賭けた男 2
(2)

満は、自分の気持ちがどんどんと耕平の方へと傾斜していっているような気がした。

最初はほんの少しの興味だった。何も知らない耕平が、ひどく魅力的に見えて。その静かな外見と、快感を感じているときのギャップが面白くて。興味本位で性交を持ち始めていたような気がする。

 

しかし、実際に彼の後孔にペニスを入れて、その中の快感を味わってからは。気が付けば自分の心がザワザワといつも耕平の事を考えているような気がしていた。

満は、これは「恋」だろうか…と考えた。それは随分と久しぶりに聞く「言葉」のように感じた。そう、学生時代に下級生の男子生徒から目を離すことが出来なくなったことがある。あのときに「このもやもやとした気持が「恋」なのだろうか」と思った。

同級生達は、クラスの女子生徒について「誰がかわいい」とか「誰が色っぽい」などと盛り上がっていたけれど。満にとっては、女子生徒はあくまでただの「女子生徒」でしかなかった。

満は、また改めて、「恋をしているのだろうか」と思った。

 

しかし、学生時代に思いを遂げることが出来なかった「恋」と、今の「恋」は違う。

耕平には満しか居ない。そう、耕平をこの家に閉じこめて、彼と淫行にふけることが出来る。それに、耕平は「そういう事」にはまったくの無知だから。なんとでも自分の好きなように教え込むことが出来る…。

そう思うと、心がおどるようにワクワクとした気持になった。

 

満は、耕平の事を考えていると、同時に「もっと耕平の快感に歪む顔をみたい」という劣情に駆られた。

自分がここまで性欲に貪欲的だとは思わなかった。自分でも、自分の制御が出来ないように感じ始めていた。そう、性欲が「理性」を跳び越えて、欲望のままに突っ走ろうとしている…。

 

満は、先日の耕平の快感に歪んだ顔を思い出して、インターネットの猥褻なサイトにいってみた。いままで自分にはこういうサイトは関係がないものだ…と思っていたけれど。

しかし、みていると、随分といろいろなグッズがあった。

パッとみただけでは、どういう風に使用するのも分からないものから。満もなんとなく見たことがあるような物まで。

しかし、そのどの危惧も、「それを付けている耕平」というのを想像すると、心の奥から小さな波のような快感が這い上がってくるような気がした。

 

気が付けば、手が勝手にマウスを動かして、それらの商品の購入ボタンをおしていっていた。ただ、クレジットカードの番号を入力する瞬間。一瞬、「自分が変態になってしまうのでは…」という考えに手が震えたけれど。「違う。こういう欲求を催させる耕平が悪いのだ。彼があまりにも魅力的だから」そう思うと、罪悪感も、キレイに霧散していき、カードの番号通りにテンキーを打ち込んでいた。

 

「花菜、愛しているよ…」

同時に、満は罪悪感からか花菜に「やさしく接さなければいけない」という気持が湧いてきていた。そう、耕平を知り、恋をしった今となっては、自分が「花菜を愛していない」ということを実感してしまっていた。それでも、やはり自分の妻であるし、自分を愛してくれている。そう思うと、「花菜を愛することが出来ない」ということがとても申し訳なく感じて。

今まで以上に、彼女にたいして「優しい気持ち」というのが湧いて出てきていた。

花菜は「あなた、耕平さんが来てから、とてもやさしくなったわ。やはり、血のつながっている親族がいるっていうのは、安心するものなの? 」などと無邪気な笑顔を向けていた。

その言葉にドキリと胸を突かれたような気がしたけれど。満は「あぁ、そうかもしれないね」と笑顔を作って花菜を抱きしめていた。

 

「ご主人さん、荷物が届きましたよ」

家政婦の真知子から、その箱が手渡されたとき。耕平はそのズシンとした重さと、中身に一瞬心が高鳴った。同時に真知子が、その中身に気付いていないだろうか…などと危惧する気持が湧いてきたけれど。彼女は無表情なままで満にそれを手渡すと、さっさと家事に戻っていた。

 

満ははやる心を抑えながら、耕平の部屋にその箱を抱えたまま訪れた。

ノックもしないでドアを開けると、彼はベッドに横たわって本を読んでいた。それは、満が、彼が望むとおりに買い与えた本だった。どれも、耕平が「冷凍」されたときにはやっていた作家のものばかりで、随分と古い本ばかりだった。どの作家も、今はほとんどが死んでしまっている。そんな古い本を読んで、面白いのだろうか…と満は思ったけれど。耕平は3Dになっているテレビを怖がっていたし。唯一の娯楽が読書のようだった。

 

「あ……」

部屋に入ってきた満の姿を見ると、彼は読んでいた本から視線を外して、満の顔を見た。

目が合うと、すこし気まずそうに少し顔を逸らした。その表情の変化が、満をより興奮させた。あぁ、この青年にも羞恥心というのが有るのか。先日の淫行を思い出したのかも知れない。

「耕平さん。面白い物が届きましたよ」

満は箱を抱えたまま、彼の横たわっているベッドに腰を下ろした。耕平は少し戸惑うように視線を揺らしてから、読んでいた本に栞をはさんで、ベッドに上に起きあがった。

「か……勝手に部屋に入ってくるな」

耕平は相変わらず無愛想な声をはっして、満の方を見つめていたけれど。そういう言葉遣いは彼の「幼児性」故のものだと思うと、腹が立つよりも逆に。その「幼さ」が愛おしいような気がしてきた。

「あぁ、でも、耕平さんに早くこれを見せたくてね。ね、これがなんだか分かるかな…」

満はガムテープをはがして、箱をあけた。中にはプチプチでくるまれた、いろいろな器具が入っている。満は、それらから目が離せなくなっていた。

そう、インターネットで注文したときには、なんとなく現実感が無かったけれど。実際にこうして手元にとどくと、それらの物を「リアル」に感じることが出来る。とりあえず、大きなバイブを取り上げてみた。手の中にズシンと重たかった。そう、こんな大きな物を耕平の後孔の中に入れたら…。

耕平は、箱を覗き込んでも、それらが何なのか。全く分からないようで「何? 」と呟いて、小さな繭型のローターとリモコンがセットになっている物を取りだしていた。

「なんだ、これ?

耕平が、掌の中にローターを持っている姿を見ると。

満の心の奥が、ドクンと高鳴った。

「使い方を教えてあげましょうか…」

満は段ボールの中にもっていたバイブを入れて、耕平の手からその「ローター」と「コントローラー」を取り上げた。

「あ……うん」

耕平は、じぃっとその器具をみつめていた。まさか、それが淫猥な行為に使用されるものだとは思っていないのだろう。本当だったら、彼くらいの歳になれば、「そういうもの」になんとなく知識が有るだろうに…。彼のまったく無垢な様子は、満の興奮を煽るだけだった。

「さぁ、じゃあ、ズボンとパンツを脱いで下さい」

「え……」

耕平は言葉に顔をあげて、まっすぐに満の方を見た。

「い……いやだ」

先日の事を思い出したのか、声がかすかに震えていた。

「「いや」じゃないでしょう。ほら、早く脱いで下さい。それとも脱がして欲しいんですか?

「い……いや…。こ…この前みたいなことは…。すごく痛くて…いたくて…。と…トイレに行っても痛くて…。それに…怖い…。こ……怖い」

耕平のおびえている様子をみると、より劣情が刺激された。

「でもね、耕平さん。ああいうことはみんなしていることなんですよ。だから、「いや」というのはおかしいんですよ」

満の言葉に、耕平は視線を泳がせて、ベッドの隅にじりじりと下がって言っていた。満も、それについて追いつめるように。彼に身体を寄せていっていた。

「で……でも、誰も…。あんなことをしている…なんて言ってない…。き…きいたことがない…」

「それは、耕平さんが病気だったからですよ。ね。病気だったから、学校にも行かなかったんでしょう。ずっと、病院暮らしで、運動場を駆け回ることも出来なかった。そんな耕平さんだから。みんなが気の毒に思って、黙っていたんですよ」

「…………」

満の言葉に、耕平はだまって首をうつむけた。キレイな首筋が浮かび上がっているように見えた。

「う……う」

耕平は反論することができなくなったせいか、喉を震わせて、必死で満から視線を逸らしていた。

「ね、じゃあほら、ズボンとバンツを脱いで下さい」

「あ…」

耕平のジャージのズボンとパンツをつかんで、一気に引き下ろした。そうして、足から引き抜くと、彼はベッドの上で下半身だけを丸出しにして、三角座りのような姿勢で座っていた。必死でペニスをかくそうとしている。その本能的な行動が、より愉快に満の目に映った。

「そうだ。ほら…。耕平さん。この前は痛かったでしょう。だから、今度は、痛くないように。クリームも買っておきましたよ」

満は段ボールの中から、ジャータイプのクリームを取りだした。

インターネットのサイトでは「それを塗ると、掻痒感がわき起こってくる」と書かれていた。そんなものを使用するのは初めてだった。だから、それがとれくらいの効果があるのか…。満もその容器を手に持ちながら、やや半信半疑な気分だった。

「あ……あ……」

満はその蓋をあけて、中の白いクリームを指ですくった。そうして、耕平の後孔に塗ろう…とした。

けれど、耕平は本能的に危機を感じていたのか。

「あ……いや……いやだ……」

足をじたばたとさせて、必死で満の手から逃れようとしていた。耕平の華奢な身体で抵抗されたところで、満にとってはさして障害にはならなかったけれど。満は「そう、いっそ抵抗がまったくできなくなったら…」という想像が頭に浮かんできて。

箱の中から紐を取りだして、満の右腕を掴んだ。

「ひ……あ……あ」

そうして、右足を折り曲げて、右手首と右機足首とを紐で縛り上げた。

「や……やめ……な……なにを…」

動揺に左足首と左手首も紐で縛る。そうすると、満はベッドの上で三角座りのまま倒れ込んだような姿勢になった。

「ひ……ひぃ……」

満は必死で手を動かそうとする。そうすると同時に足首もゆらゆらと揺れて、股間が向き出しになっていた。

「あぁ、良い眺めだ。ほら。耕平さんのおちんちんもよく見える。

「ひ……ひ」

満はあらためてクリームを手にとり、耕平の腰をつかんですこし身体を折り曲げ。その後孔にクリームをたっぷりと塗りつけた。後孔の入り口からじわじわと塗っていき、その奥にまで指を進めていく。

「あ……あぁ」

後孔の中に指を入れると、耕平が泣き声のような声を漏らした。

「い……いたい……」

しかし、先日の淫行で切れてしまっていた箇所が、指をいれたことで再びピリピリと裂けてきたのか。この前よりも、スムーズに指を入れることが出来た。満は、できるだけ奥の方まで…と執拗に何度も何度もクリームをすくっては塗りたくっていった。

「あ……あぁ……いや……やめ……やめて…」

耕平の泣き声は、満の欲望を煽るだけだった。

クリームをたっぷりとぬりたくってから、満はティッシュで手を拭いて、耕平の顔を覗き込んだ。

「この前は痛くてたまらなかったでしょう。でも、今日はもっと違う感覚を感じることが出来るはずですよ」

耕平の頬を撫でて、そのペニスを見つめた。股間で萎えてしまっている。満は、耕平の頬を撫でながら、そのクリームが効果を発揮してくるのをジッと待った。

まっていると、ひどく長く感じる。でも、それはほんの数分程度だったに違いない。

「あ……あ」

今まで唇をただひたすらに噛んで、苦しそうにしていた表情が、一気にグニャリと崩れた。

「あぁ……あ…な……なに……」

顔が真っ赤になって、唇から舌が覗いている。満は、その表情の変化をみつめて「効き始めたのか」と思い、後孔の方へと視線を移した。そうすると、そこは練り込まれたクリームが体温で溶けて、中から少しだけ垂れ流れていた。それに、パクパクと後孔が口を閉じたり開けたりするように蠢いている。

「あぁ、ほら、きいてきたでしょう。どんな感じですか?

満は、自分の声も、興奮で掠れている…と思った。あぁ、あのパクパクと蠢いている後孔の中に、ペニスを押し入れたい。

「あ……あ……虫…虫が……お…お尻の中に…。うぅぅ……蟻が…はいまわってる……。

 うぅぅ……だして……出して……」

「痒い」という感覚を、そう感じるのか…と満は耕平の顔を見つめた。しかし、彼の顔はついさっきまでの理性をたたずんだものとは全く違っていて。目も黒目が焦点をあわさずにギョロギョロと動いている。それに、唇も中途半端に空いて、唾液を垂れ流していた。

しかし、その顔の歪みも、満の目にはキレイに見えたので、ポケットからiPhoneを取りだして、録画のアプリで耕平の表情を撮った。そうしてから、ベッドサイドのテーブルに自分たちの行為がキレイに録画できるようにiPhoneを据え置いた。

 

「えぇ、じゃあ後孔の中の虫を潰してあげましょうか。ね」

満は耕平が先ほど手にもっていた小さな繭型のローターを取って、パクパクと蠢いている後孔の襞に押し当てた。そうすると、それはグチュリという音をたてて。

簡単に中に飲み込まれていった。白い、本当に繭のようなローターが中に入っていく。

「ひ……ひ……あぁ」

異物感に、耕平の身体がビクンビクンと跳ねた。しかし、そのローターだけではまだまだ後孔は物足りないのだろう。相変わらず口をパクパクとあけて、中の真っ赤な粘膜を見せつけてきている。

「あぁ、いいですね。私のオチンチンをいれて、虫を潰してあげましょうか?

満は、耕平の耳に囁いた。

「ひ……う……あぁ……う…うん……」

耕平が、ガクガクと頷いている。言葉の意味を分かっているのか。その表情は崩れて、涙と唾液で濡れていた。

「だったら、「オチンチンを入れて下さい」って言ってくださいよ。ね、言えるでしょう」

「あ……あ」

その言葉に、一瞬だけ耕平がチラと視線を満の方に向けた。それは、ほんの一瞬、理性が戻ったかのように感じたけれど。

「あ……あぁぁぁ……。虫が……あ……虫が……あぁ。

 お……おちんちんを……いれて……虫を……潰して…」

耕平はまた視線を泳がせて、かすれた声を吐いた。

その紅い唇から出てくる卑猥な言葉に、満も頭がクラクラとしてきていた。

「えぇ、じゃあ、お望み通りに…。オチンチンを入れてあげますよ…」

満は、ズボンとパンツを下ろして、自分のすっかり勃起したペニスを剥きだしにした。そうして、ヒクついている後孔の入り口にぴったりと押し当てる。

「あ・あぁぁぁ……」

甲高い耕平の声が響いた。後孔が、どんどんとペニスを飲み込んでいく。そのぴったりとまとわりつくような感覚は、さきほど塗ったクスリのせいか。まるで満のペニスを「奥へ奥へ」といざなうようだった。

それに、最奥まで突き上げると、ペニスの先端に固いローターが当たる。

「あぁ……うぅ……」

「ほら、おちんちんを全部入れましたよ」

「う……かゆ……かゆい……あぁ……うぅ……」

本能的に、耕平が自分で微かに腰を揺らしていた。グチュグチュと濡れた音を聞いていると満も頭の中が「快感」で埋め尽くされていくような気がした。ただ、最後の理性を掴むようにして、ローターのコントローラーを手に取った。

「ほら、これを動かしてあげましょう。ね。たまらなく気持がいいですよ…」

満はその小さなコントローラーのスイッチを入れた。

「あ……あぁ」

ブルブルと、耕平の奥でローターが動き始める。それが、ちょうど満のペニスの先端。尿道口にあたっていた。

「あ……いいね……きももちいい……」

満も初めて味わう感覚に、背筋にゾクゾクとした快感を感じていた。

最初は、その感覚を堪能したい…。そう思っていたけれど。気付けば満自身も、その異様な快感に身体が支配されていた。

「あぁ……いい……いい」

「ひ……ひぃ……あ」

満の太股をつかんで、ただひたすらに激しく身体を突き上げていた。

ペニスを引きずり出すと、ローターまでもがペニスにびったりとひっついて出てこようとするような気がする。それを、押し込むと、後孔の最奥でローターが行き詰まり、尿道口にぴったりと密着してブルブルと満のペニスを震わせる。その振動を感じていると、勝手にペニスから精液があふれ出してしまいそうな気がした。

 

「いい……いい」

本能のままに、太股を掴んだまま何度も何度も腰を揺らしていた。

「あ……で……でる……あぁぁ」

「ひ……う……うぅぅぅ」

満は耕平の最奥までペニスを突き上げたまま。ブルブルと身体を振るわせた。ペニスの先端から、精液がドクドクとあふれ出しているのが分かった。

ただ、ローターの振動を感じながら、精液を出す。それは、たまらない快感に間違いなかった。今まで味わったことがない。「あぁ、こんな快感があるのか…」そう思ったときには、もうすでに精液を全て放出した。そうして、耕平の太股を強くつかんで、彼の身体を押しつぶすようにしていた。

「あ……あぁ」

満は快感を全て出し切ったペニスを、ゆっくりと耕平の後孔から引き抜いた。

見てみると、耕平のペニスも、今にも精液を放出しかねんばかりに勃起していた。

それに、白い太股に、満が手で押さえていた跡がくっきりと残っている。

「はぁ……あぁ……」

満はペニスをティッシュでぬぐうと、急いでズボンとパンツを引き上げて衣服を整えた。

自分が、ただ快感に飲まれてしまっていた…というのがたまらなく恥ずかしいような気がした。しかし、改めて部屋の中を見回して。

両手と両足首を縛られて、ひっくり返ったカエルの用になっている耕平を見つめて。

そう、ここには耕平と自分しかいない。自分があんなにも快感に流されてしまった…ということも、自分と耕平しかしらないのだ…。そう思うと、だんだんと気持が落ち着いてきた。それに、過ぎた快感のせいで乱れていた呼吸も。

何度か深呼吸をすると、ようやっと頭の中が冴えて、通常の自分に戻れたような気がした。

「あ……あぁぁ……き…気持…わる……うぅ」

そうして見ると、自分が犯していたせいで赤く口をあけてパクパクと蠢いている後孔をさらけ出している満が。なんだか滑稽に見えてきた。

「うぅぅ……あぁ」

まだクリームの効果がのこっているせいか、彼は喘ぎ声を漏らしながら、身体をヒクヒクと痙攣させている。

じっと見てみてると、彼の腹に放出された精液がたまっているようなのが見えた。

耕平も後孔を擦られる快感にイッてしまっているようだった。しかし、そのペニスはまた固く勃起している。きっとクスリのせいだろうけれど。満は見ていると、愉快で溜まらない心地になってきた。そう、クスリのせいで、イッても、イッてもペニスが勃起しつづけている。一瞬、自分が耕平を壊していっているような気がした。

快感を知らなかった彼に、こうして「快感」を植え付けて。その喘いでいる様子を自分は今、冷静な目で見つめている。

「耕平さん…」

満は耕平の後孔に指を入れて、震え続けているローターを最奥まで押し入れた。

「ひ……ひぃ……」

ヒクヒクと耕平の身体が痙攣をしている。勃起したペニスも震えている。満はそのペニスの根本を紐で結わえて、後孔の入り口にもローターが落ちてこないようにガムテープを貼った。

「あ……あぁ……どうして……」

両手首と両足首を縛られたまま、耕平が満の方をチラと、その「作業」をとがめるように見つめた。ペニスを縛られた時の苦しさは、前回でおもいしっているせいだろう。なんとか逃げようとするように、縛られた手首を動かしていた。そのモゾモゾとした動きが、より滑稽に見えて、満は声をあげて笑った。

「ほら、こうしていたら、イクこともできないし、ローターが落ちてくることもないでしょう。ね。ほら。お尻の穴の中で、ブルブルとローターが震えているのは、たまらない快感でしょう」

「あ……あ」

耕平の口の形が「いやだ」と動いたけれど、言葉を発することはなかった。それは快感のせいで声が掠れて、喉でつっかえるようにして飲み込まれていた。

満は、後孔をガムテープで塞がれて、ペニスも紐で縛り上げられている耕平の身体を、少し離れてじっくりと見つめてみた。

 

心の奥に、何とも言えない「よどみ」のようなものが発生してきている…と感じた。

 

こんな異様な、耕平の姿をみていると、また自分が興奮してきそうな気がした。ただ、目を離すことは出来なかった。揺れている白い腿や、縛られて赤くなっているペニスが、そこだけズームアップしたかのように目に映っていた。だから、ただしばられ見とれていた。

その間も、耕平は苦しそうに身体を波立たせていた。

 

「晩ご飯のご用意ができましたよ」

ドアの外の声で、満は見とれていた耕平の下半身から、一気に現実に気持が引き戻されたような気がした。

その声は家政婦の真知子の声だった。今、ドア一枚を隔てて真知子が立っている。

「耕平さん。晩ご飯らしいですよ。さぁ、ほら、食事に行きましょう」

「あ……あぁ」

満は、耕平のズボンとパンツを手にとると、縛っていた量手首と両足首の紐をといた。ダランとベッドの上に垂れた足に、パンツとズボンをはかせていった。そう、それはまるで「お人形遊び」みたいだ…と思った。力が濡れて、時折ローターの動きに合わせてヒクンヒクンと痙攣している身体にズボンをはかせていく。そうして、ボタンをきちんと留めると、その中でペニスが勃起している…ということがよくわからなくなった。それでも念のためにシャツをズボンからだして、股間部分がちょうど隠れるようにした。

満はローターのコントローラーをポケットに入れて、耕平の腕を引っ張って、ベッドの上に身体を起こさせた。

「あ……あ……む…無理…」

さらに立ちあがらせよう…とすると、彼は首を緩く振ったけれど。満は耕平の身体を支えるようにして、強引に立ちあがらせた。彼は足をブルブルと震わせながら。

なんとか、床の上に立たせた。

「う……苦しい……あぁ……苦しい…助けて…」

耕平は、満の方を涙目で見つめていた。しかし、それは逆効果だった。満はニヤリとした笑みをたたえて「さぁ、晩ご飯だ。ダイニングに行きましょう」と耕平の身体を支えて引きずるようにしながら、歩き始めた。耕平は、その距離がひどく長い物に感じた。ダイニングへの扉も歪んで見えている。それに、気が付けば視界が二重三重に見えて、満の顔に焦点を合わせたくても、ただぼんやりと歪んでいるだけ。

「あ……あ」

「さぁ、ほら、つきましたよ。座ってください」

満は耕平の身体を支えながらダイニングに行き、いつもの席に座らせた。それはちょうど満夫婦と向かい合うような位置だったけれど。花菜はすでに食卓に座っていた。

満に支えられている耕平の方をチラとみてから「具合が悪いの? 」と満の方へと声を掛けてきた。花菜は、自然と耕平を避けていた。だから、その言葉にはほんの少し、嫉妬が混じっているような気がした。

「あぁ、なんだか今日は耕平さん、具合が悪いんですよね」

「…………」

耕平は黙っていた。ただ、椅子に座らせると、グリッとローターが更に奥にはいったのか「あ」と掠れた声を漏らした。

 

満も、いつもの通り花菜の横に座った。

最近では、花菜が夕食を作る機会も減ってきていた。最初の頃は真知子は耕平の夕飯をつくり、花菜は自分と満の飯をつくっていたけれど。一つのキッチンに2人が立つ、というのが面倒になってきているせいかもしれない。

花菜や満の食事も、真知子がつくったものになっていっていた。

それに、なによりも真知子が作った方が、さすがは手慣れた家政婦だけあって、うまかった。

満は、真知子が自分たちの前にハンバーグとスープ・サラダに御飯の皿を次々と並べていくのを見ていた。

 

そうしながら、チラと耕平の方へ視線をやった。彼がハンバーグにナイフを入れようとした瞬間。満はこっそりとポケットの中で、ローターのスイッチを一気に「強」にあげた。

「あ……あ」

とたんに、耕平が、掴んでいたナイフを指から滑り落とした。カランと皿にナイフが当たる音がする。

「う……う」

耕平の身体は微かにブルブルと震えていた。

真知子も花菜も、その音と耕平の様子に、ジッと彼の方を見ていた。

そう、まさか「お尻の穴にローターをいれているせいでナイフを指から滑り落とした…とは想像もしないだろう…。

この空間の中で、耕平が「感じている」ということを知っているのは自分だけなんだ…。そう思うと、満の心が満たされていくような気がした。

 

あぁ、自分だけが知っている。

彼の指が震えているのが、快感のせいだということを。

彼のペニスがきつく縛られていることを。

 

満の心の中で、そのフレーズが奇妙なリズムをもって、童謡のように繰りかえしていた。

「耕平さん。手が震えていますよ。それでは食べられないでしょう。お手伝いしましょう」

満は立ちあがった。そのときに、ローターのスイッチを小刻みに調整して、緩やかにしたり、限界まできつくあげたりした。それに吊られて耕平も「う・う」と喉の奥で声を漏らしている。

 

「さぁ、ほら。食べてください」

満は耕平のとなりに腰を落として、ハンバーグの乗った皿を引き寄せてナイフとフォークで小さく切った。そうしてフォークの先に、そのハンバーグを突き刺し、「さぁ、食べてください」と耕平の顔の前に付きだした。

彼は戸惑うように視線を泳がせたけれど。満はポケットの中のコントローラーを最強にした。そうすると、耕平の身体がビクンとはね、チラリと色っぽい眼差しが満の方へと向けられた。

「さぁ、食べてください」

満がハンバーグの突き刺さったフォークを更に口元に寄せると、耕平は黙って口をあけて、それをくわえた。

 

銀色のフォークを、耕平の唇から引き抜く。そのときに、彼の唇にハンバーグのソースが少しべったりと付いているのが、目にはっきりと見えた。

「………」

同時に、強い視線を感じて、そちらの方に顔をやると、花菜がジッと耕平と満の様子を見ていた。目を大きく開けて、ジッと凝視している。それは真知子も同様だった。

 

あぁ、見られている…と思うと、満はより耕平と自分との距離の近さを見せつけたくなってきた。そう、自分と耕平は、特別な関係なのだ。さっきまでも、淫行にふけっていた。

 

しかし、花菜も真知子もそんなことを知らない。

自分と耕平だけの秘密が、そこには横たわっている。

 

「耕平さん。ほら」

満は次々と小さく切ったハンバーグを耕平の口の前にフォークでさしだしていった。彼はだまって、そのフォークにくらいつく。そうして、口の中で噛んで、租借していく。

「…………」

花菜は黙って、自分も食事を食べながらも、じっと目だけは耕平と満を見つめていた。

「耕平さん、さぁ」

満はハンバーグを全て食べさせると、スープのスプーンを持って、耕平の口元に近づけていく。彼は「ズズッ」と音をたてて、スープを咀嚼していっていた。

 

満は、痛い程に花菜の視線を感じていた。それは、最初はただ「驚き」で大きく目を開けていたけれど。じわりじわりとその視線に「嫉妬」が混じってきていた。

自分の食事よりも、耕平の食事を優先して食べさせている満の行為を見て。また、それに黙って従っている耕平に対して。激しい嫉妬を感じているような厳しい視線だった。

 

花菜の口から、今にも「そこまですることはないんじゃないの」という言葉が出てきそうな気がしたけれど。

彼女は、その言葉をのど元でグッと必死で飲み込んでいるらしかった。

 

満は、その「嫉妬」のまじった視線を感じると、より愉快な気がしてきた。

花菜が耕平を憎めば憎む程に。自分は耕平に惹かれていっているような気がする。また、花菜も満のそういう気持をどこかで察しているのではないか…とも思えた。

「あぁ、耕平さん…こぼしてしまいましたね」

満は耕平の顎にたれたスープを、ハンカチでグイとぬぐった。そうしてから、彼の少し長めの前髪を指で、かき上げるように撫でた。

 

そうすると、バンッと大きな音が食卓に響いた。

「私、もういいわ」

花菜が強く食卓を叩いた音だった。彼女の皿の上は、ほとんどが食べ終えられていたけれど。まだ少し付け合わせなどがのこっていた。いつも完食している彼女にしては、珍しいことだった。

それに、花菜が強くテーブルを叩いたのも。満が立ちあがった彼女を見つめると、花菜はギラギラとした目で耕平を睨み付けていた。

 

「そうか」

満は、あえて花菜から視線をそらして、耕平にスープの匙を持っていきながら短く答えた。

花菜のギラギラとした嫉妬の視線を、痛い程に感じる。

 

ただ、満はその視線も愉快でならないような気がしていた。

花菜が嫉妬をしている。

花菜が、心のどこかで、満と耕平の「異常に深いつながり」を察知しているのかも知れない。

「女」の本能が、何かを気付かせているのかも…。

「ははは……」

そう考えると、満は奇妙に愉快な心地になった。

「真知子さん。俺の食事も、こちらに寄せてくれ」

家庭夫に言うと、彼女は無表情のまま、満の食事がのった皿を、花菜が座っていた隣の位置から、耕平の隣の席へと。手早く運んできた。

満は耕平に全てを食べ終えさせてから、自分の食事を一気に掻き込んだ。耕平はぼんやりとした目で、その様子を見つめていた。

それは、後孔のローターのせいかもしれない。独得の異物感のせいで、彼の視界はぼんやりとしていて、精神も定まっていないに違いない。

 

満は、食事を終えると、耕平の手を取って「さぁ、部屋に戻りましょう」と言った。

耕平は、よたよたとした足取りで、部屋に戻ると、「は……はずしてくれ…」と小さな声で呟いた。

それが、ペニスを縛っている紐と、後孔にいれたローターの事だ、ということは分かっていたけれど。

 

満は「明日の朝。明日の朝になれば、外してあげますよ。ね。それまではこのままがいいでしょう」と囁いた。

耕平は不服そうに目を上げて、チラと満の方を見たけれど。

ただ、黙ってベッドに小さく腰を落としていた。

 

満はその姿を見てから、部屋を出て、静かにドアを閉めた。

 

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