隣人2

それよりも、視界の中。懐中電灯で殴られた青年の身体が、ゆっくりと畳の上に倒れていった。

一瞬、死んでしまったのか…と思った。

それほどに、男の殴る仕草は容赦がなくて、思い切りだった。

 

ゆっくりと倒れる青年の股間は、すっかり萎えていた。

それでも、後孔に注ぎ込まれたジェルは、足の間からしたたり落ちて、畳を汚していた。

 

私は、焦った。

青年が死んでしまっていては、これは、殺人現場だ。

そんな物を見てしまっただなんて。

どうしようか…。

ただ、壁の穴から、顔が離せないでいた。

 

私の心配なぞよそに、笑い声が聞こえた。

 

男は懐中電灯をもって、おかしそうに、ゲラゲラと笑っている。

そうして、倒れ込んでいる青年の腹部を、椅子に座ったまま、蹴り上げた。

「うぐ………」

青年のうめき声が響く。

声を聞いて、「生きて居るんだ」ということに、安心した。

男は、再び、青年の。今度は、顔の部分を足で畳に踏み付けた。

白い顔が、男の黒いソックスをはいている足で踏み付けられている。

「起きろよ、メス豚」

はっきりと、男の声が聞こえた。

「う……」

青年の顔を、グリグリと踏み付けてから、男は、足を退けた。

 

一瞬、言葉の意味がよく分からなくて、頭が混乱したが。

メス豚というのは、青年の事を言っているのだろうか。

 

こんなにも美しい青年を、そんな醜い言葉で表現するのは、間違っている気がする。

 

青年が、這いつくばるように、ゆらりと身体を起こした。

懐中電灯で打たれた部分を、手で押さえている。

若干、血が出ているらしい。

それと、先ほどまでとは、瞳が違った。

真っ黒で、ぽっかりと空いた穴のようだった。何の意思もくみ取れない。

 

瞳には、あきらめと、目の前の男への恐怖が貼り付いているように見えた。

 

殴るところなどを見てしまったから、そう見えたのかも知れないが…。

男は、再び、懐中電灯を差しだした。

青年は、もう、首を振ることはなかった。

だまって、意思のない眼で、懐中電灯を、左手で受け取っている。

 

そうして、男の前に、膝立ちになって、先ほど、男が、青年の後孔に押し入れたジェルのチューブを掴みあげた。

受け取った懐中電灯の持ち手の部分に、青年はジェルを塗りたくっている。

 

いったい、何をしているのか。

 

青年の額に滲んでいる血が、なんだか艶めかしい。

 

何が起きるのか分からずに、じっと青年の行為を見ていた。

少しでも、見逃しては、もったいないような気がして。

 

そうしているうちに、懐中電灯の持ち手の部分が、ジェルでぼとぼとになった。

「しろよ」

男の低い声が響く。

青年は、一瞬、惑うように視線を泳がせてから。

諦めて、息を吐いた。

 

じっと、見ているしかなかった。

 

青年は、膝立ちにの状態で、足を肩幅に開いた。

そうして、手に持っている懐中電灯を、股間に押しつけた。

 

否。後孔に、グリグリと押し込むようにして、懐中電灯をねじ込もうとしているのだ。

「な……」

拳大ほどの太さのある懐中電灯だ。

 

普通で考えたら、あんなモノが、後孔に入るはずがない。

「あ……う……」

でも、視界の中の青年は苦しそうに息を吐きながら。

確実に、懐中電灯を後孔に挿入していって居るようだ。

なぜならば、ジワリジワリと懐中電灯の、股間から見えている柄の部分が短くなって行っている。

それに、グチュグチュと触れた物同士が混じり合う音が響いている。

 

思わず、私も、ツバを飲み込んだ。

本当に、あんなにも太いモノが、後孔にはいるんだろうか…。

 

後孔は、どんな風になっているのだろうか。

襞が限界まで開いて、真っ赤になっているに違いない。

真っ赤な粘膜が、赤くて濡れている懐中電灯を飲み込んでいる様子が、頭に浮かんでくる。

「あ……い…いたい……」

視界の中で、青年が顔をゆがめて、涙を流した。

半分程度、懐中電灯がはいっているのだろうか。

最初よりも、確実に、懐中電灯は短くなっている。

 

青年の後孔が、どんな風になっているのか、見てみたい…。

異物を飲み込んでいる粘膜を、じっくりと観察してみたい。

濡れた粘膜を、私の、この指で触ってみたい。

 

男が、たまらなく羨ましかった。

あの椅子に座っているのが、私だったらば…。どんなによかったか。

 

青年が、「もう限界」と言うように、男を見上げて首を振った。

男は、堪忍しないらしい。

でも、青年も、必死の哀願をしている。

股間に手をあてて、おちそうになる懐中電灯を、必死に後孔に割り入れたまま。

涙を流して、許しを請うように、男を見つめている。

 

青年の身体は、ビクビクと何度か痙攣した。

飲み込んでいる異物が大きすぎて。身体が妙な風になっているようだ。

一瞬、自我を離して快楽に飲まれる事が数度あるようだった。

その瞬間の、快楽に酔った眼が。また、こちらを誘うようで。

思い切り、めちゃくちゃにしてやりたくなってくる。

「あ……」

私も、青年の股間の様子を思い浮かべていると、ペニスがどんどんと硬くなってくる。

「懐中電灯を入れている男」なんて、異常なだけなのに。

この青年の股間に、それが入っている…と考えると。どうしてだか、興奮して、頭と股間に血液が集まってくる。

 

ガタンと音をたてて、不意に、男が座ったまま、青年の腹部を蹴り上げた。

「う……」

ドサリと音をたてて、青年が、苦しそうに床の上に身体を倒す。

男が、青年に何か言う声がボソボソと聞こえた。

 

男の言葉に、青年は戸惑っていたようだったけれど…。

赤い顔を数度横に振ってから、畳に手を置いて、自分の体制を立て直した。

 

恥ずかしそうに、顔を伏せて、仰向けに横たわる。

そうして、自分の両膝を、両手でつかんだ。

身体を半分に折って、男の方に向けて、大きく足を開いた。

まるで、オムツでも交換して貰う赤子のような格好だ。

でも、この姿勢だと、青年の股間から、後孔までのすべてが、よく見える。

 

男が指示した体制なのだろう。満足そうな笑みを浮かべているのが見える。

そして、私も、また。青年のこの姿勢に、身体の奥から燃え上がるように興奮した。

 

青年の後孔に、懐中電灯が少しだけ入っているのがよく見える。

粘膜が限界まで開いて、赤く充血している。裂けて、血が、少し出ているのかも知れない。

すっかり縮こまってしまっているペニスが、股間で小さくなっているのも。

 

男は、笑みを浮かべたまま、青年の後孔の懐中電灯に、足で触れた。

「あ……」

双球に足の先端をを置いて、カカトで、懐中電灯を押して、青年の股間に押し入れて行っている。

青年の身体が、ビクビクと痙攣するのが見えた。

膝をつかんでいる手に、力が入っているようで、指先がまっ白になっている。

 

男は、懐中電灯を押し入れる足を止めた。

ちょうど、3分の2程度が、後孔に入ってしまっている。

後孔から出ている、ランプ部分が、ジェルで濡れそぼっている。

 

男は一旦股間から足を離して、今度は、青年の縮こまったペニスを踏み出した。

「あ……あ……」

男が、足を動かして、ペニスを滅茶苦茶に踏み付けている。

双球をグリグリと踵でえぐり。指先で、竿部分を下腹部に擦りつけている。

 

異様な光景だった。

椅子に座っているスーツ姿の男が、下半身裸の青年のペニスを、足で踏み付けているのだ。

そうして、その青年のケツの穴は、懐中電灯が突き刺さっている。

 

あんなにも、ギュウギュウと踏み付けられては、苦しいに違いない…。そうおもうのだけれど。

それだけじゃないらしい。

青年の顔は、確実にゆがんでいった。

 

さっきまでの、懐中電灯を入れられている時の苦痛の顔から。快感を表すモノに。変わっていく。

 

さっき、男のペニスを受け入れていたときの青年の顔に、ジワリジワリと変化していく。

ペニスを踏み付けられるというのは、気持ちいいモノなのだろうか……。

されたこととがないから、想像がつかない。

 

でも、あんな風に、乱暴にグリグリしたら…。

気持ちいいのかな。

双球を思い切り踏み付けて、先端も、下腹部の陰毛に押しつけられて…。

「う……」

私は、両手で、自分の股間をつかんで、目の前の様を模倣しようとしたけれど。

自分の手では、どうしても加減をしてしまうから、きっと、本当に「踏み付けられる」のとは違うに違いない…。

でも、そうして、ペニスを擦っているのは気持ちよかった。

 

青年の股間も、男の足に踏み付けられて、確実に硬くなって、天を仰いでいる。

男の、笑う声が聞こえた。

 

きっと、青年が、男の足で、ペニスを勃たせていることを、笑っているに違いない。

でも、あんな風に、むちゃくちゃに擦られたら…。

気持ちよさそうだけれど…。

 

そうして、男は、一旦勃ちあがっているペニスから足を離して、再び、懐中電灯の方に、足を移動させた。

「う……あう…」

青年が、あえぐ声が聞こえるようだ。

男が懐中電灯を、グイと足の先端で、青年の後孔に押し上げたから。

更に、グイグイと押し上げていく。

でも、青年のペニスは、完全に勃起したまま、フルフルと震えた。

先端からも、プクプクと先走りの液がにじみ出てきているようだ。

 

ジワリジワリと入っていく懐中電灯に。確実に、青年のペニスが反応している。

 

あんな大きなモノを入れて…。

想像ができない。どういう感触なのか。

ケツの穴に、あんなモノが入るだなんて。

 

男は股間からゆっくりと降ろして、長い足を組んだ。

そうして、再び、ボソボソと青年に何かささやいたらしい。

 

青年は、視線を逸らしていたけれど。

男の言葉を、許容したらしい。

自分でつかんでいた膝裏から、手を離した。

 

そうして、少し惑うように首を動かしてから、床に手をついて身体を起こして。

畳の上に、ウンコ座りの姿勢で、しゃがんだ。

その姿勢のまま、後孔に突き刺さっている懐中電灯に手を伸ばした。

 

「あ……あ……」

青年の大きく開けた口から、濡れたあえぎ声が漏れている。

両手で、懐中電灯の柄をつかんで、ゆっくりと動かし始めた。

 

グチュグチュと、濡れた音が聞こえてきそうな程。たっぷりのジェルで股間も、懐中電灯も濡れている。

それが、青年の赤い粘膜を擦り上げているのだ。

懐中電灯を引き出すと、赤い粘膜が後孔から引きずり出され。

押し上げると、襞がきゅっとすぼんで、双丘が懐中電灯を締めつける。

青年は、ペニスに触れるのは禁止されているらしい。

必死で、懐中電灯を動かして、襞を擦り上げられる感触に酔っている。

 

「あ……あぁ……」

見ているだけで、私も興奮してきた。

股間のペニスが、痛いほどにいきり立っている。

 

視界の中の、青年のペニスよりも、硬くなっているんじゃないだろうか。

 

「あぁ……イィ……」

青年が、必死に、両手で懐中電灯をつかんで上下している。

両手の隙間から見える。赤いペニスも、フルフルと震えている。

限界が近そうだ。

 

今、目の前に、ウンコ座りで、肛門に懐中電灯を注挿している青年が居る…。

 

そうして、その青年の快感に酔っている表情は、たまらなく美しい…。

「あ……あぁ……」

青年のペニスを見ながら。自分のペニスを握る指がどんどんと早くなっていく。

懐中電灯も、ズチュズチュと激しく動き始める。

 

「あ……イク…」

青年の姿をじっくりと見つめながら。

身体が、ビクンッと一瞬痙攣した。

 

視界の中、青年も、身体を震わせた。

充血して赤いペニスの先端から、白濁とした精液を、放出させている。

同調するように、俺の身体も、ビクビクと震える。

 

「う……あ……」

そうして、快感の波が、頭の先まで覆い尽くすように迫ってくる。

 

「あ……あぁ……」

股間のペニスから、精液が放出された…。

たまらない解放感に、全身が酔っている。

 

「あ……」

壁に手をついて、思わずしゃがみ込んだ。

膝までズリ下ろしていたから、パンツの中に、射精することは免れたけれど。

ティッシュを取る余裕もなくて、手の中に精液を出してしまった。

 

こんな風に興奮してしまうだなんて…。

 

私は、乱暴に両手をティッシュでぬぐった。

 

ベトベトとした感触が、いつまでも残っている気がする。

それに、部屋中に精液のすえた匂いがよどんでいるような気がする。

 

「………」

壁から顔を離すと、一気に現実に引き戻される。

 

あれは、隣室で起きていることで、自分には、何ら関しない事だ。

でも、とても、そうは思えない。

私は、隣室のあの青年に、こんなにも興奮させられて…。

 

再び、黒い穴を覗いてみた。

青年は、ウンコ座りのまま、両手の精液を舌をだして舐めていた。

 

きっと、男に言われたのだろう。

 

赤い舌が、ぺろぺろと指を舐めている仕草は、フェラチオを連想させて、ひどく淫靡な気がする。

自分の精液なんて、どんな味がするのだろうか。

すくなくとも、うまくはないだろう…。

 

それでも、青年は男に言われたから、している。

 

はっきりとした上下関係が、2人の間には、存在しているようだ。

 

青年は、唾液と精液にまみれた手に、必死で舌を這わせている。

懐中電灯も、股間に突き刺さったままだ。

 

男が、ふたたび、ボソボソと何か言った。

青年は、ウンコ座りの姿勢から、四つん這いで這うような姿勢に、身体を動かした。

 

薄暗い股間ばかりを見ていたから。白い尻が、より、鮮やかに見える。

蛍光灯の光を反射して、神々しく光っているように見える。

「あ……」

男が、汚いモノでもつまむように、その尻の間に挟まれていた懐中電灯を指でつまみ上げた。

青年の身体かかすかに震えて、顔が一瞬にして赤くなった。

 

男は、抜き取った懐中電灯を、ボトンと投げ捨てた。

コロコロと畳の上を転がる。そんな卑猥な事に使用されていただなんて。

到底、想像できない気がする。

もし、懐中電灯に、粘液とジェルがついていなければ。

 

青年は、四つん這いの姿勢から、身体を起こして、畳の上にぺたんと座った。

 

赤らんだ目元が、色っぽい。

さっきまでの淫行の名残だ。

 

男は、椅子から立ち上がって、数語、ボソボソとした話し声が聞こえた。

 

一体、この男は、青年の何なのだろうか…。

恋人にしては、ひどくも一方的な気がする。

 

恋人同士の睦み合いというのは、もっと、お互いを思い合う物な気がするし。

世の中には、たしかに、付き従うことに快感を覚える人も居るようだけれど。

でも、この青年と男からは、そういう意味での合意が見られないように思った。

 

もっと、絶対的な上下関係。

青年は、やむを得ずに、男に付き従っているように見える。

 

その原因を知りたい…。

私の興味は、そこへと移っていった。

でも、話し言葉さえも、壁に阻まれて聞こえないのだから、それを知ることはできないのだろうけれど…。

 

男の言葉に、青年は、数度うなずいた。

しゃがんだままで、立ち上がろうとしない。

 

そういえば、足が不自由だ、とか言っていた。

今日、見ていても、青年が立ち上がることは無かった。

 

青年は、しゃがみこんだまま、男を見送ったようだ。

ガタンと隣室のドアを開ける音が、響いた。

 

男が居なくなったのだ。

 

青年は、しばらく畳の上に座ったままじっとしていたけれど。

しばらくすると、脱ぎ捨てたズボンとパンツを引き寄せて、足に通した。

 

その仕草も、座ったままだった。

 

この前、あの女が言っていたとおり。

青年は、本当に、足が不自由なのかもしれない…。

 

私は、青年が、いつもの通りに畳の上に横たわるのを見届けてから、壁から顔を離した。

 

自分でも、自分がこんなにも興奮して仕舞うだなんて、嘘のようだ…。

でも、隣室の青年には、なんともいえない魅力がある。

 

どうしてだか、ひどく引きつけられる。

 

考えずにいよう…考えても仕方がないから…と思っても、青年と男の関係が気になってしまう。

 

私は、壁の穴に、再び粘土を押し入れた。

この穴、一つに、自分の生活が乱されている気がする。

 

でも、見なかったことにはできない。

もう、戻られない何かを感じる。

 

私は、じっと。穴のなくなった壁を見つめた。

 

2012 06 18UP
久しぶりの更新です。すみません。
「隣人」がちょっと好評だったので、続編を書いてみました。
最近、あまり小説を書いていないですね…。なんだか、創作意欲がだいぶと落ちてしまっています。
今年に入ってから、ズルズルだなぁ…と思います。もっと、ガンガン書いていけると良いんですけれど。

読んでくださってありがとうございます。
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