・虚無・
 視線が全身に絡み付くみたいだ・・・。
 嫌だ。あんな、無表情で見られるのは。でも、見てもらえる事だけで嬉しくなってしまってもいる。
「ひっ・・」
 なんとか顔を俯けた。でも、まだ杉原が見ているかと思うとドキドキする。
 後孔に突き立てた指の動きも速くなってしまう。まるで、杉原の指みたいな錯角を起こしてしまう・・。
 あんなに、見られたら。
「っっ・・」
 これは杉原の指・・。こんなに中を掻き回すのも、杉原だ。
 全身の体温が上昇していく。身体が熱い。
 車内に、指と粘膜が擦れあう音がグチャグチャと響く。
「広がったら、ソレを入れる。
 そんなに一人で盛り上がっていたら、対向車にもバレバレですよ。もう少しは恥ずかしそうにしたらどうです」
「っつ・・」
 和也は慌てて俯いた。足も、膝が緩く開いている。
 後孔をいじっていただけなのに、すっかり前も勃ち上がってしまっている。
「あっ・・」
 指を抜くと、後孔がジュンッとうねった。さっきまで含んでいたせいか、もの寂し気になってしまう・・。
 膝を付けて、顔を下向けた。対向車にバレないように。
 どうせ、後部座席だから大丈夫だろうけど、杉原がそうしろと言うなら・・。
「傷つけないように舐めて下さい」
 男性器の形を模した、毒々しい紫色のソレを恐る恐る手に取った。
 ずしりとした重みが手の平に走る。こんなの・・杉原は俺が使っているのを見て楽しいのだろうか・・。
 よく分からない・・。
 でも、言う通りにすれば、杉原がいいんだったら、するしかない。
 和也は言われた通り、それを口に含んだ。
 指とは比べ物にならないぐらいに大きい。口を限界まで開けて入れなければならない。
 顎が疲れるし、唾液が顎を伝って出て来てしまう。
 そんな姿を杉原には見られるのは嫌だ。顔を俯けても、杉原に卑しいと思われているような気がしてしょうがない。
 杉原は運転席で黙って前を見て運転しているだけだ。
 早く、次の指事が欲しい・・。苦しい。
「じゃあ、次はそれを入れる」
 やっと、顎が解放される・・。
 和也はホッとして、口腔からそれを引き抜いた。唾液が糸を引いて、皮張りの座席の上に落ちた。
 自分の唾液で濡れそぼったソレを後孔にあてがう。
 指で充分に馴らされた粘膜が、くわえこむように、じわりじわりと飲み込んでいく。
「あっ・ひ・・」
 身体が、震える。苦しい。下からどんどんと圧迫されるみたいにギチギチと押し込まれる。
 怖くて、押し込めない・・。
 下から、ジンジンと背筋を電流が這い上がる。
「無理っ・・・」
 必死で、フロントミラーを見た。
 杉原がじっと和也を見ている。これ以上は無理・・。
 和也の頭が、フロントミラーの中で、ゆるゆると左右に揺れる。
 苦しい。
「無理でしたらいいですよ。帰りましょう」
 杉原が呆れたように、スッと視線を外して、前方に眼をやった。
「そんなのっ・・・。
 嫌だっ・・嫌・・。杉原・・」
「だったら、言った通りにすればいい・・。そうすれば、相手してあげますよと言ってるじゃ無いですか」
「でも・・」
「押し込むだけですよ。後は」
 杉原がハンドルわ切りながら何でも無い事のように言う。
 でも、ここで、言われた通りにしないと、これからも杉原は相手をしてくれないかもしれない・・。
 そんなのは・・耐えられない。
 嫌だ・・。
「いたっ・・ひっ・・・」
 なんとか、バイブを持つ手に力を加えた。
 ギリギリと粘膜を引きずり上げながら飲み込まれていく。
 気持悪い。でも、同時にフロントミラー越しに杉原が見てくれているかと思うと、身体がどういようもなく興奮する。
 熱い。
「あっ・・はぁっ・・」
 なんとか、根元まで押し込んだ。皮膚呼吸が出来なくなったみたいに、息苦しい。
 身体が熱くて熱くて掻きむしりたい・・。
 和也はエンブレムの入ったジやケットの胸もとを握りしめた。
 許容量を超えた侵入に、指先が震えて、握りしめている手が白くなっている。
「よく出来ました。偉いですよ」
 杉原がからかうように笑うと、車を止めた。
 どうやら、車は地下駐車場のような所に止められているらしい。薄暗くて、周囲はがらんとしている。
 どこだろう・・という疑問が胸に湧いたけれど、後孔の異物感にそれどころではない。
「ひっ・・あ・・」
 突然、後孔の異物が動き始めた。
 グルグルと中部で振動しはじめる。限界まで開かれた粘膜が、ぐちゅぐちゅと音を立ててざわめく。
「なにっ・・やぁっ・・」
 どうしたらいいのか分からない。気持悪い・・。
 ぞわぞわと背筋を何かが這い上がってくるみたいで、座ってられない。
 何かにしがみつかないと。
「すっ・・杉っ原っ・・」
 後を振り向いた杉原に助けを求める。
 杉原はリモコンのようなものを助手席に放り投げると、嬉しそうに笑いかけた。
「普段はあんなに澄ましているのが、こんな風になってるなんて知ったら、皆びっくりするでしょうね」
 分かり切った事を、杉原の口が紡ぎ出す。だって、杉原がしろと言うからだ・・。
 杉原が好きだからね杉原の言う事だったら、なんだってするしかない。
「感じますか?」
 杉原の言葉に、必死で頷いた。杉原がみているから・・・。
 前が、痛いぐらいに張り詰めている。
 後孔でうねるのをなんとかして欲しい。体内がグチャグチャに掻き回されているみたいで怖い。どうしようもなく、感じてしまう。
「淫乱だ・・。
 そうしてねお尻の穴を掻き回されるのが好きなんですよね」
「っつ・・」
 首を緩く振った。恥ずかしくってしょうがない。
 杉原にそんな風に言われるのは嫌だ。
「認めたら、キスしてもいいですよ」
 和也の肩が、杉原の言葉にびくりと震える。
 キスしたい。杉原に・・。
「好き・・淫乱・・でもいい・・」
「きちんと言ってくれたらです。お尻の穴を掻き回されるのが好きなんですよね」
「あっ・・っつ・・お・・尻・・の穴を・・掻き・・・回されるのが・・好き・・」
 言うと同時に、身体を乗り出して、運転席の杉原に後ろからしがみついた。椅子越しがすごく嫌だ。もどかしい・・。
「よく出来ましたね。
 そうですよね。和也さんはどうしようもない淫乱なんですよ」
 言い聞かすみたいに杉原が言う。
「あっ・・好きっ・・」
 身体の中で蠢くのが気持悪い。どうにかなってしまう。
 グイッと腕を掴んで、杉原に、運転席の方へと引きずり上げられた。
「ひぃっ・・」
 その振動で、異物がメリメリとより深く突き刺さる。
 運転席の杉原の膝の上に、杉原の足を跨ぐような格好で置かれる。
「いやっ・・恥ずか・・しいっ・・」
 足を開いてしまうと、すっかり勃ち上がったペニスが杉原の眼に曝される。
 その上、バイブのせいで、小刻みに身体が揺れてしまう。
「言う通りにできたら、相手をしてあげる約束でしょう」
 杉原がにっこりと笑いかけた。
 嬉しい・・・。本当だったんだ。
 慌てて、杉原のズボンのファスナーを降ろした。クックッと笑う声が聞こえるけれど、早く、気が変わらないうちに。
「杉原っ・・・」
「入れて欲しいですか?」
 ガクガクと何度も頷いた。早く、バイブを抜いて、杉原のを入れて欲しい。
 杉原が好きだから。
「じゃあ・・」
「ひぃっ・・」
 バイブが入ったままの後孔に、杉原の指が突き立てられた。激痛が走る。
 ただでさえ、限界までひらかれているのだ。これ以上、指だけでも入れられたりしたら、壊れてしまう・・・。
「いやっ・・・痛いっ・・」
 自然と涙が出てくる。背筋がガクガクと震える。
「痛い?でも、我慢しろよ」
 杉原はクックッと喉奥で笑うと、強引に指を引っ張って、バイブとの隙間にペニスを潜りこませた。
「ひっ・・」
 杉原のスーツを思いきり握りしめてしまう。
 和也の身体が限界まで仰け反った。
 バイブが突き刺さったままの後孔に、杉原のペニスがどんどんと飲み込まれていく。
「いっ・・」
 和也の眼から、塞きがきれたみたいに涙が溢れ始めた。
 限界以上の容量に、切れてしまったらしく感覚がない。ただ、異常なまでの圧迫感と激痛が全身を支配する。
「いたっ・・ひっ・・」
 杉原が、血の滑りも借りて、最奥まで侵入して来た。
 内臓を鷲掴みにされているみたいだ。
 車内に、ぐちゃぐちゃと内臓を掻き回される音が響く。
「あっ・・あっ・・」
 全身が壊れてしまったみたいに動けない。口を閉じる事も出来ない。
 杉原はおかしそうにクスクスと笑った。
「バイブの振動とで、すごいぜ」
 ニヤリと笑いかけると、強引に注挿を開始し始めた。
「ひっ・・ひっ・・」
 その度に、裂かれるような痛みが走る。必死に、杉原のスーツを握りしめた。
 身体に力が入らない。ただ、しがみついていないと、倒れこんでしまいそうだ。
「あっ・・つっ・・」
 裂けた粘膜が、杉原のペニスに引きずられてまくれ上がる。ズルズルと収縮してはまた刺激される。
 異常な感覚が、背筋を這い上がってくる。痛い。激痛なんてものじやない。
 でも、ヒリヒリと痛むと同時に、ジンジンとせき髄が痺れる。
「やめっ・・いや・・」
 異常だ。
 狂ってしまう。身体が熱くて、とくに、アヌスが燃えているみたいだ。焼け死んでしまう・・。
「ひぃっ・・」
「すげぇな。こんなんでも感じてる」
 笑うみたいに、杉原が和也の勃ち上がったペニスを握りしめた。
 それさえも刺激になってしまう。
「あっ・・ひ・・」
 杉原の身体が震えて、和也の内部で爆ぜた。
 内壁に、精液がぶちまけられる。
「ひっ!!ぐっ・・」
 その刺激に、和也のペニスからも白い迸りが吹き出て、杉原のカッターに飛び散った。
「うっ・・」
 息を落ち着かせる間もなく、中から杉原の性器とバイブが引きずり出される。両方が、和也の血でヌラヌラと光っている。
 和也の身体がグラリと揺れて、助手席に倒れこんだ。身体に力が入らない。
 両足の間を、鮮血が伝っている。
 息をする度に、ブレザーに包まれた肩が上下している。杉原はズボンのファスナーをあげると、和也の肩を掴んで、上向かせた。
「大丈夫だよな?」
 半分失神したような眼が、ユラユラと揺れて杉原の顔を見た。
「杉原・・キス・・・」
 和也の腕が、杉原のスーツの袖口を引っ張る。
 キス・・約束だ。
「しょうがないですね・・・」
 杉原は苦笑すると、和也の口に口ずけた。
 下唇を噛んで、唾液を注ぎ込む。和也も、杉原の頭を、なんとか腕を伸ばして掴むと、もっと、とせがむように蜜着させた。
 これ以上、ないんじゃないか・・と思う程に、杉原の口内の唾液を舌ですくい取る。
 杉原のだから。次にキスしてもらえるのはいつか分からない。
 だったら、今の瞬間を味わうしか無い。
「あっ・・」
 杉原の唇が離れる。わざとらしく、眼の前で、杉原は乱暴に唇を拭った。
「帰ります」
 短く言うと、前に向き直る。助手席に倒れてままでいる和也を一瞥すると、ハンドルをぎっちりと握りしめた。
 和也も、ノロノロと起きて、後部座席の下に脱ぎ捨てられているズボンを拾い上げて履いた。
 そのまま、助手席に座る。
 杉原は何事もなかったような顔で前を向いている。
 駐車していた場所から、ゆっくりとバックで車をだしている。
 スーツのズボンに散らばる和也の血の染みと、握りしめていたスーツの皺だけが、さっきまでの出来事の痕跡だ。
「好きなんだ・・・」
 ズキズキと、まだ傷付いた場所が痛んでいる。
 運転している杉原を盗みみながら、呟いてみた。
「分かってます」
 短い、いつもの答えしか返って来ない。
 胸まで、ズキズキと痛み出す。
 好きなんだ。だから、こうして、たまに抱かれるだけでも満足だ・・・。
 心の中で唱え直して、和也は前方に眼をやった。
 
 地下駐車場の薄暗さが回りを包んでいる。
 地上からもれる光が一筋、差し込んでいる。
 まるで、自分の杉原への思いみたいだ。
 あんな風に、一筋の希望でも、見えればいいのに・・・。
 
 杉原は黙ったまま、車は滑り始めた。
 
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