帰路
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「あぁ……くそっ…」

腕時計を見ると、もう、8時半をさしている。

残業で、すっかり遅くなってしまった。

今の職場は、残業が少ないから、選んだのに。

「………」

電車が、ガタンと揺れて、駅に到着した。

この調子だと、家に帰ったら、9時前だろうか。

 

帰宅途中には、いつも楽しみにしていたことがあったのに。

 

駅から、自宅のマンションがあるまでの間に、公園がある。

いつも、そこで遊んでいる子供達を眺めてから帰るのが習慣になっていた。

平日だったら、いつも、5時半の定時に仕事が終わるから。

 

公園に着くのは6時前。ちょうど、子供達が、一番たくさん遊んでいる時間だ。

 

6時過ぎになると、低学年の子供達は、ぼちぼちと親が迎えに来て、帰っていく。

中・高学年の子供達は、塾が始まるまでの時間をつぶしている。

 

公園のベンチに座って。6時半くらいまで、子供達の姿をぼんやりと眺めてから、自宅に帰るのが、習慣になっていた。

 

子供は大好きだ。

見ているだけでもたのしい。

 

同世代の男友達が、「恋人」をほしがっている理由がよく分からない。

 

女なんて、面倒なだけだ。

今まで、何度か、女性と交際したことがあったけれど。

お金はかかるし、気は遣うし。挙げ句に、「西野くんは、心がない」なんていって、振られるのがオチだ。

 

それに比べて、子供を眺めているのは本当に楽しい。

「こんな時間だと……」

もう、誰も公園には居ないだろうな…。

もう一度、腕時計を見てみた。

毎日の楽しみがぽきんと折られたようで。なんとなく納得がいかない。

でも、とりあえず、自宅に帰るには、公園の中を通らなければいけない。

 

もう、すっかり暗くなっている公園の中に、足を踏み入れた。

「チッ……」

案の定。暗くなっている公園の中には、誰も居なさそうだ。

無人の砂場と滑り台が。暗い闇の中で、浮き立っている。

 

子供の姿が見られないだなんて…。

なんとなく、気持ちがモヤモヤする。

「しょうがないか……」

帰ろうか…と、足を踏み出すと同時に。

ガタン…とブランコの方から音がした。

「あ……」

公園の奥にあるブランコの方に目をやる。

暗闇の中で。誰かが座って居るみたいだ。

小さな影。それに引き寄せられるように、ブランコの方へと足を進めた。

「………」

近づいていくと、ランドセルを背負ったまま、ブランコに座っている少年が、みえる。

 

まだ、残っている子供がいただなんて。

意外だ。

「どうしたの?

子供のすぐ傍まで歩み寄って、見下ろしてみた。

「え?

小さな身体が、ビクッと震えて、こちらを見上げてきた。

 

大きな瞳に、白い頬。

想像していたよりも、ずっとカワイイ少年だ。

暗いからよく分からないけれど。制服の短パンから伸びた足も、細くて。

 

口の中に、生唾が湧いてくる。

「こんな遅くに、どうしたの?

「あ……」

少年の瞳が、動揺するように、左右に揺れる。

胸元の名札は、3年生の色だ。

3年生にしては、身体が小さいような気がするけれど。

「え……えと……。い…家の鍵を忘れちゃって…」

きっと、教師か警察官だと思ったのだろう。言葉が震えている。

「いつもは、ちゃんと、ポケットに入れてるんだけど。

今日は、朝、バタバタしていたから…。つい、忘れちゃったみたいで…」

「それで、こんな所に?

少年は、コクリとうなずく。

一瞬、うなじが白いシャツから見えた。

なんとなく、ドキンと胸が高揚した。

 

チャンスかも知れない。

こんな、遅くに公園で、一人っきりの少年。

滅多に、居るもんじゃない。

 

それに、少年が偶然鍵をわすれて、こうして時間をつぶしている日に。

自分も、残業で偶然、遅れて。

 

運命の出会いみたいだ。

 

ずっと、子供が好きだった。だから、神さまが、自分のために、この少年を用意してくれたに違いない。

 

「そう…。でも、いつまでも、こんな所で時間をつぶせないだろう」

「でも、パパとママは、仕事中みたいで。携帯がつながらないし…」

少年の、大きな瞳が、うるうると潤んでいて、かわいい。

「……こんな場所にいて、変質者にでも捕まったら、大変だろう。

 しょうがないな…。ほら、着いてきなさい」

少年の腕に、手をのばして掴んでみた。

楽に、指が回りそうなぐらい。細い。

「え……はい…」

少年は動揺したみたいだけれど。自分の言い方で、警察官だと思ったのだろう。

ブランコから立ち上がった。

「こんな遅い時間に…。1人で居たら、危ないからね」

「はい……」

腕を掴んだまま、公園を通り抜ける。

 

ドキドキと、心臓が高鳴っている。

今、自分は、少年の腕を掴んでいる。

このまま、部屋に連れ帰って…。

何をして上げようか。

どうやって、遊ぼうか。

 

こんなにも、ワクワクしたことは、今までにない。

 

少年は、だまって自分の後に付いてきているし。

 

「え…あれ…」

自宅のワンルームマンションのエントランスに、少年の腕を掴んだまま入っていった。

「あ……あの……」

きっと、派出所にでも連れて行かれると思っていたのだろう。

意外そうに、キョロキョロと周囲を見回している。

「公園なんかよりも、こっちの方が安全だからね」

「あ……は…はい…」

腕を掴んだまま、エレベーターにのりこんだ。

部屋のある、6階のボタンを押す。

 

6階に着くまで、異様な緊張感が、狭いエレベーターの中で充満している。

少年は、自分の想像していたのと違って、不安なようだし。

自分も。少年が、突然抵抗して、逃げ出すんじゃないか…という心配がある。

「さぁ、着いた…」

いつもの何倍にも長く感じたエレベーターを降りて、自室の方へと少年を誘導した。

「あ……」

一旦、少年の腕から、手を離して、鞄から鍵を取りだした。

 

多分、これが、少年が逃げられる最後のチャンス。

 

早く、この部屋の中に、少年を入れてしまいたい。

気持ちが高揚すると、余計に鍵が鍵穴に入りづらい。

早く、早く…。

「あぁ……」

ガチャリと音がして、

鍵が開いた。

「さぁ、入って」

「え……あ……はい……」

少年の肩を抱き寄せて、玄関に押し込んだ。

自分も、玄関に入って、後ろ手にドアを閉める。

ガチャン、と。

鉄の扉が閉まる音が、妙に大きく耳に響く。

「それじゃあ、とりあえず。ランドセルはおろしたら?

もう、ずっと。一人暮らしだから。

部屋の中は、あちこちに脱ぎ捨てている服や、よみかけの本なんかが積まれていて、かなの汚い。

自分が座る場所を探すように、グルリと部屋を見回している。

「ほら……」

少年が降ろしたランドセルを掴んで、適当に、部屋の中に放り投げた。

ガシャンと中で、筆箱がぶつかるような音がする。

「こっちに…座って」

「で……でも……」

少年の腕を掴んで、ベッドの方に引き寄せた。

 

ここまで来たら、もう、自分の勝ちだ。

この少年をどうすることも出来る。

 

この部屋から、絶対に逃がさなければいいんだ。

 

子供が大好きだから。

こんな風に、自分の自由になる子供がいるのは、本当に嬉しい。

胸がドキドキと高まっているのが分かる。

「座れって、言っているだろう」

立ちつくしたままの背中を思い切り押した。

「あ……」

少年の小さな身体が、ベッドの上にドンッと音をたてて、倒れる。

「や……やっぱり……僕…」

乱暴に、押した事で、変だ、と気づいたみたいだ。

今更、ヤバイと分かったのだろうか。

ベッドの上に両手をついて、上半身を起こして。逃げようとしている。

少年の上に覆い被さって、小さな身体を見下ろしてみた。

名札には、「佐々木 榛奈」と書かれている。

「ふぅん……榛名くんか」

「や……やっぱり。僕……」

両手で、胸ぐらをおしてくる。

「やっぱり、何だい?

必死で両手を突っぱねようとしているけれど。

笑いたくなるくらいに、力が弱い。

やはり、小学生の力っていうのは、こんなモンなんだろうか。

「か……帰る……」

それでも、両手をジタバタと動かされると、面倒くさい。

「いいだろ。しばらく、お兄さんと遊んで、時間をつぶそうよ」

前髪を鷲づかみにして、顔を引き上げてみた。

「ひ……いた……イタイ……」

顔が、すっかりこわばっている。

きっと、怖いのだろう。

何をされるか分からなくて。

恐怖に眉がひそめられているのが、かわいい。

「とりあえず、制服を脱ごうか。

 もう、学校じゃないんだしね」

「ひ……」

紺色の短パンに手をかけた。

ボタンを外そうと、指を動かしたけれど。

「や……やめ……」

少年が、両足をやみくもに動かし始めた。

「っつ……」

ドンッと少年の膝が、腹に当たる。

「う……」

いくら微力とはいっても、思い切り抵抗しているから。当たると、けっこう痛い。

 

不快だ…。

せっかく、制服のズボンを脱がせて上げようとしているのに。

こんな風に抵抗されるのは、気分が悪い。

 

ジタバタと動かされる四肢がジャマなんだけれど。

「せっかく、人が、脱がせて上げようとしているのに。

そんな風に、暴れるモンじゃないよ…」

「や……やだ……」

ジタバタと、両手両足を動かし始めた。

「や……やめ…て……」

面倒くさい…。

これでは、思ったように、少年を扱えない。

思い通りに、少年で愉しみたいのに。

「聞き分けがないな…」

どうしたらいいだろう…。

いったん、ベッドの上でジタバタと暴れている少年から、身体を離した。

 

両手両足をしばってもいいけれど。

こんなに暴れられて居るんじゃあ、縛るまでも大変そうだ。

「あ……」

身体を離すと同時に、少年が、ベッドの上に起きあがる。

「ひ……助けてっ……」

小さな身体が、ベッドから降りて、玄関の方に向かって、走り出す。

「あ……待てよ…」

慌てて、自分も、少年の後を追った。

ワンルームマンションだから、すぐにドアにたどり着く。

「ひ……あ……」

少年が、逃げようと、ドアの取っ手を闇雲に動かしている。

 

鍵とチェーンかけておいて良かった。

そうじゃなかったら、あやうく、逃げられているところだ。

 

「何、逃げようとしているんだよ…」

ドアノブにしがみついている、小さな背中。

 

ふと、視界にドア脇に立て掛けられているバットが入った。

 

野球なんて、興味がないけれど。学生時代に購入して。なんとなく捨てづらくて、ずっと持っている。

今は、防犯のために、玄関脇に置いている、木製のバット。

 

「遊んでやるって、いっているだろう…」

バットを手にとって、小さな身体に、思い切り、振り下ろしてみた。

 

「ひ……」

ガンッとおおきな音が鳴って。

榛名の肩に、バットがあたる。

同時に、小さな身体が、床に転がった。

あまりにも、簡単に転がって。

意外なくらいだ。子供って、こんなにも軽いモンなのだろうか。

「い……いた……」

玄関に、倒れ込んで、バットがあたった、肩の辺りを押さえている。

「野球は好きかな? もっと、バットで遊びたい?

ダンゴムシみたいに丸まっている身体を。バットでつついてみた。

「ひ……あ…」

両目から、涙があふれ出ている。

そんなにも、痛かったのだろうか。

「い……いや……」

それでも、ドアノブの方に、手を伸ばしている。

「遊びたい、みたいだね……」

今度は、頭に。

バットを振り押してみた。

あまり、力を入れていないつもりだけれど。

「ひ……」

ドンッと頭に、バットがぶつかる音が響く。

「い……いたぁ……」

少年が、両手で自分の頭を押さえて、うずくまっている。

「言うことを聞かないから、だよ」

「ひ……」

もう一度。今度は、丸まっている背中を。

力をこめて、バットで殴ってみた。

「う………」

少年の身体が、床の上に、ふっとんで、転がる。

「い……いた……」

どういう顔をしているのか、見てみたくて。

髪の毛を掴んで、俯せに倒れ込んでいる身体を、反転させた。

「う……いた……いたい……」

両目からは、ひっきりなしに涙があふれ出ていて。

恐怖に、顔が真っ青になっている。

血の気がひくって、こういう顔の事をいうのか…。

 

「あ……あ……な…殴らないで…」

呂律が回らないみたいで。

喉の奥で、声がくぐもっている。

「殴ったんじゃないよ。バットで遊んであげただけだろう。

 君が、逃げようとするから…ね」

「ひ……」

バットで、倒れ込んでいる少年の顔をつついてみた。

「あ……」

再び、バットが振り下ろされると思ったのだろうか。

「ひ……ひ……」

両手を床について、必死に後ずさりしようとしている少年のズボンの裾から。

黄色い液体が流れ始めた。

「なんだ? 漏らしてるのか?

「あ……う…」

少年が、首をふって、ドアの方へ。少しでも近づこうとしている。

「質問には、きちんと答えないとな……」

「ひ……」

今度は、腹に。バットを振り下ろしてみた。

「あ…ぐぅ……」

変な声がして、少年の身体が、ゴロンと転がる。

「汚いな…。もらしたりして…」

少年の髪の毛を掴んで、仰向けに身体を反転させた。

「ひ……ひ……」

ズボンは、漏らしてしまっているおしっこで。すっかり色を変えている。

紺色が、股間部分だけ、濃紺みたいに濃くなって。

白い太腿にも、黄色い液体が、何筋も走っている。

「もらしているんだろう。だったら、きちんと…。

 「おしっこを漏らしてごめんなさい」って、謝れよ」

「う……」

仰向けの腹の上に。バットの先端を置いた。

「あ……う……お……おしっこ…漏らして…ご…ごめんなさい……」

声が震えていて。

はっきりとは聞き取れないけれど。

「また、バットでなぐられる」と怖いせいだろうか。

 

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