、「自分の手を食べるというのは、どういう気持ちなのかなぁ」と考えたけれど、想像できなかった。 自分の左手を見てみて、「これが切り取られて、自分で食べる」。頭の中で思い浮かべようと思ったけれど、なんだか気持ちが悪いのでやめた。 それから、修は仕事から帰ってくるたびに、毎日彼の身体の部分を切り取っていった。 左肘より下を切断したあとには、右肘より下。次には、左肩より下。右肩より下。 次は足にかかって、まず、左足の膝から下。ついで、右足の膝から下。 そのつぎは、左足の太腿より下。 そうして、今は、右足の太腿より下だけが残っていた。 部屋の中には彼の悲鳴と、電動のこぎりの音が響いて。俺は、みているうちに、なんだか馴れてくるような気がした。 ただ、切断したあとの修は、すごく興奮するらしくて。 必ず、俺を犯した。 後孔にペニスを挿入させられながら、血まみれの彼をみている。 そうしていると、なんだか、俺の中で現実感がどんどんと薄らいでいくように思えた。 だから、修が彼の身体のパーツを切断していくと、俺もなんだか興奮するような気がした。早く犯して欲しいような。頭の中が快感でみたされていって、切断しているのを見ているだけで、そのあとの快感を想像して、うっとりとした気分になっていた。 だから、切断したあとに、修が彼に血止めのクスリをかけたり、血が出ないように縛る布をきつくしたり、ナイロンなどで保護する作業をしている間は、たまらなくもどかしく思えた。そんなことは後回しにしていいから、早く俺の後孔を掻き回して欲しい。 あぁ、もどかしい…とおもっていたけれど。でも、そんなことを口に出すことは出来なかった。 俺は、あくまで、「修に監禁されて、犯されている…。それは無理矢理で、俺の意思ではない」ということで、アイデンティティーを保とうとしていたから。 それに、俺がそうして興奮するのは、修が俺になにか、そういうクスリをもっているせいかもしれない…ともおもった。食事の中に混ぜているのかも知れない。 しかし、切断する都度、修は彼のパーツを料理して食べさせてくれた。 それは、肉の味噌炒めだったり、ハンバーグだったり、ステーキだったり。 でも、どれも美味にかわりはなかった。 修は、彼自身にも、「彼の肉」を食べることを強要していた。最初のシチューの時には、かなり難儀したけれど。 それ以来は、どうせ無理矢理食べさせられる…と悟ったのだろう。彼は大人しく、差し出された肉を食べていた。それでも、時折泣いたりしていて。 俺は、その泣き声が響くと、より、肉を旨く感じる気がした。 「起きているのかい? 」 俺は、もう一度、青年の方を覗き込んで、声を掛けてみた。彼は、こちらに背をむけていたけれど。すこしモゾモゾと動いて、仰向けになって、こっちの方に視線を向けてきた。 黒い目が、ギョロッとこちらを向いた。俺は一瞬、背筋がゾクゾクとした。 部屋には、時計がない。だから、いつ修が帰ってくるのか分からない。 俺は、青年の股間部分をみつめた。 ペニスが大人しくダランと垂れている。 なくなった左腿の部分が、紐できつくしばられて、ビニールに覆われているので、無機質な異物に囲まれているようなペニスが、より生々しく見えた。 「なんだか、お腹が空いた。君は? 」 俺は彼のペニスから視線を外そうと思ったけれど、なんとなく出来なかった。 それが。たまらなく魅力的に見えたから。 あれでも、何度も犯されたことがある。 今は、萎えて、垂れているけれど。あれが勃起したときは……。 俺は、空腹を覚えると同時に、なんだか性欲も湧いてきている気がした。 彼のペニスをジッとみつめて、ソレから目が離せなかった。だから、本能的な行為だった。俺はもベッドから降りて、彼の横たわっている身体のすぐ傍に行った。彼は、ギョロッとおおきな目で、俺の行為を見ていたけれど。何も言わなかった。 それが、彼が人形みたいに見えて、俺の罪悪感を払拭していった。 俺は、床に手をついて、彼の下半身に顔をよせて、じっくりとペニスを見つめてみた。 左足の腿から下がないから、彼は身体をずらしたり、逃げたりすることが出来なかった。かうじて、胴体をすこしだけ揺らした程度だった。でも、それは、逃げようとしていたのか。俺にペニスを見せつけようとしているのか分からなかった。 俺は、ペニスをジッとみていると、自分が枯渇してきているのがよく分かった。だから、舌をだして、彼のペニスを舐めてみた。 「う……」 微かな彼の声が聞こえて、身体がビクンと動いた。愉快な気がしてきていた。 俺は、さらにペニスを喉奥にまでふくんで、グチュグチュと音を立てて舐めてみた。 彼の、唯一残っている右足の腿から膝までが、上下に動いていた。 それは、きっと快感を覚えてに違いない。俺は、自分の口の中で、ペニスが徐徐に大きくなっていくのを感じると、背筋をゾクゾクと快感が這い上がってきた。 たまらなかった。 連日のように、修に犯されているのに、どうして、今、こんなにも快感が欲しいのだろうか…。 もしかして、修が食事の中に何かクスリでもいれていたのか…。もしくは、自分が代わってしまったのか。 ペニスをみると、どうしても犯して欲しい身体に変わってしまったのか…。 そう考えると、自分がどんどんと作り替えられていって居るようで「ゾッ」とした。 「俺」が「俺」で無くなっていっている。 蕎麦屋でアルバイトをしていたときの事が遠く感じられた。山に登って、それで満足を得ていた自分が、別人のように感じる。 そんなことよりも、今、こうしている方が、ずっと快感なようで…。 「あぁ……大きくなった……」 俺の口の中で、ペニスがどんどんと大きく、屹立していっていた。 何度も、舐めているから、この青年のペニスが、どこが感じるのか…ということは分かり切っていた。裏筋から、双球の奥。尻の割れ目とペニスの付け根とをなめると、彼は「う…う…」と快感の声をもらして、完全にペニスを屹立させた。 俺の唾液で、テラテラとペニスは光っていた。 輝いている男性器をみていると、俺は、自分の後孔が、「シュンッ」と窄まるような感じがした。あぁ、この男性器を後孔に入れたら、どんな感じだろうか…。 今まで何度も経験してきた快感が頭の中によみがえってくる。 俺は、我慢できなくて、身体をずらして、彼のペニスの上に自分の後孔の窄まりを押し当ててみた。 今までは、いつも修がいて、修が俺の腰を掴んで、この青年のペニスを俺の後孔に入れていた。だから、2人きりでこういう事をするのは初めてだったけれど。 だから、最初は少しどういう角度で彼のペニスを後孔の窄まりにおしあてたらいいのか分からなくて、何度も俺の尻の割れ目に彼のペニスの先端を押しつけていた。 でも、そうしていると、余計に、彼のペニスの先端から、にじみ出ているクチュクチュという先走りの精液が、俺の尻の割れ目を擦る音がして。より、興奮してきた。 青年の肩をつかんで、何度か尻の割れ目をペニスに滑らせたあと、ようやく、割れ目の奥。 尻の穴の中に、青年のペニスの先端がグチュと音をたてて、入ってきた。 「あ……あぁ……はいる……」 俺は、こうして、自分で男のペニスを後孔に受け入れるのは初めてだった。 だから、本当に入ってきているのか。最初はなんだか疑わしかったけれど。 腰をおとしていくにつれて、ジワリジワリと、「あぁ。ペニスが本当に入って居るんだ…」ということを実感することが出来てきた。 それは、後孔が押し広げられていく快感が、背筋を這い上がってきていたから。 枯渇していた後孔が、熱い塊で広げられて、満たされていく…。 「あ……あ……」 俺は声をあげて、青年の肩をつかんだ。しっかりとした肩を両手で掴むと、もう、あとは身体が勝手に動き始めた。 腰が揺らいで、ペニスを後孔の内壁にこすりつける。 「う……あぁ……」 青年も、うめいて、快感に顔を赤くしていた。それが、かろうじて、この青年が人間なんだ…ということを表しているようで…。それに、後孔の中に入っているペニスが粘膜を擦り上げる感触が、たまらなく気持ちいい。 「イイ……あぁ……いぃ……」 俺は、とりつかれたように、激しく腰を動かした。頭の中が、白濁としてきていて、薄ぼんやりとしていた。快感が、体中に回って、それに、支配されていく。 「あ……あぁ…いいよ…きもちいいよ…。君の…おちんちん……」 俺はうわずった声を上げながら、自分の男性器をつかんで手でしごいた。もう、すでにそれは、彼の下腹部と擦れて勃起していた。先走りの液が、彼の肌を汚していっている。 俺は、自分が、自主的にこういう行為をしているのが、嘘みたいだった。 半分、夢見心地だった。 もしかすると、これは夢の延長なのかもしれない。ただ、後孔を擦る感触だけが、ダイレクトに脳にひびいて、現実的なだけで。 だから、俺は、一際激しく、腰をうごかした。 絶頂が近いような気がした。 「ひ……ひぃ……あぁ……イク…」 俺が微かに声をあげると同時に。 突然、頭に痛みが走って、後孔から、彼のペニスが引き抜かれた。 「ひ……ひぃ……」 最初、何がおこっているのか分からなかった。 ただ、床にうちつけられた肩が痛かった。それに、さっきまでペニスがはいっていた後孔がヒクヒクと蠢いていて。パクパクと口を動かしているような気がした。 「な……なに……」 俺は、床に這いつくばっていた。そうして、自分が両手をおいてはいつくばっている床をジッと見てから、首を後ろにひねって、見上げてみた。 最初は蛍光灯の光がまぶしくて、シルエットしか見えなかったけれど。それでも、俺は、背筋がゾッと恐怖に震えた。 そのシルエットだけで、「修」だと分かった。 「あ……あ……」 俺は、声をあげて、「何かいわなくては…」とおもったけれど、実際には口からは何も言葉が出てこなかった。ジッとみていると目がなれて、修の表情が見えた。 俺は、彼が顔をあかくして怒っているだろうか…と思ったけれど。 意外にも、静かで、無表情だった。でも、そのことが、より、恐怖を増幅させていた。その無表情の下に、どういう感情をかくしているのか分からない。 修は帰ってきたばかりのようで、スーツ姿だった。 「何をしていたんだい? 」 修の静かで、低い声が、部屋の中に響いた。俺は、慌てて身体をまるめて、「あ……あ……違う」と呟いた。 そうしてから、俺の傍らに膝をついて、顔を覗き込んできた。 「何をしていたんだい? 」 「ち……ちがう……俺は…ただ……」 たまなく空腹なのと、なんだか、快感を感じたくて頭が朦朧としていて。それで、あんな事をしてしまったんだ。 「そうか。この男に、無理矢理入れられたんだね。可哀想に」 修は、静かに言って俺の髪の毛を撫でた。 俺は、その言葉にすがるように、必死で何度もうなずいた。 「ウン……うん……だって…だって…俺は……」 「可哀想に。じゃあ、この男に罰を与えないとね…」 どう考えても、両手と片足のない、ただの肉塊に近い男が、俺を犯すだなんて無理に違いない…。それに、俺はこの青年の上にのって、腰を動かして快感を貪っていたのだ。 それをみていた修は、全部分かっているに違いない。それでも、敢えて、そういう言い方をしたんだ。なんだか、そのことはとても怖いような気がした。 修は、いったん部屋を出て行った。俺は、その修の後ろ姿をみつめると、ドキドキと胸が高鳴っていた。 修に、何をされるのだろう…。怖い。逃げ出したくて溜まらなかったけれど。この部屋は、外から鍵が掛けられているようで、ドアをどれだけ叩いても、ドアノブをまわしても、逃げることは出来ない。そのことは、もうすでにわかっていた。 だから、俺はジッと修が戻ってくるのを待つしかなかった。 次にドアが開いたとき、修は、ジャージの上下に着替えていた。いろいろとかんがえていたせいで、おもっていたよりもずっと早く修が部屋に入ってきた気がして。俺は心の準備ができていなくて、胸の動悸が、より速くなった。 「本当に、この男はどうしようもないね。さぁ、敬偉。君が仕返しをしたらいい」 修は、青年の右足の付け根辺りにグルグルと紐を巻いていた。そうして、きつくそれを締め上げた。そうして、その縛り上げた辺りの太腿の下に、ペットシートみたいなものをひいていた。 俺は、それ見ていると、ゾッと背筋に悪寒が走った。なぜならば、それは、いつも修がこの青年の手足を切断するときにしている行為だったから。 だから、俺は、その仕草は、なんだか「儀式」みたいに見えていた。これから、男の「手足」を切断していくんだ…という。 ただ、今回、ちがったのは、修は、電動のこぎりを手にして、俺の手をつかんで、引き寄せたことだった。 「ひ……」 さっきは興奮していて、あまり気にならなかったけれど。こうして、あらためて冷静に青年をみてみると、本当に異様に感じる。 両手がなくて、その切断部分がビニルで覆われている。左足も、太腿から下がない。 右足だけが、かろうじて太腿から膝までのこっていた。 「さぁ、仕返しをしたらいい」 修は、俺の手をつかんで男のすぐ傍に座らせた。見ているのも気持ちが悪いような気がした。 「え……え……」 俺が戸惑っているうちに。 修は俺の身体を、自分の身体の前くるように手をつかんで引っ張り寄せていた。俺は、背後から修に覆い被さられるようにして、青年の身体のすぐ傍らに、膝立ちで立っていた。 修は、そうして、俺の手に、電動のこぎりを握らせた。 「な……なに……」 電動のこぎりは、ズシリと重たかった。 俺は、その意図がよく分からなくて。ただ、握っている電動のこぎりをみつめていた。 刃がどす黒くて、血を吸って、そういう風に黒くなっているように見える。 「仕返しをしていいんだよ。ほら、ここから切るといい」 修は、青年の太腿の辺りを、指で撫でた。 俺は、一瞬言葉の意味が分からなかったけれど。自分の握っている電動のこぎりの重たさ。それに、目の前の青年のしばりあげられている太腿をみているうちに。修の言葉が、心の中に落ちていくようにして、理解された。 修は、俺に、この青年の太腿を切れ、と言っている。 「ひ……ひぃ……無理…」 俺は、理解すると同時に、大きく身体が震えて、電動のこぎりを取り落としそうになった。でも、俺の手を、修がギュッと上から握っていたせいで、それは落ちずに、俺の手のひらの中に収まっていた。 修は、背後から、俺の耳元に唇を寄せてきた。 「無理なんかじゃないよ。ほら、こうして俺が手をそえていてあげよう。 そうすれば、簡単だろう」 「う……うっ……許して…」 俺は、自分の身体がガクガクと震えているのを止めることが出来なかった。 青年の顔をみてみると、恐怖にこわばっていた。 目を大きく見開いていて、修と俺をジッとみている。 「あぁ……許して…許して…」 修は、俺の言葉に、すこしだけ考えるようにしてから、クッと喉奥で笑った。 「敬偉が、この男の足を切ることが出来ないんだったら、もう、敬偉が快感を感じられないように、おちんちんをきってしまおうか。 この男の太腿をきるのと、敬偉のおちんちんを切ってしまうのと。どちらがいい? 」 俺は、一瞬、修の言葉の意味が分からなかったけれど。 頭の中で理解されていくとともに、恐ろしくて、身体がガクガクと震えはじめた。 「やめて……たのむから……おちんちん…はきらないで……」 自分の身体から、性器が切り離されたら…。 それは、想像するだけでも、たまらなく恐ろしかった。 「じゃあ、この男の足を切るしかないね。簡単だよ。さぁ、ほら、スイッチをいれて」 「あ……あ……」 俺は、修の恐ろしい提案から逃れるように。言われるままに、電動のこぎりのスイッチを入れた。 「あ……あぁ……すご……」 ウィーンと微かな音がして、電動のこぎりの刃が回り出す。 それは、目に見えない早さで。俺は、自分が、その電動のこぎりを持って居るんだ…ということが嘘みたいで信じられなかった。 「ほら、太腿のここら辺に刃をあてて。ゆっくりと切り進めてごらん」 「う……う…」 俺は、ただ、何も考えないように。修が指し示した辺りに、その回転している刃を当ててみた。 「ひ……あ…」 同時に、ビシュッと勢いよく血が飛んだのが見えた。 俺は、血が飛んできて、自分の顔にべったりと付いたんだ…ということに気付くまで時間がかかった。修が俺の手を上から握って、刃をその位置でとめていた。 「あぁ、そんなに一気に刃をすすめると、血が飛び散るだろう。ゆっくりと進めていくんだよ」 電動のこぎりが重たくて。それで、自分では少しだけ刃を進めたつもりだったのに、思ったよりも、深く食い込んでしまっていたことに気付いた。 「あ……ひ……肉が…見える…」 電動のこぎりの刃が食い込んでいる部分から、赤い肉と血が見えていた。肌色が裂けて、真っ赤な肉が見えているのが。 異様に感じられて、俺は現実感がなくなってきていた。 でも、ただ、早くこの作業から逃れたくて。 「あ……あ……」 俺は、力をこめて、電動のこぎりの刃を進めていった。 そのたびに、いきおいよく、血が飛び散っていた。 「せっかちだね…。ほら、こんなにも血が飛び散って…」 進めていた刃が、途中で止まった。俺は、どうしてだか分からずに、思い切り力を入れると、ギリギリと肉が裂けていく感覚がして、刃がストンとペットシートの上に落ちた。 「あ……そんな……あぁ……」 俺は、手にしている電動のこぎりが回転し続けているのを見ていた。それは、青年の、切断された太腿と、足の間で床に落ちて、ウィーンと回転し続けていた。 「あぁ、沢山血が出てしまったね。それに、飛び散ったし。 もっとゆっくりと切らなくては駄目だよ」 修は呟きながら電動のこぎりを手にとって、スイッチを切った。そうして、刃にこびりついている血を、タオルで拭いていた。 俺は、なんだか現実感がなくて。ただ、目の前の青年の足をみつめていた。 いや、「元・足だった部分」をジッとみていた。 皮膚が張って、中に筋肉がみっちりとつまっているように見える。 その切断面の中央に白いものがあり、最初、俺は「それは何だろう」と違和感をもっていたけれど、「骨だ」と分かると、ゾッとした。 それは、自分が改めて男性の足を切断したんだ…ということを実感したからだった。
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