賭けた男 1
(2)

ただ、ちょうどその日も、満が彼女の欲求に答えて、花菜を貫いている瞬間だった。花菜が甲高い喘ぎ声を上げている。満の動きも、どんどんと早くなって言っていた。

「あぁ……あぁ……いいわ……いいわ」

花菜は興奮して、叫び声のような声をあげていた。

満も、彼女の太股をつかんで、どんどんと腰の動きを速くしていっていた。花菜の喘ぐ姿を見つめていても、最近は頭に入ってこなかった。そもそも、昔から、花菜の喘ぐ顔を見て、興奮する…ということはあまりなかった。どちらかというと、頭の中に、「今日みた美青年」や「美しい俳優」などの姿を想像しながら。絶頂の瞬間には目をとじて、頭の中を、そういう青年の姿で一杯にする。

耕平が家に来てから、その想像が、耕平になることが多かった。

だから、その瞬間も、頭の中に耕平のキレイな首筋や指を思い浮かべていた。

「あぁ……イク……イク」

「いい……いいわ……」

花菜と自分の声が重なった。ギシギシとベッドが鳴っている。

そのせいかもしれない。

満は目をとじて、花菜の中の、最後の一滴まで注ぎ込むように。ペニスを奥深くまで差し入れたまま、ジッとしていた。花菜も「あ・あ」と声をもらして、身体の動きを止めていた。

満が目を開けても、目の前に耕平が居るような気がした。そう、美しい耕平の顔が見える。

「あ……あ」

思わず、「耕平」と言いそうになるのを、口をとじて堪え、絶頂を終えた性器を、花菜の中から引き抜いた。

「あ……きゃっ……」

ただ、呆然と幻だとおもっていた耕平の姿がゆらりと動いた。室内の濃厚な空気が、一瞬にしてグラリと揺れる。

花菜が「ど……どうして」と甲高い声をあげて、布団をたぐり寄せているのがみえ、同時にうす暗い室内の中で、白いシャツが浮くように動いているのが見えた。

「な……なんで……」

花菜の悲鳴混じりの声を聞いて、その視線の先を見た。やはり、白いシャツが浮いている。しかし、ジッと目をこらすと、それが「市川耕平」である…とわかった。

やや青白いキレイな顔が、シャツから伸びた首の上にすわっている。彼はだまって、部屋の中をゆっくりと移動してきていた。

「何してるんだ?

耳に、耕平の少し抑えたような声が聞こえて、満は「あぁ、この耕平は幻想ではなく、現実なのか…」と思った。しかし、快感の余韻もあり、まるで幻のような耕平はひどく現実感がなかった。

「きゃあ……な…なに」

花菜が甲高い悲鳴をあげて、布団をたぐり寄せながら満の背中に身体を押しつけてきたことで、はじめて満もハッとなった。

「こ…耕平さん…」

耕平は、満の声に、青白い顔を上げた。

「何してるんだ? お前達2人で」

耕平の言葉には抑揚がなかった。だから、一瞬、何を言っているのか…とジッと耕平の方を見ていた。

「トイレに行こうと思ったら、その女の悲鳴が聞こえた。悲鳴をあげているから、部屋にはいってきたら、満も悲鳴をあげていた。どうして悲鳴をあげていたんだ?

満は、耕平の言葉を解するのに時間がかかった。

まさか、17歳の男子が、「セックス」を知らない…とは思わなかったから。ただ、そのたどたどしいような言葉に、耕平が「セックス」の事を言っているのか…と改めて実感した。

花菜は無言でゆっくりとベッドから降りて、布団を抱えたまま身体を隠すようにしてベッドルームの横にもうけられているバスルームの方へと行った。

 

セックスの濃厚な余韻が残っている室内に、耕平と満の2人きりになってしまった。

「何をしていたんだ? 悲鳴をあげる遊びか?

耕平の顔は、無表情なままだった。

満はゴクリと唾をのみこんで「セックスをしていたんだよ…。耕平さん。セックス…。知っているだろう」と声を掛けた。

しかし、耕平は首を少し傾げて「セックス? …セックス? 悲鳴あげごっこ…」と呟いた。

満は耕平が無知なのが異様に感じられた。彼が、無表情なまま「セックス」という単語を紅い口から吐いているのが…。

「あ……あ……いい……いい……いいわ」

耕平は、先ほどの花菜の声真似をするように、大きな声をあげた。喘ぎ声に似た声が、吐かれたことで、満は一気に自分の精神を揺さぶられたような気がした。あぁ、目の前で、美青年が喘ぎ声の真似をしている。

「こういう遊びか?

耕平はそう言うと、ペロリと唇を舌でなめた。

 

満は「そうか…。病気だったせいで、もしかして性的なことや一般常識などに無知なのかもしれない…」と思い当たった。子供の頃から入退院を繰りかえし、友達も居なかったのかも知れない。テレビや俗物的な情報に接することがないままに17歳まできてしまったのか…。

 

そう考えると、満の中に激しい欲求が芽生えてきた。

「そうだよ、「セックス」も知らないのかい?

満はゆっくりと手を伸ばして、耕平の腕を掴んだ。耕平は「知らないのか」と言われたことが不快なのか、眉を寄せていた。自尊心を刺激されたのだろう。耕平はだまって、切れ長の目で満を睨み付けていた。

その視線の強さに、満は頭の中に好奇心が芽生えてきているのを感じた。そう、17歳と、身体だけが大きくなっていて、中身は幼いまま。その着ヤップが奇妙で満の中の奇妙な欲望を膨らませていっていた。

「教えてあげましょうか。セックスというのが、どういう物なのか…」

耕平は黙っていた。満は、その華奢な身体を、さっきまで花菜を抱いていたベッドの上に横たえらせた。耕平の顔は無表情なままだった。ただ、ジャージのズボンとパンツを一気に膝まで引きずり下ろしたとき。一瞬だけ「あ」と声をあげた。それでも、さして抵抗はしなかった。

 

入院生活で、いろいろな検査漬けになっていたせいで、下半身を露出して見られることにも抵抗がないのかも知れない…。耕平は、自分の下半身を露出させられても、ジッと黙って満を睨みつづけていた。もしくは、「下半身を露出すること」が恥ずかしいことだと、知らないのかも知れない…。

 

そう考えると、満にとって、目の前の耕平が「真っ白なキャンパス」に見えた。

外観は17歳だけれど、その中身は、まだほんの子供のようなものなのだ。そう、子供の頃からずっと入院していたせいで、彼には性的な知識や一般常識などが著しく欠落している…。

 

しかし、満にとっては、そのことは興奮している心に、一気に油を注いだような物だった。

 

あぁ、いままで外観が17歳だから、それらしく接してきていたけれど。彼の頭の中はまだほんの子供のままなのだ。ゾクリと背筋を奇妙な感覚が走った。

そう、それはまさしく自分の理想としているものが、突然に目の前に降って湧いたように感じたからだった。こんな、奇妙に歪んだ青年が他にいるだろうか…。もしかしたら、神さまが自分に与えてくれたご褒美かもしれない…とさえ思った。

 

満は、耕平のペニスを握ると、ゆっくりと指を動かした。最初は、彼のペニスはなかなか反応しなかった。しかし、ゆっくりと握り、クビレの部分を指の腹でなぞる。さらに、尿道口まで指をグリグリと押しつけていく。

「あ…」

そうしているうちに、じわりじわりと。ほんの少しずつだけれども、耕平のペニスが固くなってきていた。満は、手の中でだんだんと芯をもってきているペニスを楽しんだ。双球から揉み込んで、その奥。後孔にまでつながる部分を激しく指でグリグリと刺激する。それに、ペニスの裏筋を人差し指でなで上げて、グッグッと強く握りこんでいく。根本から絞り上げるように刺激していくと、確実にペニスは勃起してきていた。

「あ……あ」

ペニスがだんだんと紅く色を変えて、はっきりと勃起していく。

「な……なんだ……へ……へんな感じだ……や……止めろ…」

耕平は、満の身体を押し返そうとしていた。しかし、ただでさえ細い腕は、全く力が入っていなかった。

むしろ、初めて知る快感のせいで、顔は動揺しているように様々に表情を変えて。明らかに困惑の色を濃くしていた。目を大きく見開いたかと思うと、満の手の刺激のせいで、「う」と言って目を閉じる。瞼が震えていることで、満は耕平の睫毛が長い…と思った。キレイに生えそろった睫毛が、ひっきりなしにふるふると震えている。それに、逃げようとしているのか。もしくは快感のせいなのか。耕平の腰もゆっくりと動いてきた。

「あ……あぁ……へんだ……やめろ…やめ……」

耕平の表情を見ていると、満も自分が暑くなっているのを感じた。見下ろすと、自分のペニスも勃起していた。先ほど花菜の中でイッたばかりなのに。

この青年の喘ぐ姿に、魅了されている…。

満は溜まらなくなって、耕平と自分のペニスをまとめてつかんで、激しく手を動かした。

「あ……あぁ……あぁ」

耕平は自分のペニスに熱いモノがペッタリと貼り付く感覚が溜まらないのだろう。身体をビクビクと奮わせて、焦点のあっていない黒い目から涙を流しはじめていた。

「あ……あぁ」

ビクンッとことさらに大きく耕平の身体が震えて。その大きな振動のせいで、満の頭の中で、まるで万華鏡が落ちて割れるように。極彩色が広がった。

「あ…あぁ」

その快感は、花菜の中に入れていたときとは比べ物に鳴らなかった。耕平と同時にイッてしまった。握っている2つのペニスの先端から、白濁とした液が垂れ流れている。

「あ……あぁ……あ」

初めての快感に、身体がついて行っていないのか。耕平は身体を痙攣させたまま、喉を反らしていた。その喉に吸い付きたい…。そう思った瞬間に、精液を放出した耕平のペニスから、今度は生暖かい液体が溢れてきていた。

「あ……」

満が見下ろしてみると、黄色い尿が絶頂を終えて萎えたペニスの先端から漏れ出てきていた。シーツの上に、黄色い染みが広がっていく。耕平のペニスをキラキラと光らせながら…。

「あ……あ……な…なんで」

絶頂を迎えた身体が、自分で制御できない物になっていたようだった。耕平はビクビクと身体を痙攣させながら、太股をもじもじとすりあわせて、必死で尿を止めよう…としているようだった。しかし、そうすればそうするほどに、どんどんとペニスの先端から尿が漏れ出てきている。

満は不思議と、それが「汚い」と思えなかった。むしろ、精液のへばりついているペニスを黄色い水が洗い流して行っている。満は、唇をペニスに寄せて、その「尿」を舐めたいような衝動に駆られた。しかし、「あ…あ」と不安そうに自分の下半身を見つめている耕平をみて、なんとかそれは我慢した。

それに、バスルームに引っ込んでいる花菜の事も気になっていた。

 

ただ、その欲望を抑え込むのは、とても辛かった。ゴクリと唾を飲み込んで、ベッドの上に横たわっている耕平を見つめた。

だんだんとペニスの先端から溢れる尿の量が少なくなっていく。しかし、時折ビクンビクンと彼の腰は痙攣をしていた。

 

それに、あいた唇から唾液が垂れ流れて。頬を流れていた。

「ね、気持か良かったでしょう。耕平さん」

満は、耕平の髪の毛を撫でて、その表情を覗き込んだ。

彼は何度か肩を大きく奮わせて、息を吸いこんでいたけれど。

「あ……あ……」

だんだんと目の焦点が合ってくると満を押しのけよう…と手をつっぱねていた。しかし、まだ微かに震えている手では、満の身体はビクともしなかった。だから満は、耕平の顔が、「快感」に支配されていた物から、だんだんと「理性」を持ったものへと変化していく様をじっくりと見つめることが出来た。目を何度もまばたかせて、「う・う」と言いながら、黒い瞳の焦点を、満の顔に当てていく。

「あ…てん…なんで……うぅ」

耕平は、満の下から這い出ようとするように、身体を動かした。しかし、満はその肩をつかんで、その耳に、唇が付きそうな程に顔を近づけた。

「ね。気持が良かったでしょう」

「ひ……ひ……な…なんだ……き…気持ちが悪い…悪い…」

耕平は耳に囁き混まれた声に身体をビクンビクンと震わせていた。その姿が、より満の嗜虐心を刺激した。

「いいえ。これは「気持いい」っていうんだよ。耕平さん。ね、気持ちよかった証拠に、オシッコまで漏らしてしまったでしょう」

からかうようにそう言うと、耕平は恥ずかしくてたまらないように肩をすくめて顔を伏せた。

「だ……だって…あれは……お前が…お…俺のチンチンをさわ……さわるから……。

 あ…あれは……お前のせい…で…」

耕平の声は、だんだんと小さくなっていっていた。

普段の不遜な彼の姿からしてみると、その様子はまるで小動物のようで。満は、もっと彼を追いつめたい…と思った。

「ね、耕平さんも「ああ、あぁ」と悲鳴を上げていたでしょう。これが、私と花菜がしていたことのまねごとですよ。耕平さんも、随分と声をあげていましたよ」

そう、本当は、耕平は動揺して、顔色を白黒とさせるだけで、そんなに大きな声はあげていなかった。ただ、そう囁いた瞬間、耕平は恥ずかしくてたまらないようにシーツに一旦顔を埋めた。真っ黒い髪の毛が、シーツに広がっているのをみていると、自分が完全に獲物をしとめたような気になった。

「ち……違う…あれは…お前のせいで……」

「えぇ、出も、耕平さんが声を上げていたのも事実ですよ。「あんあん」とね」

満の言葉に、耕平はグッち唇をかみしめた。

「き……気持が悪い…」

耕平は、かろうじてそう呟くと、尿と精液で濡れた自分の下半身を見つめていた。

それは精液と尿で濡れそぼっていた。

「拭いてあげますよ」

満はタオルを手に取って、耕平の下半身を丁寧に拭いた。顔を伏せて、ペニスと太股に集中をしている振りをしながら、そうしている満を見つめている耕平の視線を、痛い程に感じていた。彼の今の胸中を想像すると、満はとても愉快な気がしてきていた。初めて知った快感というのはどういう物だろうか。それに、「漏らして」しまったことに対する、彼の耐えられないような羞恥心。満はその視線と、目の前の「無垢なペニス」を堪能するように。執拗に耕平の下半身を拭いた。ペニスの裏側から双球の奥。太股の付け根を、タオルで撫でるようにこすっていくと、「う」と耕平は必死で声を我慢しているのが分かった。

 

完全にキレイにぬぐって、彼のパンツとズボンを引き上げると、耕平は逃げるようにベッドの上を転がって、床に落ちた。

しかし、必死で足に力を入れるように、ブルブルと震えながら立ちあがった。

「き……気持が悪い」

かすれた呟き、を残して。必死の様子で震える足で、逃げるように部屋から出ていった。

満はその後ろ姿が華奢なのを見つめていると、さっきまでの快楽を思い出して、また彼の身体を抱いて、ベッドの上に引き倒したい…と思ったけれど。それは、バスルームに花菜も居ることだし。ゴクンと唾を飲み込んだだけで我慢した。

 

満は、耕平が汚したシーツを引っ張りはがした。その瞬間に漂った尿の匂いも、とても甘い物に感じた。

 

耕平が部屋を出て行って、しばらくしてから、部屋の中に花菜が戻ってきた。彼女は随分と長く入浴して、浴室の逆のドアから室外に出ていたらしい。階下でお茶でもしていたのか。おそるおそると言った感じで、部屋のドアを開けて覗き、満しか部屋に居ないことを確認すると、ようやく室内に入ってきた。

「恥ずかしいわ…。耕平さんにあんなところを見られて」

花菜はやや赤らんだ頬を手で押さえながらそう言った。

「大丈夫だよ。彼は、「セックス」が何か知らなかったみたいだからね。普通だったら、あれくらいの年齢の子だったら知って居るんだろうけれど。彼はずっと病気で入院ばかりしていたから。そのせいで少しばかり常識はずれなのかも知れない…。

 不遜な態度をとるのも、そのせいなんだろうね。「病人だ・病人だ」ということで、甘やかしてきていたからだろう」

満の言葉に花菜は「そう」とだけ返事をした。

「あら…それは…」

花菜は耕平がはぎとったシーツの塊を見つめた。

「……これは…ちょっと耕平さんがショックで粗相をしてしまってね…」

そう言ってから、花菜の手を引いて、身体を抱き寄せ。

「しかし、やはり…。家事も増えたことだし、君にだけ負担をさせるのも悪いね。

 だれか、家政婦を雇った方が良いね。

そうした方が、耕平さんにも良いのかも知れない…」

花菜は、ただ黙って満の言葉に頷いていた。

しかし、花菜の顔を見つめても、やはり満の頭の中には、濃厚に先ほどまでの耕平の姿態が残像として残っていた。

思い出すだけで、また身体の芯が熱くなってくるような気がする。

 

自分が、これほど性的に欲深いとは思わなかった。そう、もっともっと耕平の淫らな姿を見たい。

あの無垢な彼の身体を、全部自分の色で染めたい…。そうしたら、どうなるだろうか…。

「花菜」

想像したせいで熱くなった身体を、花菜の身体にぴったりと密着させた。

彼女も、「耕平に見られた」ということで、奇妙な快感を感じていたのかも知れない。

満は頭の中に耕平を浮かべながら、再び花菜を抱いた。

 

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