さようならのくに

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たしかに。この中にペニスを入れたら、どんなに心地がいいだろうか…。

「あ……あぁ…」

俺のペニスは、もう限界まで屹立していて、先走りの液のせいで、テラテラと光っていた。

「う……あ…そんなこと…いわないで…」

言いながらも、俺も、熱に浮かされているような心地だった。

身体が勝手に動いて、青年の首を跨ぐ。そうして、青年の顔を見ながら、首にあけられた穴に、ペニスを差し込んでいった。

「あ……ひ……」

穴は小さかったから、俺がペニスをじわりじわりと入れていくと、その裂け目が広がって、血がドクドクと中から溢れるように流れ出ていた。

 

「あ……気持ち……気持ちいい……」

修の言うとおり。中はギュウッとペニスを締めつけてきていた。でも、それは後孔の締めつけとはまた違って。

細い筒に、強引にペニスを入れているような感触。それに、食道の粘膜は、ドロドロで柔らかいような。どぶの中に入れているようでもあった。

「あ……う……」

俺がペニスをいれたまま、ジッとその感触に浸っていると、俺の後ろで、ベリベリとガムテープを引きはがす音がした。

「あ……だめ……」

それは、修が、俺の後孔に固定しているバイブのガムテープをはがしている音だった。尻の皮膚が引っ張られて、奥まではいっていたバイブが、ジワリジワリと後孔の中で浮くようにして、外に出てこようとしている。

「だめ……だめ……」

俺は、必死で喘いでいた。ソコが空虚になるのが怖かった。

今まで満たされていて、中をかきまわしていたモノが、去っていくのは、身体にぽっかりと穴が開くような気がして。

「あ……やめて……うぅ……とらないで……」

「そんなにも気持ちいいかい? このバイブ?

修の言葉には、笑いが混じっていた。

「う……うん……うぅ……」

かろうじて、微かな羞恥心で、俺はすこしだけうなずいたけれど。

修の声が、笑い混じりだったので、より、恥ずかしく感じた。

でも、修は無情にも、ベリベリとどんどんとガムテープを剥がして、「さぁ、最後のテープだ」と笑いながら言い、ビリビリと音を立てて、テープを俺の尻から引きはがしていった。

 

「あぁ、テープを貼っていた部分が、赤くただれている。テープの形に、真っ赤になっていて。まるで、模様みたいだね」

修の言葉に、俺は自分の尻に、赤いテープ跡が付いている光景を頭に浮かべた。

それは、淫行の証のようで、なんだか恥ずかしかった。

「あ……」

そう思うと同時に、ペニスがビクと震えて、青年の食道の皮膚を、ズッとこすりあげた。

「さぁ、じゃあ、これを抜こうか…」

「あ……あ……やめて……ぬ…ぬかない…で」

俺は、身体の中心がぽっかりと空虚になるのが怖くて、微かな声を上げたけれど。

ペニスを青年の食道に入れていて、修の手に、肩をつかまれ、どうすることも出来なかった。

「あ………あ……出る……」

「あぁ、ほら、出てきたよ。敬偉の中に入っていたバイブ。ドロドロに濡れている」

「う…」

俺は、頭の中に、後孔からバイブが引き出される光景が浮かんでいた。

後孔の粘膜をひきつれながら、バイブがじわりじわりと出ていく。それを、後孔の襞が、必死に締めて、食い止めようとしている。

「あ……あぁ……」

ズチュと音がして、バイブか完全に後孔から抜き出された。

「う……」

そうすると、後孔が空虚で溜まらないような気がしてきた。腰がムズムズと勝手に動いてしまって、後孔の刺激を求めている。

頭が、どんよりとしてきた。ペニスは気持ちいいけれど、後孔がむず痒いような。

「あ……入れて……いれて…」

もう、何でもいいような気がしていた。とにかく、俺の後孔にも何かをいれて掻き回して欲しい…。

 

俺は、もどかしくて、腰をゆらした。そうすると、ペニスが、青年の、食道の粘膜をよりこすりあげて首の傷が広がったように見えた。

 

「あぁ、じゃあ、ご希望通り。おちんちんを入れてあげよう」

修の声は、歌うように軽やかだった。だから、耳に響くとここちよくて、より、快感が増幅した。

「あ……あつ…」

修は、俺の腰をがっちりとつかんで、すこし、前のめりにさせた。

そうすると、ドロドロとした食道の中にいれているペニスが、その粘膜を突き破りそうな気がする。だけれども、それよりも、後孔に押し当てられた、修のペニスの感触の方が強烈で。

俺は後孔の方に、全神経が集中していっていた。

あぁ、修のペニスが入ってくる…と感じると、その快感が頭の中に再び再現されて。

後孔が、ジュクジュクと蠢きはじめているのがわかった。

「さぁ、入れるよ」

静かな声とともに、後孔にぴったりと押し当てられていたペニスが、グイと後孔の中に押し入ってきた。

「ひ……ひぃ……」

俺の口からは、微かな悲鳴が漏れていた。

固定されている腰に、修の腰がぴったりと密着してくる。汗がまじりあうような、べったりとした感覚。それに、ガムテープの跡のせいで、俺の肌に粘着質のあるベタベタとした粘液がのこっていて、それが修の肌をより、吸着させようとしているみたいだった。

 

「あ……あ……いぃ……」

後孔が満たされる感触。それに、後孔の中で、ドクドクと熱く脈打っているような感覚に。

俺の頭がぼんやりとしてきた。

「あ…ひ……気持ち……いい……あぁ……」

クスリのせいなのかなぁ…と頭の片隅でおもった。それでこんなにも気持ちがいいんだろうか。

もしくは、自分の身体が作り替えられてしまったのか…。

いままでは、ただの自慰で我慢できていたのに、こんなにも後孔にペニスを入れられることが快感だなんて…。

 

こんな事を知ってしまって。俺は、なんだか、もう、後戻りができないような気分になってきていた。

このまま、どこまで流れて行ってしまうのか…。

でも、修が、俺の手を引いて、流れに導いていってくれるならば…。それでもいいような気もした。

「あ……あぁ……」

「キツイね。いいよ。敬偉の中。気持ちがいいよ」

修の声も、快感ですこし掠れていた。それをもたらしているのが、俺だ…と思うと、もどかしいような。うれしくて腰を揺らした。

すると、ペニスがどろどろとした食道の粘膜にこすれた。食道も、突き破ってしまうかも知れない…とおもった。

そうしたら、どうなるんだろうか…。もっと、この青年の首から血があふれ出てくるのかな…。

「あ……いい……」

俺は呻きながら、青年の顔を見てみた。

おおきく開けられている右目は、俺の腰の動きに合わせて、白眼になったり、黒く濁った瞳が戻ってきたり…。

それを繰りかえしていた。

俺は、なんだか、その瞳の動きがゲームみたいに滑稽に思えて、より腰を動かした。すると、中で修のペニスが擦れて、より気持ちがいいし。ペニスも、あたらしい粘膜にどんどんと包まれていく感じがした。

 

「いい……あぁ……いいよぅ……」

俺は、もっと別な事も言いたいはずだったけれど。でも、口から出てくるのは、そんな喘ぎ声だけだった。

この、青年の食道が、ドロドロとした汚泥のような感じだけれど。それでも、その汚泥は意識を持って、俺のペニスを締めつけてきていることとか。

後孔に入っている修のペニスが、奥を突くたびに、背筋がジンジンとして、快感が頭の先まで走っていくこととか。

 

全部、言葉にしたいのに、口からはただ、喘ぎ声をもらすことしかできなかった。

 

それに、快感が強すぎて、口をとじることもできなかった。だから、俺の唇からは、唾液がポタポタとあふれ出ていた。

「あぁ……いいよ……イク……」

腰を何度も強くひきつけて、俺の後孔内の粘膜を、あちこち擦り上げて。修の身体が、背後で痙攣するようにビクビクと震えているのを感じた。

つられて、俺も腰を動かして、青年の、さらに喉の奥までペニスを突き入れた。

「ひぃ……ひぃぃ……」

「あぁ……出る……出るよ…敬偉」

後孔の中が、熱く満たされる感覚がして、後ろで修の声がした。

「あ……あ……」

中に、修が放出したんだ…と思うと、俺も、快感が頭の先まで突き上げてくるような気がした。

俺は、我慢がならなくて、身体をまるめて、青年の髪の毛を鷲づかみにした。

「ひ…」

顔が上を向いて、青年の黒目と、ばっちりと目が合った。

その瞬間だった。

「ひぃ……出る……出るぅ」

俺も呻いて、ペニスの先端から、精液がドクドクと放出される解放感。

それに、身体が包まれた。

「あ……あ」

ドクンドクンと断続的に精液が出ていって。俺は気持ちがよくてたまらず、青年の髪の毛をさらに掴んだ。

そうすると、首の裂け目がより広がって、俺のペニスが、更に食道の奥まで入っていくような気がした。

ペニスの先端が、締めつけられているような感触がここちよかった。

「あ……あ……」

俺は、放出し終えてからも、しばらく。そのまま、ペニスを奥まで差し込んだ状態で、その感触にひたっていた。

それは、修も同じようで。俺の後孔の中にペニスをいれたまま、洗い呼吸を何度かしいた。

 

だけれども、少し間がたつと、ズルリと後孔からペニスが引き出されていくような感覚がして。

「あ……あぁ……」

修が、俺の中から出ていったのが分かった。

同時に、俺の腰も掴まれて、ドロドロとした食道から、ペニスがゆっくりと引き抜かれていくのが見えた。

青年の首から、俺のペニスが出てくる。

じっとりと血と精液と、青年のタンか、食道の粘膜か。とにかくテラテラとしたものをまとったペニスが引き出されてくるのは、みていると、あまりにも異様で。

グロデスクな気がした。でも、その異様さにも、微かに身体がほてるような気がした。

 

「あぁ……」

修は、俺の身体を大切そうに少しだきあげると、ゆっくりと床の上に寝かせた。

そうして、俺の下半身部分にペットシートを引いていた。

「あ……あ……」

俺が呼吸をするたびに、後孔に放出された精液が、ゴポゴポと音をたてて、後孔から漏れ出てきていて。ペットシートをひいた意味がわかった。

俺は、チラと青年の方に視線をやってみた。

青年は、胴体だけで、へそが異様におおきく広がって、血だまりになっている。それに、首に切れ目がいれられていて、そこからも血が溢れていた。

ただ、両方とも、血だけでなく、俺の精液。それに、体内からでている粘液みたいなのも混じって、泡立っているように見えた。

 

「うぐ……ぐぅぅ……」

変なうめき声がしたので、まだ、青年がかろうじて生きて居るんだ…ということが分かった。

ただ、喉をさかれているせいで、声ではなくて、呼吸音が漏れたような奇妙な音だった。

青年を見ていた目を、ずらすと、修はジャージにTシャツで、すっきりとした服装にもどっていた。その様子は、さっきの性交の跡を残していないように見えたけれど。

よくよく観察してみると、若干あせばんだせいで、耳の後ろの髪の毛が肌にはりついていた。

ただ、修の、その微かな性交の跡にくらべて、この青年の「跡」はどんなに巨大だろう…。その歴然とした差に、俺は目を奪われているような気がした。

交互に2人をみていると、同じ空間に存在しているのが信じられないような。

同時に、「あぁ、俺はどうなんだろうか」と思った。

俺は、自分の後孔が、「でれん」と広がって居るんじゃないだろうか…という不安が湧いてきた。だけれども、自分では確認のしようがなかった。

でも、俺の呼吸にあわせて、パクパクと後孔が蠢いているような気がしてならなかった。

 

ただ、さっき、あれほど枯渇して、何かを入れたい…とおもっていたのが嘘のように。

今は、ただ、みたされた快感の名残があるだけで。

強烈な性欲は去っていっていた。

 

「まだ生きているねぇ」

俺がようやく呼吸をととのえた頃。

修ののんびりとした声が聞こえた。一瞬、何を言っているのか分からなかったけれど。

見てみると、修が、青年を覗き込んでいた。

「みてごらん、敬偉。ほら、まだ生きている」

修は、俺の腕をひいて、青年の横にまで近づけた。俺は、隣でみてみると、その青年の姿が、より異様に見えて。

なんだか、作り物をみているみたいな感覚になった。ただ、青年の目が、ギョロとうごくことで。「あ、生きている」と感じた。

ただ、そうなると、もう、本当にグロデスクなだけだった。

喉をこんなにも切っても、まだ生きている…ということが信じられない気がした。

「頸動脈は切っていないからね。でも、このまま置いていたら、失血死するだろうねぇ」

修の言葉はのんびりとした口調で、表情には微かに笑みさえ浮かべていた。

こんなにもグロデスクなものを見ているのに、愉快そうなのが。なんだかチグハグな気がした。

「このまま、失血死してしまうのを待ってもいいけれど。それだと、ただ苦しいだけだろう。

 敬偉、いっそ、楽にしてあげたほうがいいと思わないかい?

修がこちらの方を見てきたので、一瞬、ドキリとした。

それではじめて、いままで修の視線を独占していた、この青年に、自分が微かに嫉妬を覚えていたことを知った。

修の視線が、また青年に戻るのがなんだか悔しくて、俺は修の腕をつかんで、「うん、うん」と必死にうなずいた。

修は、そんな俺の仕草を目をほそめて見て、俺の髪の毛を撫でた。手のひらの温かい感触が、心地よかった。

「じゃあ、敬偉。この人を楽にしてあげよう。

 さぁ、ハサミを持って」

修は、俺を抱えて、青年をまたぐような格好にさせた。そうして、背後から俺の手をつかんで、両手でハサミを握らせるようにした。

「あ……」

俺はドキドキとした。青年の右目だけが、ギョロとこちらを見ていた。その瞳から、視線をそらした。修は、俺の手を誘導して、首の、開いた穴にハサミを入れた。

 

「う……」

グチュと音がして、ハサミの刃が沈んでいく。

俺のペニスをいれていたから、ハサミの刃の部分だけでなくて、持ち手の部分も少し沈んだ。

俺は、まじまじと首の皮膚の裂け目をみつめた。それはギザギザに皮膚が裂けていて、中の真っ赤な肉の盛り上がりが見えていた。

「う……あ……」

俺は胸がたかなっていて、何か言いたいけれど。言葉にできなかった。

修は、もっていた俺の手を離した。

だから、今は、俺だけが、ハサミを青年の首に突き立てていた。

「そのまま、左右に動かしてごらん」

修が、後ろから耳元にささやいてきていた。

俺は、その声に憑かれるような気分になって、言われるがままに、もっているハサミを、左右に動かしてみた。

でも、その作業は思っていたよりもずっと困難だった。

皮膚がメリメリと裂けていく。それに、すごく力がいった。でも、俺は、修に言われたから。

ただ、無心で、必死に力をこめて、ハサミを右に傾けていった。

「あ……あ……裂ける……首が……」

すごく力を込めていたのが、一瞬、フッと楽になった。同時に、ビシュッと音がして、頬に、何かが飛び散った。そうして、視界が真っ赤になった。

「あ……」

俺は動揺して、ハサミをくいこませている手に、さらに力を込めてしまった。

すると、もっと、もっと、強烈な赤色が視界を覆い尽くしていき。

血が飛び散っていた。

 

俺の顔にも、身体にも。それに、部屋中に、血が飛び散って、青年の下にしいていたペットシートがみるみる真っ赤になった。人の身体から、噴水みたいにそんなに勢いよく血が飛び散るだなんて知らなかったから。俺は、なんだかテレビの安っぽい作り物でもみているような気になっていた。

「あぁ、頸動脈が切れたんだね」

修は静かに言って、たちあがり、青年の首の下に、ペットシートを敷いた。だけれども、青年の首はほとんど断絶されていて、修が頭をもちあげても、皮膚が伸びただけで、身体はうごかなかった。だから「敬偉、肩を持って」と言われた。俺はハサミ首に突き刺したまま、いわれるままに青年の肩をもった。修は要領よくシートをしいたけれど、その新しいシートも、すぐに真っ赤になっていった。

俺は、ハッとして、青年の右目をみたけれど、その瞳はどんわりとにごっていて、もう動くことはなかった。

「あ…死んでる」

俺の口から、あまりに陳腐な言葉が漏れた。

修は、青年の顔の横に座って顔を覗き込み、「そうだね」と言った。

そうしてから、にっこりと笑って、こちらを見てきていた。

 

頸動脈が切れたときに、血がとびちったせいで、修の顔にも、Tシャツにもジャージにも、明るい色のあたらしい鮮血がついていた。

 

「敬偉が殺したんだね」

その静かな声に、俺は、青年の首につきささっているままのハサミに目をやった。

そうしてから、修の言葉が、じわりじわりと身体に広がるように理解されていって…。

 

「ひ……ひぃぃ……」

掠れたような悲鳴が、俺の口から漏れていた。

俺は、慌てて青年の上から身体を離して、できるだけ遠くに。這って逃げた。

 

それは、改めて「青年が死んでいる」というのを実感したのと「自分が殺した」という事実から逃げたいからだった。けれども、修は、そんな俺を追うように、立ち上がって、青年の首からハサミを抜き取ると、それを持って、スタスタと俺の方へと歩いてきた。俺はソレから逃げようとしたから、自然と部屋の片隅に追いやられたような形になった。

 

「敬偉が殺したんだよ。

 これで、敬偉も人殺しだ。

 人殺しは罪が重いね。どうなるのかなぁ…。

 それに、取り調べもキツイだろうねぇ。どんな風に責め立てられるのかな」

修の静かな声に、俺は耳を塞いだ。

テレビなどで見たことがある、厳しい取り調べの光景。それに、服役している囚人などの事がチカチカと頭に浮かんできた。

「だっ……だって……」

修が、「殺せ」って言ったから。でも、そんなことは言い訳にならないのは分かっていた。

壁にも、修の服にも鮮血が飛び散っていて。俺は、改めて、自分がしたことを実感していた。

さっきまでは「人間」だって青年が、いまや、ただの「肉塊」になって横たわっている。

そうして、「それ」をしたのは俺だった。

「あ……あ……」

俺は、自分の両手を見つめてみた。

べっとりと、真っ赤な血がついていた。それが、なんだか、ベタベタとしていて。

手をにぎったり、開いたりするたびに、手が「ねちゃねちゃ」とした感覚に覆われる。

「敬偉」

修の低い声に頭を上げた。頬も、飛び散った血で汚れている修の顔が見えた。

「敬偉が、ずっと、ココにいて、俺と一緒にいるんだったら、黙っていてあげてもいいよ。

 ずっと、ここで、俺と一緒に居るんだったらね」

修の背後に蛍光灯の明かりが見えて。それが、まるで、後光が差しているように見えた。

「あ……あ……。居る……うん。

 い……言うとおりにするから…」

どうか、あの青年を殺したことを黙っていて欲しい。

俺は、部屋を這って、修の足にしがみついた。それは、ワラをも掴むような心地で。

ジャージのズボンを必死で握りしめた。

「あぁ、じゃあ、俺がうまく処理してあげるよ。心配することは何もない」

修が、俺が掴んでいた手をとり、しゃがみ込んできて、俺の頬を撫でた。

修の手にも、血がついていたから、頬がべたつく感触がした。

でも、修の言葉に、少し、気持ちがホッとした。

 

「あ……うん……い…言うとおりに…するから…」

「いい子だね。敬偉は…」

修は、目をほそめて、俺をみつめていた。それが、いかにも、愛しいモノをみつめる人の目のようで、少し気恥ずかしかったけれど。俺も、ジッと修の目を見つめ返した。

 

「それじゃあ、処理をするから。敬偉は見ない方がいい。

 でも、これで、だいぶと食費が助かるね」

修の声は、歌うように軽快だった。そうして、少しキョロキョロと周囲を見回してから、自分のTシャツの裾部分を少し裂いた。そうすると、ちょうど細長い、ネクタイみたいな布きれが出来上がっていた。所々に血が飛び散っていたけれど。

 

そうして、その布きれを、俺の目の上にかぶせて、頭の後ろで縛った。

「あ…」

視界が完全に断絶されて、何も見えなくなった。

目隠しをされたんだ…と気付くのに、少し時間がかかった。

「敬偉、敬偉はゆっくり休んでいると良い。疲れただろう」

口があけられて、何か錠剤みたい煮物が舌の上に置かれた。

そうして、次いで、グラスが口にあてられて、水が流し込まれた。

「う……」

一瞬、喉奥に貼り付いた気がしたけれど、水がながれこんできたせいで、それは胃の中まで嚥下されていった。

修は、俺を抱え上げて、ベッドに寝かせたようだった。

目が見えないから、どうすることもできなくて、されるがままだったけれど。

 

ベッドに寝かされて、少しすると、奇妙な音が聞こえてきた。それは、なんとなく、子供の頃。両親が「今日はお客様が来るから、ごちそうよ」といって、飼っていた鶏をさばいているときの音を、思い起こさせた。どうして、そんなことを思い出したのか分からない。

ただ、頭の中に、毛をむしられて、首をひねられ、足を両方から裂かれていく、鶏の姿がまざまざと浮かんできていた。

どうしてだろう……。久しく思い出したことがなかったのに。

ただ、そうしてぼんやりと考えているうちに、強烈な眠気が身体を襲ってきた。

その眠気は、防波堤を打ち付ける波みたいに。何度もゆらりゆらりと頭の中を掻き回していた。

 

俺は、鶏の姿を浮かべながら…。

そのまま、眠気に身体を任せた。

 

2013 11 01 UP

書き上げてみると、意外と短いモノになりました。
私はどちらかというと、こういうようなものばかりを書いているのですが、なんとなくHPにはいままであまり、
明確に「カニバリズム」なものとか「人体改造」系なものはあげていなかったなぁ…と思い、上げてみました。

けっこうグロデスクなので、嫌だったひとはすみません。

医療上、こういうことは無理なんていう事もあったかも知れないですけれど…。
私の知る範囲で、調べてみて書きました。
それは、ふつうのお医者さんのように知識はないですけれど、医療ドラマとかを好きでずっと見ているので、割合
に知ってはいるとは思うんですけれど。でも、あくまでドラマですからねぇ……。
本当に知識がある人からすれば、「おいおい」かもしれないです。すみません。

私は、自分的には、それなりに気に入った作品になりました。
読んで下さって、ありがとうございます。
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