隣人2

アパートに引っ越してきて、一週間が経った。

左隣の隣人が自慰をしている光景を見てしまって以来。とても気になっては居たけれど、私も、転勤してきたばかりで、仕事が忙しくて。

アパートには、眠りに変えるだけのような生活が続いていた。

 

それでも、ふと、時間が空いたときなどは、頭の中に、隣人の自慰をしていた光景が浮かんでしまったりはしていた。

気にはなっていたのだ。

ただ、自分で、そのことを気づきたくなくて。仕事のせいにして、気にならない振りをしていた。

 

だから、最初、左の部屋でガタンと音がしたとき面、気づかないふりをしようか、どうしようか。とても悩んだ。

 

この一週間。

実の事をいえば、何度か壁の穴を埋めている粘土を引っ張り出して、隣室を覗いてみた事がある。

でも、何度覗いてみても、最初にみたときのような光景には出くわさなかった。

いつも、青年はこちらに背を向けて、横たわっているだけ。

 

いつみても、全く同じ光景で。この青年は生きて居るんだろうか。

ただの、絵画みたいな光景だな…と思っていた。

 

その隣室から、音がしているのだ。

何が起こっているのだろうか。

私は、チラリと穴のある壁の方に視線を移した。

 

気になりだすと、とめることが出来ない。

頭の中で、色々な想像が、浮かんでは、波のように押し寄せてくる。

 

ちょっと。

ちょっと見るだけ。

もしも、何か、事故などがおこっていてはいけないから。

 

私はテレビを消して、ズズッと音をたてて、すすけた畳の上を、壁の方へと移動した。

いつもと同じように、粘土を指でつついて、引っ張り出す。

そこには、真っ黒い穴が、ぽっかりと口を開けている。

 

私を、異世界に誘う穴のように見える。

ゴクリと口の中にたまったツバを嚥下して。ゆっくりと穴に顔を近づけた。

 

最初は白くまぶしい光が入ってくる。

そうしているうちに、目が慣れてくる。

 

また、いつもの青年の後ろ姿が見えるだけだろうか…と思っていたけれど。

最初に目に飛び込んできたのは、この前の青年とは違った男だった。

 

私よりも、背が高そうで、がっちりとした体格をしている。ネクタイにスーツ姿で、部屋の中央に立っている。スーツは、壁越しにパッと見ただけでも、あつらえがいい物だと分かる。

私が着ている、吊るしのスーツなどとは桁が違うだろう。

しかも、男は、そのスーツを着るだけにふさわしい、威厳なようなものがあった。

 

この男は誰だろうか。

 

年は、私と同じか、少し上くらいに見える。

一目見ただけで、成功している者だと言うことが分かる。全体的に、雰囲気に余裕があるのだ。

特に、私のように、セコセコと慎ましい給料で働いていると、高級取りの人間独特の雰囲気というのに、敏感になってしまう。

 

男は、明らかに、この、安陳腐なアパートにはふさわしくない。

 

「あ……」

どうして、こんな男が、隣室の中央に立っているのだろうか。

視線をゆっくりと足下に移動させて、ようやく、さっきの物音の正体が分かった。

男の足下に、先日の青年が、倒れ込んでいる。

青年は、男の方を向いているから、後頭部しか見えないけれど。右手で、自分の右頭部を押さえて、しゃがみ込んでいる。

 

男の左手には、懐中電灯が握られていた。それで、青年を殴って。青年が床に倒れ込んだときに、「ガタン」という音がしたらしい。

私は、動いている青年を見て、隣室の青年は、本当に生きていたんだ…という事を実感した。

こちらに背を向けてはいるけれど。

 

青年はゆっくりと身体を起こして、畳の上にぺたんと座った。

男の口が動いて、何か、言葉を話しているのがボソボソと聞こえる。

何を言って居るんだろうか。セリフが聞こえない映画を見ているようで、もどかしい。

青年の親族だろうか…。

週に何度か来ている、と言っていた。

でも、普通、介護のために来るといえば、女性と決まっている。それに、こんな夜じゃなくて、昼間に来るだろう。

 

あんな、どこから見ても成功したビジネスマンには、介護はふさわしくない。

 

いったい、どういう関係なんだろうか…。

 

じっと見ていると、青年が、白い手で男のスーツのズボンを握りしめた。

そうして、男の身体に身体をすり寄せるようにして、床の上に、膝立ちで這い上がった。ぴったりと男の足に、青年は自分の身体を押しつけて居るみたいだ。

男は、また、2・3語何か言って、身体を移動させた。

 

そうしたら、ちょうど、私の視界の中で、男が少し移動した。

おかげで、青年と男が密着している様を横から見るようになって。

青年の表情が、私にもくっきりと見えるようになった。

 

青年は、顔を赤くしていた。

先日、自慰をしていた時の顔を思い出す。

 

青年は、どうして、この男の足に、しがみついているのだろうか。

大の大人が2人で、何をしているのだろう…。

 

私は、想像もつかなかった。

友達が少ないから…というのもあるのかも知れないが。

男同士、こうして、戯れたりする物なのだろうか…。

 

そうしていると、膝立ちの青年が、男のスーツの前ボタンを開けて、ベルトに手をかけた。

カチャカチャとベルトの金具を外す音が聞こえてくるような気がする。

話し声でさえも、はっきりとは聞き取れないくらいなのだから。ベルトを外す音なんて、聞こえるわけがない。頭の中で模造している音だ、という事は分かる。

でも、確実に聞こえる気がした。

 

青年は、馴れた手つきだった。

器用にベルトを外して、男のズボンのボタンを外していく。

男の方は、無表情だった。時折、ボソボソと低音の言葉が響くぐらいで。青年がしていることを、見下ろしている。

 

私は、ゴクリとツバを飲み込んだ。

青年が男のズボンの前を完全に開けて、中から、ペニスを取りだしたから、だ。

 

男同士で、そういう趣味がある者が居ることは知っている。

 

ただ、こんなにも身近に。しかも、そういうシーンを見るのは初めてだった。

 

今までは、男同士でそういう事をするのは、「気持ち悪い」と思っていた。でも、今、こうして、眼前にしてみると。

想像していたのよりも、ずっと、興味惹かれる物である。

もしくは、あの青年が特殊なのかも知れない。

 

だって、あんなにも美しい青年は、他には居ないから。

 

「あぁ……」

青年が取りだした、男のペニスは、すでに半勃ち状態にある。

高級なスーツ生地の下に、あんなにもかたくなったペニスを押し隠していただなんて。

 

どうするんだろうか。

じっと見ていると、青年が、舌を口から伸ばして、男の性器の先端をつついた。

男の太腿にぎゅっとすがりついて。嬉しそうに男のペニスに舌を這わせている。

 

「な………」

俺は、光景があまりにも異常で、一瞬、視界が「パッ」と白く点滅した。

 

いったん、壁の穴から、顔を離した。

まさか、あんな事をしているだなんて…。

男同士なのに。しかも、性器を、あんなにも嬉しそうな顔をして、舐めるだなんて……。

 

まさか、あんな光景が見られるとは思わなかったから、覗いてみていただけなのに。

 

たまらにない罪悪感が押し寄せてきた。

 

と、同時に、隣室から、衣擦れの音。舐める舌の音がしてくるような気がした。

 

私の部屋中に、あの男と青年の行為の音が響いている気がする。

ピチャピチャと舌を突きだして、ペニスを舐める音が。

私が見ていても、見ていなくても。隣室で行われることは一緒なのだ。私のせいで、隣室でああいうことが起こっているわけではない。

 

そう考えると、このまま本能に背いて、覗かないで居ることは、きっと、後から激しい後悔を産みそうに感じた。

きっと、後で後悔する。

 

ここから、こうして覗いていることは、誰も知らないんだ。

だったら、何も罪じゃない……。

 

俺は、そっと壁の穴に、再び顔を寄せてみた。

 

穴から覗くと、さっきよりも、2人がこちらに近づいているような気がする。

想像していたよりも、大きく、よく見える。

 

男のペニスは、先ほどよりも大きく完全に天を仰いでいた。

青年は、男の太腿部分のズボンをぎゅっと白い指で握っている。

五本の白い指が、力を入れて広がっている光景は、なんだか、両生類の手を想像させて、ひどく艶めかしい。

そうして、舌を差しだして、男のペニスに舌を這わせている。

 

「あぁ……あぁ……」

青年は顔の角度を色々と変えて、ペニスを舐めている。

時には、横側をズッと先端まで舌を這わせたり。

先っぽの尿道口に舌の先端をつつき入れてみたり。

身体を伸び上がらせて、上側を赤い舌で、じっくりと舐めてみたり。

 

見ているだけで、自分が舐められているような気がしてくる。

 

しかも、青年は、たまらなく嬉しそうに、恍惚とした表情を浮かべている。

私は、今まで、あんな恍惚とした表情の人間をしらなかった。

 

安っぽいグラビアやAVが、どんなに嘘だったのか。

今までの自分の性体験がどんなに薄っぺらな物だったのか。

一瞬にして悟ってしまった。

 

本当の快感を感じている者というのは、ああいう顔をするのか…。

 

自我を完全に放棄して、頬はゆるみ、目は垂れている。

笑みを浮かべて、口角をあげた口元は、だらしなく唾液を垂れ流している。

 

舐めるという行為に全神経を没頭させて、すがるように口を動かしている。

「あ……」

そうして見ていると、なんだか、私まで舐められているような気がしてきた。

 

青年が舌を必死に這わせているのは、私の性器と考えたら…。

双球から、先端まで、じっくりと舌を這わせていく濡れた感触が股間にしている気がする。

青年が大きく口をあけて、ペニスを横からくわえている。

息を詰めて、「ズッズッ」という音をたてて吸っている。

 

「あぁ……あぁ……」

私は、パンツの中の性器が硬くなっていくのが窮屈で。ジャージを脱ぐ間ももどかしく、膝からズリ下ろさせた。

あの男と同じ。完全に屹立した性器が、股間で天を仰いでいる。

 

男が、再び、2・3語ボソボソと呟いた。

青年が一瞬からだを止めて。

 

それから、口を大きく開けた。

視界の中。

青年の顔の中央で、ぽっかりと大きく開いた口が、まるで、快楽浄土への入り口のように見えた。

その穴が、ペニス全体を包み込んでくる。

「あ……あぁ……いぃ……」

俺は、ペニスをギュッと握った。

先端から、先走りの液がにじみ出してくる。

 

俺のペニスも、あの青年の「口」という穴に包み込まれている気がする。

朱色の唇が、俺のペニスを、どんどんと奥までくわえていく。

「いぃ……いぃ……」

俺は、両手でペニスを握って、腰を揺らした。

 

視界の中の男は、俺よりも余裕があるようで、ペニスをくわえている青年の髪の毛を、戯れに撫でたりしている。

そのたびに、青年の身体が、ビクンと跳ねて、唇がきゅっと窄まる。

 

あの唇の本当の感触は、どんなだろうか…。

あの整った顔をゆがめるくらいに喉の奥まで、ペニスを突っ込んで。

おもいきり、喉奥にペニスを打ち付けたい。

「あ……あぁ……そんな……」

男が、青年の両耳をつかんだ。

そうして、青年の頭がオモチャか何かのように、激しく揺すり始めた。

青年は苦しそうに顔をゆがめている。

 

そりゃあ、男の屹立したペニスなんて太いモノをくわえさせられて。

両耳をつかんで、頭を激しく前後に揺すられたりしたら。相当苦しいだろう。

喉奥を、ペニスの先端がつついて、きっと、吐き気が迫り上がってくるに違いない。

 

「あぁ……」

でも、ペニスの先端が喉奥に突き刺さる感触は、どんなにきもちいいだろうか。

 

口の中の濡れた感触はペニスに、どんな風に絡みつくだろう。

「ぐぅ……ぐ……うぐ……」

青年の唇から、苦しげな息が音をたててはき出ている。

聞こえる気がする。

青年の頭が、今、自分の股間にあるような気がする。

「あぁ……」

苦しみにゆがんだ青年の顔をじっくりと見ていて。

私は、我慢が出来なかった。

限界まで硬くなった性器を、思い切り力を込めて握る。

「あ……あっ……い…イクっ……」

身体が、ビクビクッと震えて。

ペニスの先端から、粘液が放出された。

壁に身体を密着させていたせいで、くすんだ壁紙の上にも、精液がねっとりと貼り付いている。

「あ……あ……」

私は、快感に頭の中が白くはじけた。

壁に手をついたまま、身体がズルズルと壁にそうようにしてずり落ちる。

「あぁ……はぁ……」

快感の余韻で、身体にうまく力がはいらない。

手のひらを見ると、べっとりと精液が手のひら一面に付いていた。

 

男同士のフェラチオを見ていて、イッてしまうだなんて…。

頭の中が混乱してくる。

いったい、何が良かったのだろう…。

 

壁のぽっかりと黒い穴が、こちらを見つめているようだ。

 

「さぁ、見ろ」と誘っているように見える。

 

ゴクリと私はツバを飲んで、汗ではりついた髪の毛をかき上げた。

隣室の光景に集中しすぎていて。自分がこんなにも汗をかいていただなんて、気づかなかった。

 

私が、こうして覗いていない間にも、隣室では、男同士「行為」がなされているに違いない。

どうなっているだろうか。

男も、青年の口の中に、精液を放出したのだろうか。

それとも、もっと、別な行為をしているのだろうか。

 

シンとした部屋の中で、耳を澄ましていると。

ズッズッと衣擦れの音がするような気がしてくる。

 

気になって、気になって、たまらない…。

「あぁ……」

私は、息を吐いて、再び、壁の穴に顔を寄せた。

 

小さな丸い穴の中で、青年は、もう、男のペニスを舐めてはいなかった。

 

衣擦れの音は、青年が立ち上がって、ジャージとパンツを脱いだ音だったのか…。

青年は、白い下半身を剥き出しにして、上衣のTシャツだけの姿になっている。

 

ゴクリとツバを飲み込んだ。

青年の白い下半身の中央のペニスは、硬くなって勃ちあがっている。

これから、何が起きるのだろうか…。

青年の性器は、先日見たときとかわりなく。色気があって、扇情的だ。

何が、そんなに魅力的なのか分からないけれど。

見ていると、たまらなく、背筋を興奮する感触が這い上がっていく。

 

そうしているうちに、青年が、こちらの方に顔を向けて、四つん這いの姿勢になった。

青年の顔が、よく見える。

 

薄い壁一枚を隔てて、青年と対峙しているのだ、と思うと、どうしようもなく、ワクワクしてきた。

こうして、覗いていることはばれないだろう。

くすんで、あちこちにシミができた壁の、ぽっかり黒い穴の一部、なんて、目がいかないだろう。

特に、この青年は、今、たまらなく興奮しているのだ。

 

目は開いているけれど、何も、光景を映していないに違いない。

目尻が垂れて、だらりと、自我が放出されたような顔をしている。

 

「さぁ、入れてやろうか…」

男の声が、はっきりと聞こえた。

否、口の動きで、そう読み取ったのかも知れない。

 

男は、四つん這いの青年の背後に立っている。

手には、整髪剤のジェルのような容器を持っている。

 

男が、ニヤリと口角をあげた。

「あ……」

そうして、四つん這いの青年の、尻のあたりに容器を押しつけて、思い切り絞り出した。

「あ……うわ……」

きっと、ケツの穴にジェルを大量に搾り入れたに違いない。

 

青年の顔が苦しそうにゆがんだ。眉を寄せて、唇を必死で噛んでいる。

大きな声を上げそうになっているのを、我慢しているようだ。

「ひ……あ……」

でも、壁越しに、青年の声が聞こえてきた気がする。

後孔に、ジェルを大量に入れられるというのは、どういう感触だろうか。

 

きっと、苦しいに違いない。

だって、座薬を入れるときでさえも、あんなにも苦しいんだから。

 

「………」

でも、どうして、ジェルを入れたりするのか。

その理由を想像して、ゴクリと俺はツバを飲み込んだ。

 

ジェルを入れるのは、滑りを良くするためだ。

何の滑りをよくする為の物か……。

 

私だって、無知じゃない。

これから、男がしようとしていることの想像がつく。

 

そうして見ていると、男の行為は、もどかしいような気がしてくる。

 

さぁ、早く、その行為を見せてくれ…といいたい。

ストップモーションのようで、気が急いてしまう。

 

俺は、ぎゅっとペニスを握った。

股間で、また、ジワリジワリと熱くなってきている。

 

男が、青年の肛門に、ペニスを押し当てた。

「あ……あぁ……」

青年が、苦しそうに声をあげた。この声は、くっきりと聞こえた。薄い壁を通して、はっきりと耳に響いてきた。

快感に濡れて、じっとりと身体に絡みつくような声。

先日、自慰をしていた時の青年の声よりも、重みを増した声な気がする。

耳に、ズシンと響いてくる。

「う……あ……入れて……」

青年の声と同時に、男が、青年の腰をつかんで、グイと身体を押しつけた。

「あ……」

青年の顔が苦しそうにゆがんで。一瞬、俺も、自分のペニスを握って、声を上げてしまった。

苦しそうな表情から、青年の後孔に男のペニスのすべてが入ったのだと言うことが想像できる。

青年の苦しみと、快感がない交ぜになっている表情は、あまりにも扇情的で、もっとそばでじっくりと見たい気がする。

額を流れる汗を、この指でぬぐいたい。

額に貼り付いている前髪に、指を絡めたら、どんな感触だろうか…。

 

そうして、あの男のように、この青年の後孔にペニスを入れたら、どんな感触だろう…。

青年の表情は、よく見えるのだけれど、結合部はよく見えない。

ただ、男の腰が、確実に青年の股間に押しつけられていて、ペニスが2人を繋いでいることだけは、分かる。

 

もっと間近で、見てみたい…。

青年の後孔は、どんな風にペニスをくわえているのか。

そもそも、人の後孔というものを、じっくりと見たことがないから、頭の中の想像だけれど。きっと、青年のアナルは、限界まで開いて、男のペニスを受け入れているに違いない。

充血して、真っ赤になっているだろうか。

 

男が、後背位で結合している身体を少し離して、青年の後孔の粘膜をじっくりと眺めた。

そうして、2・3語、ボソボソと何かを呟いた。

 

きっと、卑猥で淫靡な事を言って、からかったのだろう。

青年の苦しそうにゆがんでいた顔が、一瞬にして赤みを増した。

そうして、否定するように、何度か首を振る。

 

それでも、男の、その嘲りは青年を、より興奮させたようだ。

青年の股間部分のペニスが、ビクンッと震えて、先端が、テカテカと先走りの液で濡れてきはじめている。

赤黒くて、ちょうど私の手のひらに収まりそうな性器。

そのどこに興奮する部分があるのか分からないけれど。

こうして見ていると、再び、私の身体も熱くなってくる。

「あ……あぁぁ……」

男が、青年の腰をつかんで、ゆっくりと身体を動かした。

腰をゆっくりと離しては、激しく突き上げる。

数度繰り返すと、青年の顔はしだいにゆがみ始めていく。唇から垂れ流れた唾液は、畳の上に水たまりを作っている。

瞳も焦点が合っていなくて、ただ、男と結合している股間の感覚にだけ、すべてをゆだねているのが、よく分かる。

「あ……いぃ……」

青年が、男の動きに合わせて、青年も、ゆっくりと腰を動かしている。

完全に快楽に飲まれている者の顔というのは、本当にだらしがなくて、締まりのないものなんだな…。

美しく整った顔の、名残がどんどんと消えていく。

あんな顔の、どこがいいのか分からない。

 

ただ、その表情が、なんだか私に向けられているようで、背筋がビリビリとするくらいに興奮してくる。

なぜなら、男とは後背位で結合しているから、今、この青年の、快楽にゆがんでいる顔を見ているのは、私だけなのだ。

「あぁ……」

そう考えると、まるで、この青年とセックスをしているのは、自分みたいな気がしてくる。

 

この青年の、こんな顔を見ているのは、私だけ。

「あ……あ……」

たまらなくて、私は、再び自分のペニスに指を絡めた。

先ほどイッたばかりなのに。

手のひらの中で、また、硬くなっていっている。

 

青年の表情に、酔いしれた。

苦しそうに寄せている眉に。

中途半端に開いている、赤い唇に。

 

その穴に、全神経を集中させた。

青年を突き動かしている、の動きが、どんどんと激しくなってくる。

それに吊られて、せっぱ詰まるように、青年の表情も、どんどんとゆがんでいく。

男が、激しく腰を打ち付けながら、青年の股間に手を伸ばして、性器の根本をギュッと握った。

 

「あ……」

男の動きが、不意に、ピタリと止まった。

見ると、男も何かに耐えるように、眉を寄せて、硬く目を閉じている。

 

「あぁ……あつ……あ…」

一時停止の画面のように、数秒、男は止まっていた。

青年も、後孔の感触に酔いしれるように、強く手を握りしめて息を詰めている。

 

男がイッたのだ…。

見ていれば、分かる。男の表情に、快楽をむさぼった後の充足感が浮かんでいる。

ボソボソと男の低い声が響いて、男が、ゆっくりと青年から身体を離した。

 

青年の股間のペニスは、勃起したままだ。

男が、ペニスの根本を戒めていたから、イク事が出来なかったみたいだ。

青年は、苦しそうに。かつ、恥ずかしそうにもじもじと股間を男の視線から隠そうとしている。

 

男は、青年から身体を離して、ズボンとパンツを引き上げた。ベルトをとめると、さっきまでの淫行が嘘のように、普通のビジネスマンに見える。

ただ、青年だけが、勃起したペニスも、赤く、緩んでいる後孔もさらけ出して、すすけた畳のうえで這いつくばっている。

 

何を、するんだろうか。

このまま、男は帰ってしまうんだろうか。それでは、快楽の途中で放り出された青年が、あまりにも可哀想だ。

出来ることならば、自分が行って、なぎさめてやりたいくらいだ。

 

私は、男が身支度をととのえたから、てっきり帰るものだと思った。

でも、どうやら、違ったらしい。

 

ボソボソと声が響いて、男は、私の視界外から、椅子を引っ張ってきて、青年の前で座った。どこの会社にでもありそうな、回転椅子だ。

ガランとした部屋だと思っていたけれど。

私の視界外にも、物はあるらしい。

 

男は、椅子に座って、四つん這いに這っている青年の、ほぼ真正面に来た。

 

私の青年への視線を遮らない位置に椅子を据えてくれて、助かった。

見えなくなってしまっては、こんな中途半端な状態では。私だって、欲求不満になってしまう。

 

さぁ、何が始まるんだろうか…。

 

言葉では言い表しがたい高揚感が、身体を包んでくる。

ワクワクしている。

 

男は、さっき手に持っていた懐中電灯を、青年に差しだした。

どこの家庭にでもありそうな懐中電灯だ。

私のこぶし大程度の太さで、持手の部分が、真っ赤。

そうして、ボソボソと何かをささやいた。

 

青年は、慌てたように首を振り、哀願するような目で、男を見つめている。

男は、余裕の笑みを浮かべて、青年にズイと懐中電灯をおしすすめた。

それでも、青年は首を振って、受け取らない。

 

押し問答になっているようだ。青年は、否定して、男は強制している。

それでも、男の方が圧倒的に有利なようだった。

数回懐中電灯の押し付け合いをしていて…。

「あっ!!

思わず、私は声を上げてしまった。

男が、不意に、青年が押し返した懐中電灯を手に取って、青年の額めがけて振り落としたからだ。

おもわず、のぞき見している、という事を忘れてしまった。

自分の声が、隣室の2人に聞こえたのではないだろうか…と一瞬心配したけれど。

男が、青年に振り落とした懐中電灯が、額にゴンッと音をたててあたる男の方が大きくて。

2人は、私の声など、全く聞こえていないようだった。

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