ペット禁止
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「オタク、犬、飼ってるだろ」

突然話しかけられて。

一瞬、自分にかけられている言葉か、どうか。戸惑った。

 

アパートの階段を昇ろうとして、ちょうど、足を踏み出すと同時だった。

 

振り向くと、多分、二十歳前後の大学生風の男が立っている。

上下ともジャージを着ていて、部屋着みたいだけれど。

「あ……と……」

「アンタ、俺の上に住んでいる「原田 逸樹」だろ」

自分の名前を呼び捨てられて、一瞬、カチンと頭にきた。

「そうだけど…」

男は、ヒョロリと背が高い。

髪型も、いかにも、今時の大学生風に金髪混じりで。チャラチャラしてそうだな…と思う。

「俺、アンタの下に住んでんだけど。アンタの飼っている犬には、迷惑してるんだよな」

 

古くて、ぼろっちいアパートだ。

逸樹も、会社に近いのに、格安だったから。この3月から住み始めて。

まだ、四ヶ月。今のところは、管理人とも何ももめ事はないし。

順調にいっていると思っていた。

 

「昼間も、ずっと、カタンコトンと音がしているし。

へんな鳴き声みたいなのが聞こえるし。ここは、ペット禁止だろ」

一方的に、まくし立てるように話されるのは、好きじゃない。

 

はっきりといって、不快だ。

 

ただでさえ、今日は残業があって、憂鬱だったのに。

「犬は飼っちゃだめなんだぜ」

「………なんのことかな…」

男の言葉に、面倒くさそうに首をふって、階段を昇ろう、と向き直った。

 

「嘘だ。今日だって、一日中「カタンコトン」って音がしてたんだぜ」

男に背を向けたのに。腕ががっしりと掴まれる。

 

面倒くさい…。

下の階の住人が、こんなにもめんどくさそうな人間だったなんて。

全然知らなかった。

「何も飼っていないって言うんだったら、アンタの部屋、見せろよ!!

男が、ズイと身体を近づけてきた。

「あ……」

手に持っていた鍵を。男に奪われる。

 

「ちょっ……君……」

びっくりしたから、一瞬、遅れてしまった。

「何も飼っていないんだったら、見てもいいだろ」

男が、ガチャリと逸樹の部屋の鍵を開ける。

 

自分の部屋のドアが、勝手に開けられて。

男が入っていく。

 

まずい……。

 

慌てて、止めようとしたのに。

 

駄目だ。

間に合わない。

 

「くそっ……」

舌打ちをして、男の後に続いて、ドアから入った。

 

部屋に入られるのは、絶対にまずい。

何とかしなくてはいけない。

 

でも、どうしたらいい…。

 

焦って、前に立っている男の頭に。

思い切り、持っていた鞄をぶつけた。

中にはノートパソコンと書類と本が入っているせいで、重くて、堅いビジネスバッグだ。

ガンッと硬い鞄が、頭に当たる音がする。

「クソックソックソっ」

何度も何度も力をこめて、鞄を振り下ろした。

「い……いた……」

5・6回殴っただろうか…。

 

ようやく、前に立っていた男が、グラリと揺れた。

「いってぇ……。なんだよ……。アンタ。

 部屋をみるくらいいいだろう」

倒れたと思ったのに。

すぐに身体を立て直して。

男がサンダルを脱いで、勝手にズカズカと部屋の中にあがっていく。

 

まずい……。

 

2DKの部屋の奥に入っていく背中を見てから。

逸樹は、慌てて、鞄を放り投げて、台所にむかった。

 

とりあえず、包丁を掴む。

 

男を止めないと。

まずいことになる。

 

「っつ………おかしーな……」

 

男が、奥の和室に入っていって。

「あ、やっぱり、ほら……」

ガラリと、襖を開けた。

 

「あ……あれ……?

男が、開けた押入の前で、立ちつくしている。

 

「こ…この犬……」

たしかに。逸樹は犬を飼っている。

 

ただし、普通の犬じゃない。

公園で拾ってきた、柴犬みたいな雑種の犬だけど。

両方の前足が、ない。

 

足の半分で、すっぱりと切断されている。

「な……なんだよ、これ……」

男が、一瞬たじろいだように、後退した。

「くそ……見られたか……」

逸樹も、あわてて部屋に入る。

スーツ姿に包丁を持って。自分でもおかしな格好だとは思うけれど。

「うわ……なんだよ……」

男が逸樹の手にもっている包丁を見て、ぎょっとしたように肩をすくめた。

「な……なんだよ、この犬……。なんで足が……ないんだよ…」

男は、気持ち悪そうに、押入の中の柴犬から視線を外して。逸樹の方をチラリと見てきた。

「あ……アンタが切ったのか…。 

そういうの、動物虐待っていうんじゃねーの?

非難するように、逸樹の方を見てくる。

 

そのさげすむような視線に。

 

一瞬、頭の中が白くはじけた。

会社の中でも、居場所がない自分。

せっかく、新居を見つけて、かわいい犬も用意したのに…。

どうして、こんなジャマが入るんだろう。

「そういうの、区役所とかに届け出ないと行けないんだよな……」

昼間に、カタコトと音がするくらいいいじゃないか。

走り回れないように、きちんと足を切断したのに。

もし、子供がいる家庭だったら、もっとうるさくしているんだから。

まさか、下の階の住人が、こんなにも音にうるさいとは思わなかった。

鬱陶しい……。

こんなにも、気を遣って飼っているのに。

「うるさいっ!!

「うわっ………」

気がつくと、包丁を持った手で、男の胸に、斜めに斬りかかっていた。

 

「っつ……な……」

「あ……」

男のジャージが裂けて、赤い色が。裂け目から広がっていく。

「う……うわ………」

男を斬りつけたことに、気が動転してしまった。

本当に切るつもりじゃなかった。

ただ、男を止めたかっただけで…。

「な………なんだよ、アンタ」

「え……」

自分でも、斬りつけてしまったのは意外だった。おもわず、してしまったけれど。

赤い血が広がっていくのを見ると、改めて、自分が斬りかかったんだ、という事が実感されて……。

 

犬の足を切ったときの事を思い出す。

 

うまく「お手」をしないから。イライラして。切ってしまった。

片方だけだと、バランスが悪いから、両方切った。

そういう事をしてしまう自分が、異常かもしれない…とは思ったけれど。

 

犯罪じゃないから、許されると思って…。

まさか、自分が本当に男に斬りかかってしまうなんて。

「き……君がうるさく言うから……」

あせって、包丁をにぎっている手に無駄に力が入る。強く握りしめているせいで、指先が白くなって…。

「むかつくな…。だって、アンタが悪いんだろう。

 こうして、ペットを飼ったりして」

「ひ……」

男が、逸樹の前髪を掴んできた。

 

まさか、反撃されるとは思っていなかったから。

心の準備が出来ていない。

 

包丁をもっていたら、絶対的に、立場が優位だと思っていたのに。

 

「あ……」

前髪が鷲づかみにされて、床に、身体を放り投げられた。

 

「っつ……あ……」

床に手をつこうとしたけれど。包丁を握っていたせいで、タイミングがずれた。

「いたっ……」

頭から、床に転がってしまった。

 

「挙げ句に、こんな事して、斬りつけてきて。傷害罪だぜ」

「あ……」

男の足が。

顔から床に転がった逸樹の頭を踏んづけてくる。

「き……きみっ……」

足から逃れようとしても、絶対的な力が踏んづけられて。

「あ……」

「包丁を持ってきたりして…。どうするつもりだったんだよ」

「っつ……あ……」

男が逸樹の頭を踏んづけたまま。

手を伸ばして、逸樹の手から、包丁を盗み取った。

きつく握りしめているつもりだったのに。

男の手の方がずっと大きくて。力も強くて。

 

簡単に、包丁を奪われてしまった。

 

「俺の事も、この犬みたいに、手でも切ろう…とおもってたのか?

男が、包丁を握りなおして、血の付いている刃をじっと見ている。

「それとも、うるさいから、殺してやろう、とでも思っていたとか?

男の、甲高い笑い声が響いた。

 

何がおかしいのか分からない。

 

早く、頭を踏んづけている足をのけて欲しい。

 

「君っ……。いい加減に、この足をどけないと……」

「どけないと、どうするんだよ?

「え……」

言葉に、一瞬ひるんでしまった。

 

包丁を奪われて。

力では、絶対に逸樹の方が劣っているように思う。

男は、ヒョロリと背が高いし。

 

胸を包丁でかすめられても、全く動揺していないみたいだ。

 

こうして見上げていると、本当に、自分と男には、力の差があるように感じる。

 

絶対的に、男が強いように……。

「あ……」

「自分の立場が分かってないんじゃねーの?

 アンタは、今、俺の足で踏み付けられてるんだぜ。ほらほらほら」

「いた……いた……」

男が、グリグリと足を頬に擦りつけてきた。

臭い。独特の体臭が、足からにおってくる。

「しかも、生意気にも、斬りつけてきてくれて。

 これじゃあ、しばらく、試合には出られないな。どうしてくれんだよ…」

傷口は、本当に浅かったみたいで。もう、血は止まっている。

少し、刃がかすめた程度みたいだ。

「仕返しに、アンタの手、切ってやろうか」

「ひぃっ………」

踏み付けられたまま、右手だけが掴み挙げられた。

 

「ひぃぃ……や……やめて……」

本当に切られるかもしけない。

背筋を、ゾッと悪寒が走った。

 

同時に、身体がビクンッと緊張して。

「あ……」

下半身が、生暖かい感触に包まれていく。

「う……あ……」

 

一瞬、本当に切られると思ったから、身体がブルッと震えてしまって……。

「うわ…なんだよ、アンタ、漏らしてんの?

 冗談だよ、マジで切るわけないだろ…。俺、ヘンタイじゃねーし…」

「あ………あ………」

止めたいのに。勝手に尿がズボンの中に溢れていく。

掴んでいた手を離されて、一瞬、ホッと身体から力が抜けた。

 

「どうせするなら、もっと楽しいことの方がいいしな…そうだ……」

男が、逸樹のネクタイを引っ張って、首からほどいた。

「おしっこ漏らして気持ち悪いだろう。ズボンとパンツ、脱げよ」

男の足が、ようやく顔から離れた。

床に手をついて、上半身を起こす。

「う……」

たしかに。

バンツの中に、おしっこがたまっているみたいで、気持ち悪い。たぷたぷとしていて。

 

でも、この男の前でぬいで、下半身をさらけだしてしまうのには抵抗がある。

 

「さっさとしろよ!!

「ひ……」

気がつくと、ガンッと男の足で顔を蹴られていた。

身体が吹っ飛んで、また、床に頭を打ち付けてしまう。

「あ……う……うん……」

「「うん」じゃねーだろ。「はい」だろ?

「ひ……は……はい……」

力では、この男に絶対的にかなわない…。

しかも、唯一の武器である包丁まで取られてしまって…。

どうなるのか。

どうして、こんな事になったのか…。

 

自分が悪いんじゃない。

この男が、勝手に逸樹の家に上がってきて、乱暴に振る舞っているだけで…。

 

「は……はい……」

でも、怖い。

学生時代に虐められていたことが。よみがえってくる。

強いモノには、言うとおりにしていないと。

絶対にかなわない。

 

震える指で、なんとかベルトを外して。座ったまま、スーツとパンツを一緒に引きずり降ろした。

「あ……」

パンツの中にたまっていた尿が。畳の上に広がっていく。

黄色い水たまりに、「自分がおしっこをもらした」という事が再認識されて…。恥ずかしい…。

男にちょっと脅されただけで、おしっこをもらしてしまった。

足をズボンとパンツから引き抜くと、下半身は、靴下だけになってしまう。

 

チンチンと尻が剥き出しになって。

心細い…。

「なんだよ、顔が赤いな。恥ずかしいの? アンタ?

尿が…。畳に吸い込まれていっている。

「………」

当たり前だろう。

こんな、見知らぬ人の前で下半身を剥き出しにされて。おしっこまで漏らして。

恥ずかしくない訳がない。

「面白いな」

男の顔が、ニタリとゆがんだ。

 

背筋をゾッと悪寒が走る。

 

「そうだ。じゃあ、斬りつけたお詫びに、俺のチンチンでも舐めて貰おうかな…」

「え……」

言葉の意味が、一瞬、よく分からなかった。男を見上げると…。

「ひっ……」

男が、ジャージとパンツをずらして、ぐにゃっとしているペニスを剥き出しにした。

「ほら、舐めろよ。犬の事、大家に黙っていて欲しいだろ」

「あ……」

目の前に。ペニスが突きつけられる。

「ひ……」

前髪を掴まれて、顔に男のペニスを擦りつけられた。

生臭くて。グニャグニャした感触が気持ち悪くて。吐き気がこみ上げてくる。

「口をあけて…。ほら……」

「うぐっ……うぅぅ……」

指で唇が開かれて。強引に、口の中にペニスが入ってきた。

「うぅぅぅ……」

息苦しい。

口の中いっぱいに性器が入っていて。

 

どうして、こんな事になってしまったのか。

自分が、犬の足をきるようなヘンタイだから。天罰が下ったんだろうか。

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