放課後・正月

「先輩は、初詣には行くんですか?」
 こんな、冬休み直前の学校の屋上は寒い。貯水槽の台の裏に立っているから、なんとか風はさけられるけれど、コートの上から冷気が突き刺さるようだ。
「別に・・・何も考えてないけど」
 俺は生徒会備品のカメラを触りながら、俯いて答えた。
 学校新聞の生徒会欄にのせる写真を取りに、屋上に上がったはいいけど、付き添いに嵐が来てしまった。
 もう、試験休みで学校に殆ど生徒はいない。そんな中で嵐と二人きりだなんて、嫌だ。
 写真の提出は年明けの生徒会で、さっきまでの話し合いも終わって、皆帰ってしまっている。「お前と嵐、なんか険悪だから、この機会になかよくなれよ」なんて言って、早々と帰ってしまった会長でもある、親友が憎い・・。
 早く、写真を取って帰りたい。
「ええと、じゃあ、もういいかな・・・」
 10枚と少し取ったカメラを、鞄の中に押し込んで、鞄を手に取った。
 なるべく、嵐とは視線を合わせないようにして、俯いたまま足を踏み出した。
「待てって、先輩。
 初詣、一緒に行きませんか」
「えっ・・ちょっ・・」
 嵐に腕を掴まれて、貯水槽の入ったコンクリに背中を押し付けられた。ひんやりとした感触が背中から伝わってくる。
「あっ・・嵐」
 身体の両側に嵐が腕をついていて、身動きが取れない。挙げ句に、すぐ上には嵐の嫌味なくらい整った顔がある。
 こんなにも、嵐と密着したのは久し振りな気がする。
 試験があったから、生徒会も休みで必然的に呼び出される回数が減っていた。
 そう考えた途端に、身体の奥で、じわりと疼くような熱が産まれた。
「先輩、二人きりで会うの久し振りなんですよ」
「う・・・うん・・」
 そんなに顔を近付けられると、どうしても意識してしまうる嵐はなんともないのだろうか・・。
 俺はドキドキする心臓をなんとか抑えようと、制服の胸元をギュッと握りしめた。
「一緒に行きませんか?」
 嵐が俺の頬を指でゆっくりと撫でた。それだけでも、身体がどんどんと高まっていく。
「あっ・・・」
 指が、俺の唇をこじ開けて、口の中に入って来た。指が動いて、口腔内を掻き回して、舌に絡まる。
 身体がすごく熱くなっていく。ダメだ・・・。こんなので・・・。
 どれだけ、身体に鎮まれと命令しても、心を裏切っていく。おもわず、篭絡されるみたいに、嵐の腕にすがってしまった。
「あ・・あ・・」
 必死で舌を嵐の指に絡めてしまう。嫌な、濡れた音が響くけど、やめられない。
「先輩・・」
「あっ・・・」
 不意に嵐の指が口腔から抜け落ちた。口の中が空虚な感じがする。
「初詣、いいですね。
 1日の朝、家に来て下さいね」
 グイッと顎を掴んで、上むかされた。
 身体から力が抜けて、頭がボーッとしてる。
「先輩、あれぐらいでそんな風にならないで下さいよ」
 嵐が嘲るようにクスクスと耳元で笑った。顔に一気に血が登ってしまう。
 恥ずかしい・・・。
 別に、そんなわけじゃない。ただ、いつもがいつもだから。
「ちがっ・・・」
 慌てて手を振り回して、クスクス笑う嵐の手から逃れた。
「じゃあ、帰りますか?送りますよ」
 嵐の声が耳に響く。
 冷たい壁から背中を放して、階段への扉の傍に立っている嵐を見た。
「うん・・・」
 オレンジ色の夕日を背中に背負って、その光のせいで、黒い髪の毛がオレンジっぽく光って、嵐の長身の身体の輪郭が光の中に浮き出ている。
 やっぱり、ひどくかっこいい。
 でも、コイツはそれだけじゃなくて、すごく酷い男なんだ・・・。俺にとっては・・。
「先輩・・」
 ボーっとしている俺に、苛立ったように嵐が大きな声を出した。
「あっ・っ・うん・・」
 慌てて、俺も夕日を背負った後輩の傍に駆け寄った。
 初詣って・・どこに行くんだろう。何を考えているんだろう・・・。
 さっぱり分からない。どうせ、俺が考えたって無駄な事だ。
 嵐の後について階段を降りた。

 紅白が終わって、もう10時間以上。
 新年が開けたというよりも、一年に一度の大きなイベントが終了したという方がしっくりくる。
 母親に新年の挨拶をおざなりに済ませてから家を飛び出した。
 道にも着物姿の女の子を連れた恋人が溢れている。どんな格好をしようか・・と悩んだけど、結局いつも通り、コートにパーカー、普通のズボンに落ち着いた。
 嵐の家は、自転車で行けない事もないけど、定期もまだあるから電車で行く事にした。
「ええと・・・ここか・・」
 金持ち用マンション、と言わんばかりの外観の建物だ。
 タイル張りの外壁に、オートロック。部屋番号を押すと、すぐにオートロックが解除された
「すみません、待ちましたか?」
「いや・・別に・・・」
 エレベーターの前で待っていると、パーカーにスウェットにジーパン姿の嵐が現れた。普段はきちんと制服を着込んでいる姿しか知らないから、変な感じだ。
「先輩、かわいいですよ」
「えっ・・」
 嫌に上機嫌な嵐の顔が近付いて来る。
「っつ・・・」
 やばい…と思った時には腰を掴まれて、口付けられる。
 慌てて、もがくように嵐のパーカーを握りしめた。
 なんだか、変な感じだ。待ち合わせて出掛けて、キスをする。まるっきり、恋人同士みたいだ。
「はぁっ・・・」
 去年、終業式に生徒会で集まってから、約1週間程は会っていなかった。
 その前から生徒会や試験休みでゴタゴタとしていて、2週間近くも、嵐とは何もない。どうして、嵐は何もしかけてみなかったんだろう…と気になってしまう自分に嫌気がさす。
 何もないほうがいいに決まってるのに・・・。
「んっ・・・」
 久し振りの、嵐の唇に、身体が勝手に熱くなっていく。
「まっ・・まてよっ・・」
 必死で引き剥がそうとしても、まったく効果がない。
 それどころか段々と力が抜けて行ってしまう。まるで、嵐に縋っているみたいだ。
 どうしよう。
「あっ・・あ・・」
「先輩、あれぐらいで感じたの?」
 足の間を割って、嵐の太腿が押し付けられた。ぐいぐいと半分勃ち上がったペニスをズボン越しにこすられる。
「ひっ・・」
 もどかしいような、快感が背筋から競り上がって来る。
 おもわず嵐の腕を掴んで、胸に顔を埋めた。背筋がジンジンして、とてもじゃないけど、立っていられない。
「欲求不満?」
「ちっ・・ちがっ…」
 顔が真っ赤になっているのが分かる。
 なんだか、身体がモゾモゾして気持悪い…。
「初詣、いくんだろ」
「あっ…あぁ…」
 不意に嵐の手が離れていった。支えをなくしてしまった身体が崩れる。
「ほら、早く行こうぜ」
「っつ…」
 身体をたいなおして、扉の方まで歩いている嵐の背中を慌てて追った。
 こんな風に、振り回されている自分が酷く惨めだ…。
「先輩」
 唇に残っている嵐の感触を乱暴に袖口で拭って、マンションのエントランスをつっきった。

「人が多い・・・」
 流石は初詣・・。どちらを見ても、人・人・人な状態だ。
 少しでも気を抜くと、嵐も見失ってしまいそう。
「ほら、先輩。ちゃんとついて来て下さい」
「・・・」
 嵐の手が肩を掴んで来た。普段ならすぐに払い除けるけど、こんなに人が多いならやむを得ない。
 晶も黙って、肩を掴む嵐の跡についていった。
 人が多いから、こんな風に引っ付いてても周囲に変に思われないけど、普段だったら絶対に指を差されてしまう。特に、嵐の顔は一目を引くんだから・・・。
 人に押されるままに歩いていると、さい銭箱の前にたどり着くのに30分以上もかかった。
 それだけして、やっと辿り着いても、簡単に小銭を投げてるだけ。
「先輩は何をお願いしたんですか?」
 駅までの道を歩きながら、嵐が顔を覗き込んで来た。
 わざわざ正月から、何をしに来たのか・・・。ただ疲れただけだ。
「受験とか・・・」
 嵐が聞こえよがしに溜め息を吐いた。
 なんとなく嫌な気分になってしまう。
「先輩、ちょっと・・」
「えっ・・あぁ・・」
 晶も溜め息を吐いたところで、嵐がトイレを指差しながら、袖口を引っ張って来た。
 こんな状態で離れたら、人波に揉まれてはぐれてしまう。別にはぐれたっていいけど、どうせ嵐が黙ってないだろうし・・。
 晶は渋々といった感じで、嵐の後に続いて、トイレに入った。
 ただでさえ初詣まっただ中のトイレ。狭く、小汚い空間にぎゅうぎゅうに男が詰め込まれている。
「先輩・・」
 これだと、しばらく待たなきゃ行けないかな・・と思っていると、掴まれたままの手がぐいっと引かれた。
 嵐がズンズンと奥に入っていっている。
「何・・?」
 奥は個室しかない・・。なんとなく嫌な予感がして、掴まれた手を引いた。でも、それごときで、嵐が力を緩めるわけがない。
「っつ・・・」
 掴まれていた手を引かれて、一番奥の洋式の個室に突き飛ばすような形で放り込まれた。
 ドンッと音をたてて、体が壁にぶつかる。
「いたっ・・・」
「黙って・・」
 嵐も後から入って来て、鍵が閉められてしまう。
 狭い個室のせいで、みじろぎするスペースもない。どうしても体が壁に当たっている。
「何考えて・・・」
 楽しそうに見下ろして来る嵐は、相変わらず何を考えているのかよく分からない。
 嵐と二人きりになると、いつもされている事が頭の中を駆け巡る。
 ドアを開けて逃げようにも、晶の方が奥に立たされているから、嵐の体を押し退けなければいけない。身長も体重も自分よりも一回り以上大きい嵐を押し退けるなんて・・できるのだろうか・・。
 逡巡して、俯いて首を捻っていると、ごそごそと嵐が鞄から何か取り出して来た。
「先輩、これ、分かります?」
「・・・」
 目の前に、見た事もない物が掲げられている。黒い生地に、プラスチックのオモチャみたいな物がついている。
 晶はじっとながめてから、首を横に振る。
「そうですよね。だろうと思いました」
 嵐が苦笑して、それを蓋をしめた便器の上に置いた。
 嵐が出してくるって言う事は、きっと良からぬものに違いないけど、何か想像もつかない・・。
「あっ・・・」
 じっと眺めている隙に、ズボンに手が掛けられた。
「ちょっ・・何考えてっ・・・」
「黙って。騒ぐとバレるよ」
 嵐が耳元に吹き込んで来る。息のかかる感覚にも、背筋がゾクゾクしている。最近、触れられてなかったから・・と考えた後で、自己嫌悪に支配されてしまう。まるで、触れられる事が当然みたいに考えている。
「やめっ・・・嵐・・こんな場所・・」
 なんとか必死に体を突っぱねても、嵐の手はとまりそうもない。ズボンもベルトがはずされて、下着もずり降ろされる。
「やっ・・」
 ひんやりとした冷気が直にふれて、足が震えてしまう。ただでさえ寒いのに・・・。
「あぁっ・・・」
 赤くなっている顔を必死で両手で隠した。嵐に見られている、と意識するだけで、どんどんと中心が勃ち上がって来る。シャツの裾が持ち上がって来る、淫猥な光景が耐えられない。
 見ていられない・・・。
「うっ・・」
 必死で目を覆い隠して、手を握りしめた。
「先輩・・こんなんで興奮して・・どんどんやらしくなっていきますね」
 嵐がクスクスと笑っている。恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだ・・。
「あっ・・」
 両手で目を覆っていると、肩が掴まれて、体が反転させられた。背中を嵐の方に向けたような形で、壁に押し付けられる。
「何っ・・」
 嵐のする事がみえないと、それだけ不安になってしまう。壁の一点を見つめながら、ガクガクと体を震わせた。
「大丈夫ですよ」
「ひっ・・・」
 声と同時に濡れた指が後孔に押しあてられた。ヌメヌメとした感触がなすり付けられる。指が掠めると、襞がざわざわと蠢いているのが分かってしまう。
「うぅっ・・・」
 必死で指を噛んで、声を堪えた。
 濡れた指が、中に入って来てドロドロとした液体を内壁に擦り付けている。指が中で動く度に、背筋が小刻みに震える。
 体に電流が走り続けているみたいだ。
「はぁっ・・」
 何度も指が引き抜かれては、執拗に液体が塗り込められた。濡れた音が外まで響いているような気がする。
「すごい・・絡みついて来る」
「やだっ・・やっ・・」
 なんとか、体を壁に方にすり寄せた。それでも、逃げられない。なんだか、際限なく追って来られているみたいだ・・。
「気持わるっ・・・やっ・・」
 何度も何度も塗り込められたせいで、溢れ出た液体が中から体を押し広げるように圧迫している。気持悪い・・・。
「先輩、気持悪い?」
「・・・」
 唇を噛み締めて、必死で頷いた。少しでも気を緩めると、中から溢れ出て、どんどんと太腿を濡らしていきそう・・。
「大丈夫だよ、そんなに締めなくても。ほとんど吸収されてるから」
「あっ・・いやっ・・」
 不意に、指が2本に増やされて襞が押し広げられた。虫が這うように、液体が少しだけ溢れ出る。
「やぁっ・・うぅ・・」
「ほら、もう吸収されてる。先輩が絡み付いて来るだけだよ」
 嵐がクスクスとわらって、中で指を突き上げた。
 襞がざわめいて、指を締め付けている。
「んっ・・」
 グチヤグチャと音が聞こえる。耳を塞ぎたい・・・。
「ほら、すごい絡み付いて来てますよ」
 嵐が笑ってから、指を引き抜いた。
「はぁっ・・あ・・・」
 なんだか、奥がざわめく。ムズムズとして、我慢できない・・。
「う・・変っ・・」
 必死で太腿を擦りあわせた。でも、じわじわと這い上がるように奥が痒い。無数の蟻が中で動き回っている。

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