隣人3 | ||||
音が気になる。 ふとした、些細な音も、隣室から響いているのではないだろうか…と思ってしまう。 その度に、壁の穴の粘土をほじくり出して、隣室をこっそりと覗いてみている。 それでも、視界にはいってくる光景は、いつも同じ姿ばかり。 床の上に布団をしいて、横たわっている隣人の背中だけ。 涅槃像を連想させられて、本当に生きているのだろうか…などと考える。でも、そのつど。先日、隣人が男と戯れていた生々しい姿が頭の中に浮かんでくる。 男の性器を後孔に入れられて、うれしそうにあえいでいた姿。 ペニスを口にふくんで、愛おしそうに舐めていた、そのときの表情。 性交というのは、あんなにもグロデスクで、それでいて、美しいものだったろうか。少なくとも、私が今まで経験してきた性交というのとは、レベルから違う気がした。 そう思わせるのは、隣人の、あの表情だろうか。 引っ越してきた日に見た、自慰の姿も美しかった。 あの青年が、特別なのだ。 ただ、そんなことを考えていると、どうしても、私も、股間が熱くなってきてしまう。 他人に比べると、薄っぺらい。自分の性欲を、そんな風に思っていたけれど、そうじゃなかったんだ…と実感させられる。 こうして、青年の寝ている姿を見ていても、頭の中に、先日の光景がフラッシュパックしてきて。ジャージのズボンの中で、ペニスが硬くなってくる。 私は、隣室への穴に顔を擦りつけて、寝ている青年の後ろ姿を見ながら、何度も自慰をした。 そうしているうちに、私の尽きない好奇心は、青年へと集中し始めた。 私は、青年が、どうしてこんな安っぽいアパートに住んでいるのか。訪ねてきて、性交していた男は、この青年のいったい誰なのか。考えてみることにした。 きっと、この青年は、あの訪ねてきていた男の情人なのだろう。 それも、こんな安っぽいアパートに住まわせている、ということは、秘密の愛人に違いない。男は、金を持っていそうだった。少なくとも、表だった愛人に、だったら、もっと金をかけられるに違いない。 それに、男同士だ。このことは、いくら、同性愛がかなり受け入れられる世の中になった、とはいえ、スキャンダラスだろう。男は、会社社長か、重役か。 もしくは、何かの専門職か。 それに、訪れる頻度も少ない。 私が引っ越してきてから、一ヶ月程度がたった。 男は、かならず毎週水曜日の夜に訪れてくる。 そうして、決まったように青年をむさぼって、去っていく。 でも、そうしているうちに、見ているだけでは、私も、我慢が出来なくなってきた。 青年は、壁一枚を隔てた隣室に、横たわっているのだ。 いつでも、手を伸ばして触れられそうな距離じゃないか。 2メートルと離れていない。 それなのに、この、アパートの土壁が、私と青年を隔てているのだ。 青年と男との性交渉を見るたびに。 青年が、たまに自慰をしている姿を見るたびに。 私にだって、青年を犯して良いような気がしてきた。 こうして、覗けるのも、何かの運命のような気がする。 神さまが、私に、この青年を与えたのだ。 神々しい程に、美しい青年を。 だから、私は、密かに計画をした。 この隣室の青年を、犯すことを。 それこそが、運命のような気がしてきた。 準備は、着々と整っていった。 私は、臆病な人間だ。いままで、ずっと、そう思っていた。不甲斐ない大学講師。それも、誰も興味を示さないような、専門分野。 誰も、私には興味を示さない。私も、誰の事を欲することもない。 ただ、私の一生というのは、このつまらない専門分野の、文献のうちの1ページに名前を連ねられたら幸い…程度の人生だった。 でも、この青年を見たときに、私の運命は変わった。 この青年こそが、私が欲していた人間だ。 私は、彼のために、生まれてきた。 だから、ただ、こうして、覗いているばかりではどうしようもない。 私も、彼の運命の中に、名前を連ねたいんだったら、行動に出るしかない。 私が、計画を実行しよう、と決めたのは、木曜日だ。 前日の水曜日は、また、あの男が青年を訪れてきて、濃厚な性交をしたばかりだった。 だから、あの男が訪れてくるリスクはないはずだ。それに、木曜日というのは、水曜の2人の性交を見ていた余韻が、まだ、私の中に残っている。 隣室をのぞき始めてから、私は、決まって木曜日には、何かしら、ミスをすることが多くなってしまった。 前日の、2人の性交を思い出して、ぼうっとしてしまうことが多いからかも知れない。 2人の行為の余韻が残っているうちに。私の中で、「快感」という血がまだ、身体を循環しているうちに。 「よし……」 私は、準備していた物をすべてリュックに詰めた。 色々なシュミレーションをしてみた。 私は、研究者だ。いろいろな方法を模索したり、想定するのは、得意分野だ。 そうして、準備しているうちに、結構な荷物になってしまった。 すべては、隣室の青年を犯すための道具だ。 そう思うと、気持ちが高ぶってきて。頭に血が昇っていく気がした。 時計を見ると、午後九時を指している。 外は、もう真っ暗だ。アパートにも、重たい闇が被さっている。 私は、ベランダへのガラス戸をゆっくりと開けた。そうしてベランダに出ると、Tシャツ一枚では、少しひんやりとする気がしてきた。でも、そんなことは気にならない。 私は、ベランダの柵に足をかけて、身を乗り出した。 手すりによじ登って、隣室との間の壁を、慎重に越えていく。 バランスを失ったら、私の身体は、堅いコンクリートの上に強く打ち付けられて、死んでしまうだろう。 だから、壁を乗り越える時が、一番慎重にならなくてはいけない。 「………」 息を詰めて、身体の重心を動かして、なんとか、壁を乗り越えた。 柵に手をおいて、足をベランダに置いた。 「あ……」 ようやく、隣室のベランダの床に立てたのだ。 高鳴る心臓音を気にしない振りをして、私は、ぎゅっと背負っているリュックの腕に通している部分を握りしめた。 「あぁ……」 このガラス戸の向こうに、青年が横たわっているのだ。 意外な事に、カーテンが引かれて、室内は覗けないようになっていた。 それが、尚更、私の気持ちを高揚させた。 包装されているプレゼントのように。あけるお楽しみがある。 「………」 ベランダのガラス戸に指をかけた。 案の定。鍵はしまっていないらしい。 こんな安陳腐なアパートに、泥棒に入るような者は居ないだろう。 私は、ことさら、ゆっくりとガラス戸を滑らせた。 青年が、その音に気づかないように。 ドキドキした。 それでも、かすかにガラス戸が動く音がする。 キィキィという、その音に、青年は気づいているだろうか…。 生唾が、口の中ににじみ出してきた。 自分が通れるくらいのスペースのガラス戸が開くと同時に、ふわりと冷たい風が、後ろから、背を押すようにふいてきた。あぁ、風までもが、私の味方をしている。 こうなる事は、運命だったんだ。 「………」 カーテンは、おもっていたよりも、分厚かった。遮光性の高いカーテンのようだ。だから、思い切りよく、カーテンを開けて、室内に身体を滑り込ませた。 そうして、部屋に完全に侵入して、ガラス戸を後ろ手で閉める。 あまり音をたてなかったから、青年は、私の侵入に、まだ気づいていないのだろう。もしくは、寝ているのかも知れない。 部屋の横たわったままの身体は、ピクリとも動かない。 あぁ、でも、確実に。今、目の前に、あの青年が居るんだ。 私の気持ちは、どうしようもないほどに高揚していった。 そうなると、もう、我慢が出来なかった。 私の想定では、まず、ナイフをだして、青年を脅すつもりで居たけれど。 実物が目の前にあるのに、そんなまどろっこしいことは、もう、出来なかった。 それに、前日に、生々しい性交を見てしまっていたから、余計に気が高ぶっていたのかも知れない。 「ひ……」 私は、リュックを背負ったまま、横たわっている青年の上から、思い切り覆い被さってしまった。 青年は、目をとじて、まどろんでいたらしい。 突然の私の出現に、驚いて、身体をビクンッと震わせた。 その振動が。また、手から身体全体に伝わってくると、この青年が生きて居るんだ…ということが分かって、余計に私を興奮させる。 「な……な……」 青年は、私から逃れようと、必死で両手をばたつかせ始めた。 髪の毛を振り乱して、動かしている腕が、私の身体に当たる。 私の身体の下から逃げようと、両腕をめちゃくちゃに動かしている。私は、ただ、抱きしめようと思っただけなのだけれど。 抵抗されると、面倒だ。 思ったように腕を回して抱きしめることが出来ないし。 私は、ポケットから、ナイフを取りだした。 ナイフを竿から抜いて、青年の眼前につきつけた。 蛍光灯の下で、ナイフは鈍く光った。青年の黒い目にも、反射するナイフの造形が写った。 「大人しくした方が、利口だぞ」 「あ……」 両手を闇雲に動かしていた青年は、動きをピタリと止めた。 そうして、じっとナイフを見つめた。 「か……金はないんだ…」 青年は、ボソリと小さな声で呟いた。 「本当に…悪いけれど、何も、盗るような物は…ないんだ…」 最初、青年が何を言っているのか分からなかった。だから、私が青年の言っている言葉を理解するまで、少し、タイムラグがあった。 どうも、この青年は、私が、強盗に入った、と思っているらしい。 その事が分かると、私は、おかしくて、我慢しても、笑いが漏れてしまった。 「………」 私の、そのゆがんだ笑みが、奇妙だったのだろう。 青年は、訝しむように私の顔を、じっと瞬きもしないで、見ている。 「こんな、安陳腐なアパートに、盗みにはいるわけがないだろう。 どうせ、盗みに入るんだったら、高級マンションにでも行った方が良いだろう」 「だ……だったら……」 一体、何が目的なんだ? 青年は、言葉を途中で止めて、鈍く反射して、自分の眼前に掲げられているナイフを見つめた。 「私の目的は、君だよ。君以外に、この部屋に、一体何があるんだ」 「お……俺?」 私の言葉に、困惑しているらしい。黒い瞳が、キョロキョロと左右に振れた。 こうなってくると、私の興奮もだいぶと落ち着いてきた。 この青年を組み敷いている、という現実が、頭の中で馴染んでいったのだ。 冷静に、考えることができはじめた、と言ってもいい。突然飛びついてしまったのは、予定外だったが。 こうして、ナイフで脅して組み敷いているのは、予定内だ。 さて、次にすることは…。 「両手をだせよ」 私は、何度もシュミレーションしたことを頭の中に思い出した。 あまり抵抗されては面倒だ。それに、万が一逃げられても困る。 この青年は、私よりも、一回りばかり体格が小さいけれど。窮鼠猫を噛むとも言う。 用心に越したことはない。 「ほら、さっさと両手を出せ!!」 じっと固まっている青年に、やや言葉を荒げて、耳元に怒鳴った。 「は……はい…」 私の目的が、まだ、把握できていないらしい。 でも、とりあえずは、私に従わなくてはいけない、という事は理解したのだろう。 慌てて、両手を差しだしてきた。 「よし…。抵抗するといけないからね…」 長袖のTシャツには、細くて白い手首が続いている。 痩せているせいか、手の甲も骨ばっているが。細い指は、力仕事をしたことがない証。この華奢な指でつかむ物は、なんであれ、高尚な物のような気がする。 私は、仰向けに横たわっている青年の上から、身体を起こした。そうして、背負っていたリュックを青年の左脇に、降ろした。 中から、紐を取り出す。 ビニールの安っぽい紐だ。この青年の、美しい手には、似合わない気がするけれど。 「さぁ、これで、両手を動かせないね…」 青年の両手首を、念入りに縛り上げた。 絶対にほどけない縛り方、というのをわざわざインターネットで調べて、何度も練習しただけに、うまくいった。 ただ、実際に青年の手にビニールテープが食い込んで、白い皮膚がじんわりと充血しているのを見るのは初めてで。 それだけで、私の股間は硬くなってしまいそうだった。 いくら何度も、頭の中で思い描いたとは言っても、実際にするのは初めてのことなのだ。 青年は、仰向けに横たわったまま、縛られた自分の両手首をじっと見つめている。 何を考えているのだろうか。 きっと、私が何をしようとしているのか、いろいろと想像してみているのだろう。 どう、想像しているだろうか…。 それを思い描いてみるのも、楽しい気がした。 私は、次の手順に移るべく、ポケットから、クスリ入れの小瓶を取りだした。 本当に、効果があるのだろうか。さすがに、これは、自分で実験してみる気はしなかった。 それでも、ネットの口コミでも、評判は一番だった。 それに、勤務先の大学でも、この錠剤を使って、散々愉しんだ事がある…と自慢げに話している生徒が居たから。そいつから、詳しく話を聞いている。 私は、小瓶を開けて、手のひらに錠剤を取りだした。 規定量は2錠。 だけど、もしも効かないといけないから…。念のために、3錠取りだした。 「おい…」 仰向けに横たわっている青年の肩をつかんだ。 「………」 背中を支えて、布団の上に上半身を起きあがらせる。 青年は、布団の上にちょこんと小さく背を丸めて座っている。 足が不自由だ、と聞いていたけれど。一ヶ月間、様子を見ている限りでは、何かに捕まれば、立ったり、数歩程度であれば、歩くことも可能らしい。ただ、杖が必要で、歩くと、足を引きずるようになるみたいだけれど。見た目では、生地に覆われた足も、すらりと細長くて白くて。美しい。 「ほら、これを飲めよ」 私は、リュックからペットボトルの水をとりだして、青年の顔の前に、錠剤を突きつけた。 「……は…はい…」 青年の白い手のひらに錠剤を渡すときに、一瞬、ナイフが手首に触れかけた。 私の方が、ドキッとして、ナイフを落としそうになった。 青年の白い肌に、傷が付いてしまうのは勿体ない気がする。 でも、同時に。 白い肌を思い切りえぐって、真っ赤な血を流させたい衝動もある。 白い肌に赤い血というのは、よく映えるだろう。 「さぁ、飲み込んで」 「……はい…」 青年は、躊躇していたが。 私のナイフにチラと視線を移してから、横を向いて、視線をそらせた。 そうして、観念したように、唇の中に、錠剤を指で押し込んだ。 ペットボトルの水をゴクリゴクリと飲んで、のど仏が上下に動いているのを見ていると。 その、首を、思い切り引き裂きたいような気がする。 私も、生唾を飲み込んで、なんとかその衝動を抑えた。 「さぁ、私の目的が、「君」だって、言ったよね」 「はい…」 青年からペットボトルの水を受け取り、キャップを閉めた。 「どういう意味だか、分かる?」 青年の顔をじっと見てみた。 間近で、じっくりと見られることが嫌なのか。 ナイフから、目をそらしたいのか。 青年は、数度、キョロキョロと首を動かしてから、チラと視線をこちらに送るようにして、首を振った。 「分かりません」 「…考えてみろよ。どういう意味だと思う?」 「分かりません…」 「じゃあ、さっき飲んだクスリは、何のクスリだと思う?」 青年は、白いじぶんの喉を指でなぞった。 その仕草を見ていると、私も触れたくなって、ナイフを持っているのとは、逆側の手。左手で、首をなぞってみた。 ピクリと、白い首が震える。 「…分かりません」 青年は、私から視線を逸らしている。 それに、ずっと一緒の問答に、一瞬、イラッときた。 職場の学生が、一瞬頭に浮かんだのだ。 「同じ答えばっかりじゃないか!! 少しは考えてみろよ!! この馬鹿!!」 何を質問しても、「分かりません」少し難しいことを言うと、「訳の分からない授業」という風にしらけた顔をする。 そういう生徒と、一瞬、青年がだぶったのだ。 頭に一気に血が昇って、青年の手の甲に、ナイフを滑らせていた。 「あ……」 白い手の甲に、真っ赤な筋が浮かび上がってくる。 「あ……」 青年も私も、呆然とナイフの動きを見て、その後からにじみ出てくる血に視線が釘付けになった。 「ご……ごめんなさい……」 立ち直りは、青年の方が早かった。 同じ問答ばかりで、私を怒らせてしまった、と思ったのだろう。 そうして、同時に、ナイフは、ただの脅しではない、と実感したのだろう。 自分の手の甲の傷を見つめ、慌てて頭を下げた。 「あ……あぁ………」 私も、本気で傷つけるつもりは無かった。だから、手の甲の彼の傷は想定外で。一瞬、頭の中でうまく理解できなかった。 でも、じっと見ていると、実感してきた。 彼の薄い皮膚を傷つけた、その感触を。 「分かりません、ばかりじゃなくて、何かかんがえないと、ね」 手の甲の傷は、意外と深いのだろうか。 血が、ぷっくりとにじみ出てきて、骨ばった筋に添うように、流れていく。 でも、手の甲を傷つけたくらいで、死ぬことはないだろう。 それに、青年を脅すには、ちょうど良かったのかも知れない。 想定外の事だったけれど。私は、頭の中でうまく理解して、改めて、青年の横顔を見つめた。 「え…えぇと……」 青年は、必死に考えを絞り出そうと、俯いて、瞳をうるうると充血させていた。 「ほら…しらばっくれるなよ。毎週、水曜日にイイコトしているだろう」 私の言葉に、ビクンと青年の肩が震えて、潤んだ瞳が、こちらを見上げてきた。 「え……ど…どうして……」 「ずっと、君を見ていたからね。なんでも知っているよ」 クスクスと、勝手に笑みが漏れてきてしょうがなかった。 青年は、本気でおびえていて。どうして、私がそんなことを知っているのか。本気で悩んでいるらしかった。 答えを教えてやろうか…と思ったけれど。 なんだか、惜しいような気がして、あえて飲み込んだ。 どうして情人との性交がばれているのか。毎週水曜日の、秘密の密会のコトを、どうして私が知っているのか。分からない方が、この青年の興味をひけるだろう。 きっと、今、頭をフル回転させて、どうして、私が密会のコトを知っているのか。必死で考えて居るんだろう。 「そんなにも、私が知っていたことはショックかい?」 「あ……だ…だって…。どうして、義兄さんとのコトを…」 青年が、流れる汗をグイと縛られた手の甲でぬぐった。だから、頬に手の甲を流れていた血がついて、白い肌に赤い色が滲んだ。 「義兄さん?」 「………」 私が聞き直したことも、耳に入っていないらしい。ただ、必死に視線を逸らして、瞼を何度も何度も。普通よりも頻繁に瞬きを繰り返している。 「義兄さん」という言葉に、興味を惹かれた。水曜日の密会相手との間には、何か、事情があるのだろうけれど。 そんなことは、後で追求すればいいか…。 「そんなことよりも、ほら…。クスリが効いてきただろう」 「え……」 私は、座っている青年の、股間に手をやった。 夢にまで見た、青年の性器だ。 いつもは、壁の穴越しに見ていたペニスが。今、すぐに手の届く距離にある。 そうして、今、私は、右手で、そのペニスを、ジャージの生地ごと、つかんでいる。 「あぁ……」 私も興奮してきて、思わず、息がもれた。 「ひ……」 グニャリとした感触が、手のひらに伝わってくる。 これが、この青年のペニスなんだ。こういう感触なんだ…。 自分以外の男の性器なんて、つかんだことがない。だから、余計に気分が高揚してきた。私の性器よりは、一回りばかり、小さい気がする。 「ほら…見せてごらん」 「あ……や…やめ……」 青年が、おびえたように、後ずさろうとした。 でも、両手を縛られて、布団の上に座り込んでいる状態では、逃げようとしても、逃げられるわけがない。 「さぁ、どんなおちんちんをしているのかな…」 「あ……」 私の声に、青年の白い首が、赤く染まった。 言葉で、私の目的を、よりはっきりと自覚したのだろう。 青年の瞳に、一瞬、観念したような諦めが走った。 「見せてごらん…」 私は、ジャージのウエストと、パンツのゴムを一気につかんで、引きずり降ろした。 「ひ……」 青年は、小さく震えるだけで、何も出来なかった。 簡単に、白い太腿が、さらけ出される。ジャージとパンツを足から引き抜くと、完全に下半身は剥きだしになった。 壁越しに見ていたのよりも、もっと、ずっと、肉感的な太腿が私の眼前。布団の上に両足並んでいる。その根本には…。 「あぁ……」 ぐにゃりとしたペニスが垂れ下がっていた。 薄い陰毛の中で、隠れて居るみたいだ。 「おちんちん、みぃつけた…」 「う……」 青年は、私の言葉に自分の萎えている性器を見つめた。 「もう、そろそろ効いてくるだろう…。 大丈夫。そんな怖がらなくても。クスリが効いてきたら、気持ちよくなるからね…」 私は、グニャリとしたペニスに、右手を伸ばした。 手のひらに載せて、顔を近づける。 皺の一本一本まで、じっくりと見つめてみる。 冷や汗のせいか。陰毛の中は、じっとりと濡れている。 「ほら……」 「ひ……」 性器をつかんで、2・3度、手のひらで揉んでみた。 「あ……あぁ……な……」 青年の身体が、大きくビクンッと震えた。そうして、手のひらの中の性器が、確実に硬くなり始めている。 「いい子だ。クスリが効いてきたね…」 かなり強力な興奮剤らしいから。 きっと、青年は自分の身体の異変に。興奮に、ついて行けていないのだろう。 どうして、という困惑した表情が貼り付いている。 「あ……あぁ……」 でも、手の中のペニスを、更にきつく握りしめると、背筋が震えて、青年の上半身が、布団の上に倒れ込んできた。 「あ……なん…で…。チンチンが……あぁ……イク……」 ギュッギュッとにぎっただけで、完全に屹立して、天を突いている。 さっきまで萎えていたのか、嘘みたいだ。 先端からも、ひっきりなしに先走りの液がにじみ出てきている。 「おっと……。イクのは駄目だよ。私は、まだ、何もして貰っていないからね」 「あぁ……だ…だって……チンチンが……熱い……」 私は、横に置いたリュックのポケットから、ヘアゴムを取りだした。 黒色の、ゴムを指でつまみ上げて、青年のペニスの根本にあてた。 「あ……あ……」 陰毛がジャマをして、簡単には出来なかったけれど。 なんとか、根本で縛り上げることが出来た。 黒いゴムが、赤く充血した青年のペニスにぎっちりと食い込んでいる。 「ほら、これでイケないだろう。ね…」 青年の前髪をつかんで、下半身をのぞき込ませた。 「え……そ…そんな……」 青年の顔は、性器からの快感と、興奮剤のせいで、汗が流れて、髪の毛が貼り付いたようになっている。 その様子が。情交の証のような気がして、更に私を興奮させていく。 「や……やめ…あぁ……」 その状態で、青年のペニスの先端を。ひっきりなしに精液を滲み出させている尿道口を、指の腹でクリクリといじった。 「あぁ……やめ……へん…」 青年が、背をしならせて、布団の上で大きく跳ねた。 「あぁ……で……でるっ……あ…」 その様子が、なんだか、飛び魚が水面を飛んでいる姿みたいだ。 汗で全身が光って、綺麗だ。 しかし、視線をずらして、下半身にあてると。 黒々とした陰毛の中に、赤く屹立した、生々しいペニスがある。 白い首筋と、股間の赤黒い色とのギャップが。 1人の身体の中に、こんなにも異なる部分があるのだろうか。 ゴクリと。 私は、喉奥からにじみ出てきた生唾を飲み込んだ。 「あぁ……」 私も、見ているだけでもたまらない。 股間が、熱くなっていく。 白い首と、赤黒い股間を繋いでいる上半身も気になって。 来ていた白いTシャツを、荒々しく左右に引っ張った。 簡単に、Tシャツの生地がビリビリと音を立てて裂けて。赤く上気した、白い胸が現れる。 「綺麗だ……。白くて……綺麗だ……」 指が、自然と胸の上を這っていく。 全裸になってしまった青年の肢体が、今、目の前にある。 今まで、あんなに遠かった身体が。 「ははっ……」 こんなにも簡単なコトだったんだ。だったら、もっと早くやっておけばよかった。 今まで、壁越しにじっと見ていた時間が。嘘のようだ。 もったいなかった。 「あぁ、チンチンがこんなに硬くなって。おかしいな」 くねらせている身体から、突き出すように勃ちあがっているペニスが。なんだか、見ているとおかしいような気がしてきた。 それだけが突き出ていて。 「ナイフで切ってしまおうか…」 ナイフを再び、掴みあげて、青年のペニスに刃の部分を押し当ててみた。 「ひ……や……やめ……」 「切っちゃおうかなぁ…」 言っていると、本当に、切ってしまった方が良いような気もしてくる。 視線をずらして、青年の顔を見ると、両目いっぱいに涙を溜めて、目を剥いていた。 恐怖と、快感がない交ぜになって、頭の中が興奮状態なんだろう。 「お…お願い……き…切らないで……」 青年は、上半身を丸めて、半分起きあがるような姿勢で。 必死で私の手のナイフを見つめていた。もちろん、ナイフが当たっているペニスも。 「切らないで欲しい?」 青年が、真剣に何度もうなずいている。 「お……お願い……」 「だったら、きちんと、お願いしてみろよ。「僕の汚いオチンチンを切らないでください」って」 「あ……ぼ……僕の汚い……オチンチンを…切らないで…ください……」 青年が、細かく息をゼイゼイと吸いながら。必死で言葉を紡いでいる。 苦しそうで、あふれ出る涙が愛おしく感じた。 「でも、どうして、オチンチン、こんなに飛び出ているのかな…」 私が、ナイフの先で、ツンツンと性器をつついた。 ビクンッとその感触にも、身体が震えている。 ペニスにナイフを当てることで、完全に、この青年を支配できているようで。 気分がいい。 私のナイフを持つ手一つで。青年が、思い通りに跳ねたり、ビクついたりする。 「ぼっ……勃起している…から……」 青年が恥ずかしそうに呟いた。視線を逸らして、首筋から、胸、腹まで。全部が紅潮している。 「そうだね…。どうして勃起しているのかな…」 「き……気持ち…いいから……あ……」 クスリの興奮剤のせいで、身体の中を、快感が渦巻いているのだろう。 ペニスの根本をゴムで縛っているから、放出することが出来ない。 「あぁ……あ……で……でるっ……」 ビクビクッと身体が震えて、結わえているペニスが震えた。でも、震えるだけで、精液がでることはない。 「あ……う…苦しっ……」 見ていると、こちらも気持ちが高揚してくる。 精液を放出することが出来なくて、快感が身体の中を何度も渦巻くというのは、どういう感触なんだろうか。 「あ……あぁ……」 青年の息はゼイゼイと、喘息患者の息みたいで。 苦しそうなのが、また、見ていると快感を催してくる。 私は、ジャージをずらして、自分の性器を青年の前に突きだしてみた。 「あ……」 「君を見ていると、私も興奮してくるよ。ほら、君のせいで、私のオチンチンが、こんなになっちゃったよ」 彼の前髪をつかんで、左頬にペニスを擦りつける。 私の先走りの液が、頬にべったりとついて。綺麗な顔が、汗と体液で汚れていっている。 でも、その行為は、壁越しに見ていた、聖なる天使を、地上に引きずり降ろすようで。 そう考えると、たまらない快感が、頭の先まで突き上げてきた。 「舐めさせてあげようか?」 「あ……」 壁越しに、青年が、男のペニスをくわえている姿を、何度も見たことがある。 青年の口の中は、どんなだろうか…。 今まで、何度となく想像してきた。 「舐めさせてくださいって、おねがいしてごらん」 「あ……」 青年が、躊躇したように、一瞬、左右に瞳を揺らす。
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